サブエピソード6【効率厨レオンの業務カイゼン2:5Sとは?再編、処分、スリム化、精査、掃討③】
4話連続更新の3話目です。
「…以上が改善内容の概要となります」
部長に説明した内容をより詳細に、そして改善に必要な人員と推定時間を備え付けられたホワイトボードに書き出します。
説明が進むにつれ、職員たちの態度は真剣味を増していきます。
説明当初にあった冷やかしは鳴りを潜め、建設的な意見や詳細説明を求める声に終始するようになりました。
一枚目のメモ用紙には、「倉庫の現状説明」が記されています。
現在の倉庫が整理整頓出来ていないことを告げます。
納入時にどこに仕舞えば良いか決まっていない為、乱雑に置いているのではないか、出荷時に意図した素材を見つけることに多大な労力を使っているのではないか、と問題点を指摘します。
心当たりのある職員はバツが悪いのか、苦笑いを浮かべました。
二枚目のメモ用紙には、「継続による発生し得る損失」と「改善により見込める収益」が記されています。
資材管理部としての損益について告げます。
現状の帳簿と倉庫の管理では、有るべき価格での取引が行えていない旨を指摘します。
また、類似素材の混在出荷、及び誤出荷の危険性も併せて指摘します。
それもそのはず、納入された素材の価格管理が正確に出来ていないことにより、出荷対象の素材の価格が、納入時の価格と一致していないからになります。
そして、素材ごとの個別管理も行えていません。
それにより、本来高額で出荷できるはずだった素材を低額で出荷したり、出荷先からのクレ―ムが発生する恐れがあることを告げるのでした。
心当たりのある職員や、クレームを想像する職員は、顔を表褪めさせ、首を上下に振るのでした。
三枚目のメモ用紙には、「ギルド員の負荷軽減とモチベーションの向上」が記されています。
先に告げた二点を改善することで、探す手間が軽減することと、仕舞う場所に悩まなくて済むこと、正確な帳簿管理による出荷でギルド内の利益配分が向上し自身の給与に対する反映されるであろうことを告げます。
叱責に近い指摘ばかり受けていたため、自身たちが楽になることと、給与が上がるといった好材料の説明については、全ギルド員が喜色を浮かべるのでした。
四枚目のメモ用紙には、「現約策定による再発防止」が記されています。
口頭で説明し、実践させても、時間経過により蔑ろになるのが、人の常です。
その為、明確な規約を策定することにより、「ルールだからやらなくてはならない」という原則を設ける必要があると告げます。
何故やらなくてはいけないのか、と思った際に、やらなくてはならない理由が明確であれば、従わざるを得ないからです。
それでも反発してやろうとしないのであれば、それは職務怠慢と捉えて良いでしょう。サボり癖がある者や、うっかりミスをしがちな者たちは、居住まいを正して聞き入るのでした。
そして最後の、五枚目のメモ用紙には、本改善を行う上で、以下の内容で必要な人員と作業時間が記されていました。
倉庫に仕舞われている素材を品目別に選り分け、日付順に整理すること。
整理した素材を新たに帳簿に描き起こし、品目と日時、納入価格を明確にすること。
素材状態を確認し、出荷不能と思われる素材については破棄または再利用出来ないかを調整すること。
倉庫を掃除し、再納入する上での配置決めや棚作りにより収容スペースを作成すること。
各職員一人一人が、何が必要で、何をやるべきか、他人事ではなく、自身のことであると、自覚し始めるのでした。
「さて、説明を終えた訳ですが」
興奮が冷めやらず、隣り合う職員同士での盛り上がりに対し、冷や水をかけて落ち着かせます。
「彼から周知された通り、本日の業務改善の提案は、部長の指示と同様です」
事前に部長の許可を得ていると付け加え、レオンは一旦言葉を区切り、最前列の座っていた担当者に視線を移します。
再びざわつき始め、担当者に視線が集まります。担当者は居心地が悪いのか、身を縮こませていました。
ざわめきが静まるに合わせ、レオンを静かに語ります。瞳の色はいつの間にか黒に戻っているのでした。
「彼は正しく、誠意ある行動をしました。しかし、悲しいことに、それに応えていない、応えようとしない職員が居ます」。
「はっきり言いましょう。これは職務放棄であり、職務怠慢です」
「本業務改善内容に沿って行動をしない、または反発してのサボタージュを見受けましたら、即報告願います」
「庇いだてが分かりましたら、同罪と見做します。えぇ、例外は認めませんので、ね」
誰も、何も言えなくなります。レオンの態度より、部長の後ろ盾を得て、本気である旨が伝わってきたからです。
充分に染み込んだことを確認すると、手を叩き、雰囲気を新たにします。
「では、始めましょう。割り当てた作業に、それぞれ取り掛かってください」
各職員は自身に被害が及ばないよう、蜘蛛の子を散らすように会議室を後にします。
周囲に合わせてこっそりと退室しようとした担当者の肩に、三度レオンの手が置かれます。
「どこに行こうというのですか?逃がしませんよ、絶対に、ね?」
逃げ場がないのか、救いの手は差し伸べられないのか、と担当者は絶望に染まるのでした。
各自、作業を進めます。
ある者は倉庫より素材を持ち出し、ある者は帳簿の再記載、ある者は掃除と収納スペース作成のための棚作りと、忙しなく動いていることが分かります。
急を要する業務に従事していた職員は、業務が完了すると、レオンの元にやってきます。
そして、説明会に参加できなかったことを詫び、指示を受けて作業に参加し始めるのでした。
その様子を、一部の職員はにやにやと嫌らしい笑みを浮かべながら眺めています。
「おいおい、そんな手つきで大丈夫か?」
「もっと腰を使え腰を!」
中には余計な口出しにより、作業が止まることもありましたが、周囲の者が執り成し、事故発生には繋がりませんでした。
自身たちの煽りに反応しないことに面白みが欠けたのか、やがて仲間内での雑談に興じるようになります。
その様子を、レオンは冷たく観察し、心の帳簿に書き連ねていくのでした。
定時を大きく回り込んだ頃、ようやく目途が着き始めました。
普段ならば、残業と言うのは通常業務を効率よく回せない者の無駄な作業だ、と切って捨てるレオンですが、今回に関しては何も言わず、むしろ率先して作業に従事しています。
レオンは担当者を呼び止め、書き留めていたメモを渡しながら、何かを耳打ちします。すると担当者は黙って顔き、メモを懐に仕舞い、その場を離れるのでした。
その後も作業が行われ、皆の腹の虫が大騒ぎし出した頃、部長が様子を確認に現れました。
「皆、御苦労。腹が減っているのではないかね?」
そういうと、部長の後ろに控えていた担当者が両手いっぱいに抱えた軽食を空いていた机に広げます。
「簡単なモノで悪いが、私からの差し入れだ」
「話によれば、目途がついているんだろう?」
「大変だと思うが、資材管理部の改善の為、頑張ってくれたまえ」
あと数往復もすれば終わる、と言ったところでの、部長からの差し入れと激励です。
疲労していた職員たちは歓声を挙げ、軽食に群がります。中には詰め込み過ぎて咽る者も居ましたが、愛嬌の範囲でしょう。
にわかに活気づく職員たちを、サポタージュ組の職員たちは苦い表情で見ています。彼らにしてみれば、部長が様子見に来ることが想定外だったからでしょう。
自身たちは年配だ、役職持ちだ、だから作業をしなくても問題無いんだ、という意味不明な特権意識をかざし、説明会はおろか作業にも参加していませんでした。
作業後に何か問い質されたとしても、自分たちはやっていた、周りが見ていないだけだ、と白を切り、逃げ切ろうと目論んでいたのでしょう。
しかし、部長が現れ、自身たちが何もしていなかったことを、今、この場で指摘されることに対しては、言い訳できる余地がないことを理解していました。
如何にこの場を切り抜けるか、サボタージュ組は無い知恵を振り絞ろうと、額を突き付け合わせるのでした。
軽食を食べ終え、一息ついたころ、サボタージュ組の一人が声高に言い放ちます。
「さぁもう少しだ!皆、力を合わせて頑張ろう!」
突然挙げられた声に、周囲は戸惑いと非難の視線が向けられます。
しかし、サボタージュ組の残りは敢えてその視線を無視し、そうだ、頑張ろう、と合いの手を入れ、そそくさとその場を離れていきます。
サボタージュ組が部屋から出ていくと、部長がレオンに歩み寄ってきました。
「彼らが決算対象かね?」
レオンは黙ってきます。それを受け、部長は大きく溜息をつきます。
「私のことを軽く見ているのか、それとも、君のことを甘く見ているのか。何にせよ、撤回はせん。存分にやりたまえ」
部長の後押しに、レオンは力強く頷くのでした。
■執筆裏話
余計な口出しをせず、モチベーションアップの為に自腹で差し入れをしてくれて、なおかつ責任を取ってくれる。
こういう上司に憧れます…
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