武器と防具
「ふおおおっ……これぞファンタジーッ!!」
多種多様な形状の剣、槍――その他、様々な武器が店内に溢れていた。
実に少年心をくすぐられる光景だ。
強面の店主にジロッと睨まれながらも、気にせず店内を見て回った。
「――良さそうなものはありましたか?」
「うーん……なんか、どれでもそれなりには使えそうな気がするんだよなぁ」
剣はおろかナイフすら持ったことがないというのに、使い方がなんとなくわかるというか。
もしかすると<神器適性>の恩恵かもしれない。
「それもまた難儀な話ですね」
「選びづらいぜい……」
「武器の種類はともかくとして、選択肢は3つでしょうか。高くて良質なもの、一般的なランクのもの、間に合わせのもの」
予算は残金のほぼ半分の金貨10枚。
一番高い剣でそれくらい――100万リーフ。日本円で1000まんえん。
安物だと1万リーフもしない。
「んー、強い敵と戦うなんてしばらくないだろうし……防具も買わないといけないしなぁ……」
俺としては防具優先――といきたい。
さっきの狼だって、はっきり言ってリーンの魔法なし、ひとりで倒せと言われれば絶対に躊躇するレベルだ。
攻撃を当てさえすれば勝てるとはいえ、牙を剥き出しに襲ってこられたら怖すぎる。
「防具に関しては私に考えがありますから、予算は武器で使ってしまって構いませんよ」
「……そう?」
ということなので、それを前提に見ることにする。
が、そもそも武器の良し悪しやら材質に関しては全くの素人。値段以外の判断材料がない。
日本人としてロマンを追うなら日本刀的なデザイン一択だが、それっぽい剣は残念ながらなかった。
使い手のいない謎めいた武器なんてのも見当たらない。
こうなると素直に店主に見繕ってもらうのが常道だが……。
店主の視線が好意的じゃないんだな、どう見ても。
美女を連れている嫉妬の視線ならいいんだが、ひょろいガキなんかお呼びじゃねえんだよ、だと困る。
木の棒でも使っとけ、になりそうで――いや、それもあながち悪くないかもしれない。
低ランクの今は、刃物の役割は確定ダメージ源ではなく、トドメと割り切るべきかもしれない。
弱い魔物なら、木剣でも1ダメージくらい与えることができるはずだ。
「ナイフにしようかな。トドメ用に。サバイバルにも使えるしさ。あと、ちょっとよさげな材質の木剣を」
「そうですね、それでいいのではと思います」
「リーンは何か買う?」
「私は特には。魔法で十分です」
「でもさ、魔法が効かない魔物とかいたりしない?」
「魔法が効かないというのは抵抗力の問題ですから、それを上回る出力で撃てばいいだけです」
上回れない相手は存在しないと言いたげだ。
「魔法を反射する装備とか……」
「装備にかけられた付与魔法を解除してしまえばいいでしょう」
――こ、この天使やばい。魔法面がチート過ぎる。心強いけども。
「それでも何かと仰るのであれば、ボウガンを。相手によっては、アカシ様がお使いになればいいかと思います」
「んー、じゃあそうしよう」
硬くて軽い木剣とボウガンを選んで、店内に睨みを利かせる店主がいるカウンターへ向かう。
「これとこれ、あとチョー切れ味がいいナイフが欲しいんですけど――」
「ほお。切れ味のいいナイフねえ」
やたらとガタイのいい頬に傷ありの店主が見下ろしてくる。
元冒険者とかいう肩書きでもあるのか、威圧感がヤクザ以上だ。
……実際にこの世界の住人の戦闘力はヤクザ以上であって何ら不思議はないが。
「え、ええ、こう、ドラゴンの寝首をかけそうなのがあると、うれしいなーっと……」
「――ドラゴン? かはっ、オメー冒険者になんのか?」
「なってきたとこです」
「新米冒険者ってぇわけかい。――見たまんまだがな?」
「でしょうねえ……」
こっちの世界の人から見たら、現代もやしっ子の俺なんてヒョロイだろうしなー。
リーンも見た目の印象だけで言うなら、どこかの貴族のお嬢レベルだ。
「ふん、まあ考え方はわるかねえよ。冒険者は生き残ってナンボの世界だ。何も魔物と真正面からやり合うこたぁねえんだからよ」
「ごもっとも。真正面から正々堂々なんてのは騎士に任せておけばいい、と」
「は、わかってんじゃねえか。魔物と戦うときぁ卑怯なくれえでちょうどいいってなもんだ。で――予算は?」
「置いてあるナイフならどれでも買えるんですけど、いかんせんド素人なもんで……」
「ふむ、だったら……」
店主は頷き、カウンターの下を漁り始めた。
「――いいか新米ボウズ? ナイフはよっぽどの魔法効果でもない限り、主武装にゃなんねえ。リーチ的に魔物と殴り合いするようなもんだからな」
「確かに」
相手が眠ってなければナイフで戦うなんて、絶対なしだ。
「けどな、ある一点において他の武器にゃねえ強みがある」
出てきたのは荒削りというか武骨な形状のナイフだった。
刀身から柄まで一体で妙に肉厚、けっこう大きな反りもある。
乳白色と銀色の中間のような色。材質は金属ではなさそうだが――。
店主はニッと笑って、露わになったデカイ犬歯に親指を向ける。
「こいつぁ、赤龍の歯から削り出されたナイフだ」
「うはっ……ドラゴンッ!?」
「わかっか? 武器として小型だからこそ、魔物の素材をまんま使えるんだよ」
そりゃ、剣になるような歯とか爪とかどんだけ巨大な生物なんだって話ではある。
「反りが小せえヤツなら、槍の穂先なんかにも使えねえでもないがな」
「このナイフのだと、槍にしてもうまく突き刺さらないでしょうねー……」
クワみたいな振り方だといけそうだけど、突き刺さって抜けなくなるのがオチっぽい。
「赤龍と同格以下の龍種ならコレでヤレるだろうよ。そこまで近づけて、なおかつ刃渡り以上のぶっとい首を落とせればの話だがな?」
赤龍か――名前的にも欲しい、けど。
「さすがに……高そうっすなぁ」
店頭に出してなかったのだから、もちろん高級品だろう。
「30万リーフだ。いっちゃん高いナイフは20だろ、それが買えるってーなら、手が出ねえほどでもねえんじゃねえか?」
「意外と安い気が……ちなみに、なんでです?」
「龍種の素材――牙やら龍鱗やらを使った武具は素のスペックはいいんだがな、問題がひとつあってな? 付与魔法やら補助魔法がかけられねえんだよ」
付与魔法――エンチャント。
さっきリーンがちらっと言っていたが、追加効果とか属性とか魔法内蔵とか、そんなのだっけ?
補助魔法はその効果が一時的なものだろう。
「そのせいで、人気はまあイマイチってとこだな」
「えー、もしかして……体のいい在庫処分とか?」
「ちげぇよ。言ったろーが、魔法効果がねえと主武装になれねえってよ。逆に言や、付与魔法かけて懐剣にしとくのがフツーなんだ」
「な、なるほど……」
いざというとき、障壁張れますってなナイフの方がただ切れ味がいいだけのナイフより有用だろう。
「だいたい、オメーの注文は切れ味だったろうが。そこは抜群だぜ、コイツは。頑丈でもあるしな」
「オッケーっす、買いますっ」
鞘とボウガンの矢で調節して、トータルでちょうど金貨4枚。40万リーフ。
さらっと400万円の買い物をしてしまった。
「車を即金で買ったみたいなもんか……?」
「――おい」
「はい?」
「マジにドラゴンに特攻して、後ろの姉ちゃん悲しませんじゃねえぞ?」
「う、うぃっ、肝に命じておきます」
* * *
「良い買い物でしたね」
「ああ。なんつっても龍だしな。しかも赤い龍とか愛着湧くわ。まだ使ってないけどさ」
俺はベルトに着けた鞘をぽんと叩いた。
「あとは防具だけど……」
リーンを見ると、彼女は薄く微笑む。
「アカシ様は死なないのですから、防具はいらないのでは?」
「まてまてまてっ、いらないわけないだろっ! 痛いのはいやなんだっつのっ! つーかそれがお前の考えとやらかっ!?」
「冗談はさておき――」
「冗談かよっ」
「防具については付与魔法で補うことができます」
リーンは付与魔法で今の服を強化済みらしく、並の鎧よりよっぽど防御力が高いらしい。
具体的には、さっきの店の一番高い剣でも斬れないレベルだそうだ。
赤龍のナイフで試していいというので試してみたところ、傷ひとつつかなかった。……え?
リーンが使った強化系の付与魔法は、金属より繊維との相性がいいのだとか。
地上では服に付与魔法をかけることはできないとされているが、それは単に魔力が足りないせいで失敗しているのだという。
「付与魔法は――付与の種類にもよりますが――基本的には魔力によるメッキのようなものですから、素材の表面積に比例する魔力が必要なのです」
「はー、そういう概念なら、服はすげー量の魔力がいりそうだな」
布を形作る繊維の強化――元の世界で言うなら、綿がカーボン系の繊維になったみたいなもんだろう。
さらに、付与には防御力アップなどに加えて、汚れないとか防臭といった効果のものあるそうだ。……なにそれずるい。
「……それ俺の服にもかけられるのか?」
「そのつもりです――ただし、昨日の日記帳を埋めていただければ」
「……わかった、善処する。でも報酬は前払いで頼むな」
「はい。では、後ほど宿にて」
それでも、見栄え的に冒険者っぽくするために、俺もリーンも胸当てだけは購入した。
これも強化して装備することにする。
「あと、別払いで木剣とナイフにも付与をしましょうか?」
「え、ナイフにも? 龍種はできないって言ってなかった?」
「服と同じ理由ですよ。使用者の魔力出力が足りないだけです」
龍の素材が生身の龍ほどに頑丈なら、加工なんてまともにできない。
それが――簡単ではないものの――できてしまうのは、素材には魔力が通っていないからだ。
龍はスキルか自意識でかは不明ながら、頑強といった補助を自身に与えているわけだ。
だから実はこの赤龍のナイフはそのままでは赤龍には通じないらしい。
武器屋の親父さんは嘘を教えたわけではなく、単に知らなかっただけだろうとリーンは言う。
この1000年、龍種を打倒した冒険者など存在しないのだから仕方ない、と。龍、やっぱり恐ろしい子……。
ちなみに、翼竜などの亜龍種にならこのままでもなんかいけそうな気がするー。
「へえー……それにしても色々知ってるよな、ずっと天界にいたんじゃないのか?」
「天使や悪魔のみが扱える魔法や知識などは天界へ運ばれたのです。魔法大全とでも呼ぶべき本もありますしね」
何はともあれ、これで装備は整った。
明日からは冒険者としての日々が始まる……はずだ。




