物語は続く
自分の策が失敗したのを知って怒り狂ったのは、強欲な商人イドラです。
彼は、善良なハッサンを問い詰め、雪の降らせ方を聞き出すと、直ちに自分の持っているラクダを残らず集めました。
イドラは数千頭ものラクダを使って雪を降らせて、それをバグダートに運ぼうと考えたのです。バグダートから離れた低地にラクダを連れると、そこでぐるぐる回して、熱を生み出しました。
なにせ、ラクダの数が、ハッサンの時とは桁が違います。ものすごい雪が降って、辺り一面真っ白になりました。
イドラは大喜びです。これだけの雪をバグダートに持ち帰れば、どれほどの富になるのか分かりません。イドラの名は永遠に賞賛されるでしょう。
あまりに喜び、飛びはね、踊ったため、イドラはくたびれてしまいました。一眠りした後、雪をバグダートへ持ち帰ろうと決めて、雪の上で横になりました。
世界がバランスをとって、気温が戻り始めても、イドラは起きませんでした。
雪が少しずつ溶けていくのにも気付かず、眠りこけていました。
イドラがいる低地はワジ(涸れ川)でした。
砂漠には多くのワジが存在します。表面が固くて、平坦で、上を歩いても足が砂に埋もれることがないため、道として重宝されるのです。
ワジは、大昔に川であった名残です。
砂漠はからからに乾いていますが、永遠に雨が降らないというわけではありません。十年に一度、あるいは百年に一度、雨が降って、ワジは川としての役目を取り戻すのです。
砂漠に大量の水が現れますと、どうなるか?
水を吸収してくれるような植物はありません。砂は、水があっても固まるだけで、その内部に水を止め置かないのです。結果、降った水は、そのままの量で低地を目指すのです。
地平線まで積もった雪の雪解け水が、ワジの一点目指して流れ込みました。
つまりは、大洪水です。
砂漠では乾きで死ぬ者よりも、溺れて死ぬ者が多いのです。
イドラはやっと目を覚ましました。
辺りには誰もいません。ラクダも、ラクダ使いも、不穏な気配を感じて、主人を置いて逃げた後でした。
背後で大地の裂けるような轟音を聞いて、イドラは振り返ります。そして、迫る泥の濁流を見ました。
イドラは悲鳴を上げますが、たちまち悲鳴ごと濁流に飲み込まれてしまいました。
キャラバンの男は砂を見て、風を見て、星を見ます。
しかし、イドラは欲にばかり目がくらんで、周りを見ていなかったのです。見るべきものを見ていなかったため、命を落とす羽目になったのです。
ちなみに、バグダートの民は近所に新しいオアシスができているのを知って、喜びましたとさ。
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いかがでしたでしょうか?
ふむ。そのお顔から判断しますに、それほど満足いただけなかったようですな。
ご安心ください。今のは、ほんの前座。
私の持つ物語の数は、星の数よりも多く、その中には太守様を残り一生楽しませるに足るものがいくらでもございます。
次は、一つの船に乗った、黄色い肌の男と、白い肌の男と、赤い肌の男の話でございます。
お聞きください。
砂漠の夜は長くてございます。




