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サブエピソード5【効率厨レオンの業務カイゼン1:発言には責任を持ちましょう③】

3話連続更新の3話目です。


「結論から申し上げますと、研修プランを改善する必要は、全くもってありません。むしろ、健全に稼働しているという認識です」

まず、結論を突き付けました。呆気に取られている不良債権を尻目に、レオンは静かに語りだしました。

「私が提案した研修プランの受講前後における、課外クレーム、及び書類差戻し比率を参照してください。件数が減少しているのは明らかです」

「職員の稼働時間についても、残業比率が下がっており、ギルド内における効率化が図れており、人件費削減に貢献していることは明白です」

「そのうえで、確認させて頂きます」

「今回のクレーム。彼女に対し、昨日から叱責を繰り返しされているようでが、どのような不備があり、どのようなクレームを受けていたのでしょうか?」

「そして、研修プランに、どのような問題があり、改善するよう求めておられたのでしょうか?」

「クレーム内容が正当で、係長の叱責が育成目的となっており、その上で研修プランに不備が有ったというのであれば、心より謝罪する準備があるのですが?」

反論できない、しょうがない言葉の弾幕により、身動き取れていません。そこに、譲歩とも取れる「緩み」に、不良債権は必死にしがみ付くのです…それが…決済の呼び水であることを知りもせずに。

「そ、そうだ。私はせ、正規の手順で申請した!く、クレームを受けたのは、あの女が数字を書き換えたからに違いない!す、数字を弄(いじ)るなど、言語道断だろう!だから研修プランに問題があると言ったんだ!!」

所々つっかえ、部下の女性を女と呼ぶほど焦り、必死に言葉を探したことが分かります。

しかし、咄嗟(とっさ)の言い逃れにしては、それなりにスジが通っています。

何も知らない、客観的な立場から不良債権の反論を聞けば、確かにそうかもしれない、と疑念を持つことでしょう。場合によっては、反論を真として捉えることもあったかもしれません。

「…なるほど…では、あくまで貴方は、彼女が犯したとするミスに対し、教育という目的で叱責をしていた、そしてミスの原因は研修に不備が有ったため、改善を要求していた。この認識に、齟齬(そご)はありませんね?」

敢えて、丁寧な言葉を向けます。不良債権は丁寧を下手(したて)に出た、怯んだと思い込み、言葉を被せてきます。

「さっきから言っているだろう!君の言う通りだ!!」

緑に染まった瞳が、一層深く、濃い色に変わったように見えます。そして、再度、静かに、冷たく、確認を促す言葉が発せられます。

「…もう一度、お聞きします。認識に、齟齬(そご)はありませんね?」

レオンの放つ言葉に、身震いをする者が出始めました。

高圧的でも、暴力的でもない、丁寧な言葉にも関わらず、巨大な氷壁を思わせる圧倒的な冷気に、やり取りを見守っていた者たちは畏れを感じ取ったのでした。

「くどいっ!そうだと言っているだろう!!」

自身を捕食者と思い込んでいる為、どこまでも強気になっています。例え仮初の強者であったとしても、不良債権にとってはその場を乗り切れば何とでもなるだろうという、楽観的な目論見があったのでしょう。

ですが。その仮初の強者は。楽観的な目論見は。

呆気なく崩れ落ちることになるのでした。「古今無双の金庫番」の名の下で。




レオンは一枚目のカードを切ります。

「承知致しました。…では、こちらをご覧ください」

「クレーム発生の元となる書類です。こちらに記載されている価格設定がおかしいとして。差戻しと共にクレームが行われました」

「貴方は、彼女が数字を書き換えた、と言いました。承認欄に貴方の名前があることから、貴方が承認後、彼女が貴方の目を盗んで数字を変更した、ということになりますね」

「その場合、管理不行き届きではないのか?という別の問題もありますが、これは置いておきましょう」

「一旦申請が通った後に、彼女が数字を書き換える理由、具体的にはメリットはあるのでしょうか?研修では、納品物買取年鑑ほか、各種数値を元に価格設定をするよう教育している為、黙って更新する必要は無いと認識しております」

「仮に、設定する価格が誤っていたために書き換えたのだとしても、正しい価格に書き換えていたのであれば、クレームは発生しないはずです」

「このことから、彼女が数字を書き換えた、という指摘は限りなく低いと考えられます」

「…そう、限りなく低い。彼女が書き換えたというのがゼロではないのは確かです」

「ですが…私はこんなモノを持っています。品目、数量、そして価格を指示するメモですね」

「おや?よく見ると、この書類の内容と一致していますね。これはどういうことでしょう?」

「偶然だろう?そうですね、偶然かもしれませんね。これだけならばね」

「指示するメモは何枚もありまして。…事前に調べさせていただきました。貴方が承認した書類において、特定の品目に関する申請内容が、メモの内容と多数一致していました」

「流石にこれを偶然で片付ける訳にはいきませんね」

「え?メモが偽造ではないか?仰(おっしゃ)る指摘御尤も。なのでこちらも事前に「鑑定」スキル持ちに確認させて頂きました。結果、聞きますか?」

言葉が五月雨のように降り注ぎます。

不良債権は所々で反論しようと試みますが、全て叩き潰されるのでした。




続けて、二枚目のカードを切ります。

「相場よりも高い価格申請でも、在庫が捌けて、ギルド自体が潤っていれば特に問題はなかったのでしょう」

「今回のクレームでは、価格が有り得ない、ということでした。ですが、それは対象品目が余剰在庫となっていたため、発覚した、ということでしょう」

「あぁ、余剰在庫についても確認済です。かなりのスペースを陣取っていましたねぇ、あれではクレームが入るのもさもありなん、と言ったところでしょうか」

「話がずれましたね…そうそう、余剰在庫で問題になったということは、逆に言えば余剰在庫にならないよう捌けていた、と言うことになります」

「先程も挙げましたが、価格設定をする際には、各種数値を計算し、その上で価格を決定するよう教育しております。ですが、相場よりも高い価格を設定し、かつ、それが捌けるということは…癒着、横順を疑う余地が産まれます」

「…私たちギルド職員は、冒険者の方々が命を懸けて得た素材に対し、公正な判断の元で正当な報酬を渡す責務があります」

「ですが、不当な価格設定を行い、癒着、横領で私腹を肥やすということは、私たちの矜持を著しく傷つけることになるのではないでしょうか?」

「…そうですね。特定の品目が余剰在庫となっており、貴方の申請における品目が重なっているという点のみで、癒着、横領として決めつけるのは、良くないですね」

「そうそう、余剰在庫の品目ですが、スライムオイルというそうですね。粘性生物(スライム)を討伐した際の買取素材として登録されているそうで」

「鮮度の高い素材は無味無臭であることから、加工食転用する業者が一定数いるそうですが、御存知でしたか?」

「そういえば、食品業者のいくつかが廃業したと連絡がありましたね。なんでも食中毒が発生し、営業免許を取り上げられたとか、何故食中毒が発生したんですかねぇ?」

「怖い怖い……まさか、加工時に使用する油に、古いスライムオイルを使用していたりするんでしょうか?」

「通常の食用油はそれなりにしますからねぇ…原価率を抑える為に、相場より高くても大量のスライムオイルを必要としていたのでしょうか?」

「コストを抑えるために、大量に買い集める。ですが、そうなればそれだけ品質管理が困難になる。その結果、鮮度の落ちたスライムオイルを使用することになり、食中毒が発生した、ということになるのですかねぇ?」

「いえいえ。これは私の推測です。貴方が関与しているとは、一言も言っていませんよ?」

「ですが、廃業した食品業者が、スライムオイルを仕入れていたという事実は、ギルド内に残っています。そして、未払い分の余剰在庫が発生しているも事実です。このことから、業者が廃業したことにより、在庫が捌けなかったのではないか?という推論が産まれるのは、仕方ないことになるのではないでしょうか?」

「そうですね、貴方は直接関わっていないのかも知れませんね。ですが、他部署と連携しているとすればどうですか?特定の業者に卸すよう資材管理部が、特定の冒険者に依頼するよう冒険者管理部が。そして、特定の依頼を受け付けるよう依頼管理部が。経理部以外の各部等が関連しているとすれば、どうなるのでしょうね?」

「おや?どうしました?顔が引き擎っていますよ?これは、あくまで私の推測ですので、ご安心を…関わっていないのであれば、何の問題も無いのですから」

言葉が土砂降りのように打ち付けます。

不良債権は酸素を求める魚のように、口を開閉するのみで、何も行うことが出来ませんでした。




最後となる、三枚目のカードを切ります。

「そうそう、取引実績のあった日の近辺で、某所で豪遊された方がいるようで。いやぁ肖(あやか)りたいものですね。私など、働いても働いても、返済に追われておりますので、豪遊など、とてもとても」

「いいえ、豪遊がいけないなど、そんなことは申しません。経済を活性化させる、立派な行為であると、私は認識していますよ。富裕層が消費することで、下々(しもじも)に恵(めぐみ)が滴り落ちてくるわけですからね」

「…ですが、豪遊をする元手が、お天道(てんとう)様に向けられない、というのならば、話は変わるんじゃないですかねぇ?」

「先程申し上げた通り、他部署と連携していたとした場合、複数人が関与していることになります。こちらに、某所で豪遊していた方の支払い明細の控えがあるのですが…」

「おや、どういうことですかね?経理部のとある方も含め、資材管理部、冒険者管理部、依管理部の方々の名前も挙がっていますね」

「しかも、複数の日付に渡って、どういうことでしょう?私には理解できないのですが、ご教授頂けますか?」

不良債権は、顔を赤くしたり、青くしたり、白くしたり、汗を拭ったり、口を開閉したりと、忙(せわ)しなく表情を変えています。…ですが、レオンの豪雨の前には、何の意味もありませんでした。




「…話が長くなりましたね。整理しましょう」

「中請の内容、余剰在庫、支払い明細、この三点を結び付けると、…色々浮かび上がります。「数字は嘘をつきません」からね」

「まぁ、大幅に譲歩したとして。今迄の申請についてはギルドを含め、各所に損害が出ていた訳ではないので、見逃すというのも吝(やぶさ)かではありません。釈然としませんが、ね」

「ですが…クレームの発生、余剰在庫による管理費計上、不当な叱責、責任転嫁。これを不問にする、という訳には行きません」

「おや?忘れましたか?私は経理課に所属していると同時に、監査チームのリーダーであることを。強制調査権、いつでも発動出来るのですよ?」

「先程、私は確認しましたよね?」

「認 識 に 齟 齬(そご) は 無 い ん で す よ ね?」

不良債権は全身を震わせています。反論など以ての外。完全に折れてしまったようでした。

積もり積もった負債は露(あらわ)にされ、ついに決済(断罪)されたのでした。




長い、長い決済が終わります。周囲は誰も、何も喋りません。喋れません。瞳の色は、いつのまにか緑から黒に戻っていました。

失意に打ちひしがれている特別損失(係長)と、理路整然と論理展開した監査チームリーダー(レオン)とでは、どちらに差があるかは火を見るよりも明らかでした。

決して短くない沈黙の中、一人の男性が二人の元に歩み寄ってきました。

「レオン君、監査チームとして、彼の処遇はどのあたりが適切になるかね?」

声をかけてきたのは、経理部の部長です。一部始終を、部長も観ていたのでした。

休憩前に残したメモや、目配せの相手は、部内を纏める経理部部長でした。裁定の段取りを整えるので、ことの成り行きを見守っていて欲しい、という要望を事前に通知していたのでした。

「ギルド内の経済的損失、及び彼女への謝罪及び賠償を考慮し、六ヵ月の減俸処分、役職降格処分、及び減俸処分中における定例業務報告の議事録書き起こし担当、が適切と考えます」

レオンの言葉に、部長は顎に手を置き、数秒目を瞑(つぶ)ります。おそらく思考を巡らせているのでしょう。

「…妥当な判断だな。係長、いや役職降格になるから、もう係長ではないな。今日はもう退勤して構わない。正式な処分が降るまで、自宅待機だ」

部長の言葉に、特別損失は膝をつき、ぶつぶつと何かを呟きます。

なぜだ、こんなはずでは…もし聞こえていれば、こんな言葉だったのでしょう。

ですが、その言葉は、誰の耳にも届くことは無く、特別損失の中のみで溶けていくのでした。

「さ、皆業務に戻りなさい。レオン君、今回の件を纏め、正式に監査チームとして動きなさい」

部長の号令により、固まっていた者たちは蜘蛛の子を散らすように動き出します。レオンは指示の通り、今回の件を提出資料として纏め、監査を行う準備を始めるのでした。




これは、レオンが効率厨レオンとして、職場の非効率な業務に憤慨し、理不尽な出来事に苦々しい思いをしたことにより、ギルドを変えていこうとするお話です。




監査により、不正を働いた職員の手口解明や、余剰在庫を使用した新商品開発については、また別のお話となります。


■執筆裏話

会話メインの展開となりますが、お楽しみいただければ幸いです。

筆者は、「認識に齟齬はありませんね?」を繰り返し使用している個所を気に入っています。


評価、感想、御待ちしております。執筆のモチベーションアップに繋がりますので!


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