メインエピソード2【盤上の改革、監査チーム発足】㊸ / 灰咳奔走編
21:00投稿に間に合わず、申し訳ありません。
トラブルにより、当日投稿に手間取ってしまいました・・・
待合室への案内を続けていると、列の後方から怒気が籠る大声が響き渡る。
…来たか?
喧噪により乱れる列に視線を向ける。そこには、不機嫌な顔つきで、白衣の侍従を引き連れた副ギルド長の姿が見えるのだった。
「…院長はどこだい?案内したまえ」
近くの職員を捕まえ、眉間に皺を寄せたまま、横柄な物言いで案内を命令する。
捕まった職員は、雷が落ちるのを回避しようと、足早に案内する。
侍従の中には、ハルトとジェイルの姿も見える。
彼らに視線を向けていれば、彼らもまた、何かを探すよう周囲を見渡す。
そして、視線が交錯する。こちらが小さく頷けば、彼らも頷き返してくれる。
種を植え、水は蒔き終えた。あとは芽吹くのを待つのみだ。
何食わぬ顔のまま、俺は案内を続けるのだった。
列の並びに陰りが見られたころ、案内を命じられた職員が息を切らして、受付に向かって駆け寄ってくる。
何事か、と気遣う同僚に対し、息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。
「れ、レオンさんという方は居ますか?た、短期出向扱いで、こちらに居るはずだと…」
息切れした職員の言葉を聞いた同僚は、首を傾げる。連絡が届いていなかったのか、俺が此処にいることを把握していなかったのであろう。
案内を他の職員に引き継ぎ、受付に向かう。
「…私の名前が呼ばれたと思いますが、何か御用でしょうか?」
息切れしていた職員は顔を上げて、呼吸を整える前に言葉を発する。
「い、今すぐ院長室に向かってください!薬師ギルドの副ギルド長が貴方に聞きたいことがあるとして、呼んでいます」
そういうと、職員は両手を床について、へたり込んでしまった。
…釣れたな。
俺は表情を変えぬまま、職員に礼を言う。
正念場だな。
俺は懐から取り出した石パンを齧りながら、ゆっくりと院長室に向かうのだった。
瞳の色を青に染め上げて。
「…さて、説明して貰えるかね?」
苛立ちを堪えるよう、平静を保とうとしているが見て取れる。
だが、ほんの少し空気を継ぎ足せば。必死に繋ぎ留めていた堪忍袋は、いとも簡単に破裂することになるだろう。
院長とのやり取りで興奮していたのか、汗ばみ、紅潮した顔付きとなっている。
副ギルド長は、前置きも何も無く、把握しているという前提で、俺に諮問を行うのだった。
―申し訳ありません。主語が無いので把握できておりません。説明とは何に対してでしょうか?
「惚けているのかね?何のために私が此処に来たのか、理解しているだろう?」
―さて?何のことでしょうか?私はそちらでの業務に区切りがつきましたので、こちらで業務を行わせていただいておりました。
「誰が此処に行けと言った!…まぁいい。本題は其処じゃない」
―では、何についてで?
「…確保した素材の使用用途について、症例者に知れ渡っているのでは?という疑いがある」
―申し訳ありません。使用用途が知れ渡って、何か不都合な点があるのでしょうか?
「君が気にする必要はない。混乱を避けるための処置だ。これは薬師ギルドと施療院の連携により決定したことだ。にもかかわらず、漏洩の疑惑が上がっていることが問題なのだよ」
―承知致しました。情報漏洩が懸念事項であることを理解しました。それで、私に何を説明しろと?
「…結論から言おう。私は君が漏洩しているのでは?と疑っている」
―…根拠を聞いても宜しいでしょうか?
「君がウチで働き出して、数日のうちに漏洩の疑いが挙げられている。今までの経緯より、君の関与が疑わしいのだよ」
―私が関与した、という明確な証拠が無く、犯人扱いされるのは心外ですね。勿論、私は漏洩に関わっていないですが。
「では、関与していない、という証拠は提出出来るのかね?」
―やっていないという証拠の提出は、悪魔の証明では?
「つまり、関与を認めると?」
―反論と言い訳を同列に扱い、指摘の許諾とするのはいささか暴論になるのでは?
「…君は私に何を言っているのか、理解しているのかね?」
―十二分に理解しているつもりですが?問われた内容に対し、簡潔に、かつ明確に答えていると自負しております。
「その物言いが生意気なんだよ!」
―失礼しました。言葉を着飾るのに、慣れておりませんので。
「…どうあっても、関与を認めないつもり、ということだね?」
―やってもいないことをやったと認める。冤罪を被るつもりはありません。
言葉尻を捕えさせず、かつ煽る内容で返答を繰り返す。
憤怒と焦燥が注ぎ込まれた副ギルド長の器は、破裂し、砕き散る寸前まで追い詰められていたのであった。
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俺は瞳を青から緑に染め直し、副ギルド長に言葉の刃を突き付ける。
「そもそも、ですが」
「なぜ素材の使用用途が知れ渡ることを懸念されているのでしょうか?」
「確保した素材は、『灰咳』の治療に用いることを共有している認識です」
「それが症例者に知れ渡ったところで、何も影響は出ないと認識しておりますが、何か見落としがありましたか?」
「それとも、重要な共有事項が存在し、周知されていないと?それならば早急に周知徹底していただきたく」
「知る必要は無い?」
「ということは、重大な共有事項は存在するということで、理解しました」
「知る必要が無い、ということは、知られると困る、という方向にも捉えることが出来ますが、それについては?」
「成程。知られて困る事などないと。では、自発的に調査しても、問題無いということで、宜しいでしょうか?」
「何故止めるのでしょうか?何か問題でも?」
「いえいえ、通常業務に遅延は発生させません。飽くまで自発的な調査になりますので、時間外で行わせて頂きます」
「もちろん、調べて判明したことは、関係者全員に周知させて頂きます。漏れないようしっかりと」
「おや、顔色が良くないですが、大丈夫でしょうか?具合が良くないようでしたら検査されては?ちょうど此処は施療院ですし、診断にはうってつけですよ?」
「…えぇ、そうでしょう。自身が『灰咳』に感染する訳にはいかないですよね」
「何も知らない症例者に混ざることで、自身が『灰咳』を患ってしまえば、どうなるのかは、貴方が一番御存知と思われますから」
「何を知っているのかって?何を知っていると思います?」
「知られて困るようなこと、無いんですよね?」
「…例えば、そちらに居る、ジェイルさん」
「彼が調達調整していただいた素材の数々ですが、こちらの使用用途が実は…とか?」
「…例えば、そちらに居る、ハルトさん」
「彼が研究していた『灰咳』の治療薬の成果について…とか?」
「…例えば、施療院院長」
「施療院にて診断に用いる『診水晶』。こちらの用途が、後ろ暗い内容を孕んでいる…とか?」
「何でも、ではありませんよ」
「知っているのは、ほんの僅かです。おや、どうしました?本当に大丈夫ですか?」
黙りこくり、憤怒による紅潮から、困惑と恐怖により蒼白に変化した副ギルド長に、追撃の刃を押し付ける。
「おや?何やら外が騒がしいですね?」
「見てください!施療院の周りに、人が集まっていますよ」
「聞こえますか?『独占を許すな』、『横流しを許すな』、『適切な治療を求める』とありますね」
「どういうことでしょうか?先程懸念していた内容が、症例者側に漏洩しているようですね?」
「このままでは、こちらに乗り込んでくるかもしれませんね?」
「そうなった場合、理由を説明して、引き下がってもらえるでしょうか?」
「冷静さを失い暴徒と化そうとしている症例者を、口八丁で丸め込めるとは思えませんが」
「今更、犯人捜しをしている余裕、ありますか?」
「必要なのは、この場を乗り切ることでは?」
「まだ、決断が出来ないと?」
「私は言いますよ?貴方の命令に従った、と」
「いやいや、惚けないでください。貴方の言葉で、『ハルトさんの指揮下の元、第三作業エリアで、誰にでも出来る作業を、継続実施する』という内容で合意を頂いておりますよ?」
「これ、何に見えます?そう、『音水晶』です。音声を録音出来る、便利な道具なんですよね。先程の言葉に対する合意、お聞きになりますか?貴方も良く御存知ですよね?」
「それと、治療薬の成果について、詳しく纏めた資料がこちらに」
「成分表と効能結果になります」
「作業エリアで、こちらの作業を阻害する不可解な事象が起きていたのですが、なんとか間に合わせることが出来ました」
「おや、どうしました?資料に何か誤りでも?あなたも研究者の端くれならば、判る筈では?数字は嘘をつきませんからね?」
「へたり込んで、呆けないでください。そして、指示を出してください」
「症例者達の前で、説明を求められたら、私は正確に事実を述べます」
「その時、どうなるか、想像が出来ない訳では無いですよね?」
「大丈夫です。貴方が指示し、治療薬を研究させた、ということは紛れもない事実なのですから」
「症例者にとって、耳障りの宜しくない事実を小さくし、都合の良い事実を大きく周知し、鎮火させましょう」
「そうですね、私に委任して頂けるのであれば」
「…答えを留保すればするほど、暴徒となり、暴動に繋がる懸念が大きくなりますからね」
瞳の色を緑にしたまま、俺は副ギルド長の答えをじっと待つのだった。
■執筆裏話
ロジックペイによる、長台詞となります。
相手の反応を想像しながら、お楽しみいただけると幸いです。
評価、感想、御待ちしております。執筆のモチベーションアップに繋がりますので!




