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サブエピソード4【足長レオンの孤児院奮闘記4:右手に職を、左手に食を】

更新を楽しみにされていた方々、申し訳ございません。

今回(26/9/4)も、メインエピソード2の更新が間に合わなかったため、サブエピソードでお茶を濁らせてください…


足長レオンは、弟、妹たちの教育に労を惜しみません。

これは、レオンが弟、妹たちと共に成長しようとしていくお話です。


とある日のことです。

孤児院の一室で、蝋燭(ろうそく)で灯した薄明かりの中、レオンは机に向かい、何やら頭を捻っています。子供達の教育のネタ作りでしょうか?それにしては、鬼気迫るモノを感じさせる勢いがあります。

――皆さんにも記憶ありませんか?何かに追われる感覚。そう、焦燥感というのがぴったりかもしれませんね。レオンはいったい何に追われているのでしょうか?――

何かを書いては棒線を引き、何かを書き足しては棒線を引き。本人以外には理解出来ないメモ書きが乱雑に散らばっています。

まるで、文字の樹海です。文字を学び始めた年少組の子が入り込んだら、迷って抜け出すことが出来なくなるかもしれません。

いったい何を書いているのでしょうか?


蝋燭(ろうそく)の背丈が半分を下回り、夜の帳(とばり)が白み始める頃、レオンの手がようやく止まる兆しを見せました。メモ書きによる樹海は深く、広がっています。レオンの格闘は、拳という物理では無く、ペンという論理である証左になりますね。

インクの匂いと飲み干したお茶の匂いが混じり合い、室内の空気は淀んでいるようです。

レオンは立ち上がり、窓を開きます。早朝の冷たく澄んだ空気が、室内の淀んだ空気を洗い流します。

冷たい空気を胸いっぱいに吸い込み、大きく吐き出します。

きっと上手く行くハズだ。

机に残された草案に視線を向け、誰にするのでも無く、静かに頷くのでした。


「今日は、皆にギルドのお仕事を手伝って貰います」

「たくさん、上手に出来れば、今日のご飯にはお菓子がつくかもしれません」

「だけど、ケンカしたり、イジワルする子には、お菓子がつかないかもしれないから、気をつけようね」

レオンはそう言うと、孤児院のメンバーを年少組、年中組、年長組にグループ分けをし、年長組の中でも面倒見の良い子に、年少組と年中組のサポートを任せるよう差配します。

年中組以下の子供達は、何をするのかワクワクし、目を輝かせています。

一方、年長組の公共クエスト経験済みの子達は、少し落ち込んでいます。

ギルドの仕事を受けられるとは言え、最低額で大変な仕事だと言うことを、肌に染みて理解しているからでしょう。


「はーい、気を付け!よくできました!」

「やることを言うから、静かに聞いていてね。分からなかったら、もう一度教えるから、ゆっくりやろうね」

レオンの号令に、一堂は背筋を伸ばします。統率された仕草は、見方を変えれば虐待に映るかもしれません。しかし、効率的、かつ公正に取り纏めるレオンの行動に、異を唱えられる者はおりません。

――メリハリって大事ですよね。優しさだけじゃつけ上がり、厳しさだけじゃ付いてこない。愛情と理性を込めた振る舞いが、子供達に伝わっているんでしょうね――


「年少組の子は、土をキレイに洗い流して、干すように。間隔を空けて、風通しが良くなるようにね」

「年中組の子は、干されて乾いたモノを、細かく刻むように。刃物を使うから、怪我はしないようにね」

「年長組の子は、細かく刻まれたモノを、粉末状になるまで、丁寧に擦り下ろすように。擦り下ろしたら、ゴミが混じっていないか、よく見てね」

「皆がキチンと出来ることで、薬を作るお兄さん、お姉さんがとても助かります。また咳をした時、すぐに薬が届くよう、頑張ろうね!」

各指示を出し、レオンは全体統括として各組を見て回ります。上手に出来た子は褒め称え、失敗してしまった子には上手く行くよう一緒に手伝ってあげて。

皆、慣れぬ作業ではありましたが、お菓子効果のせいか、単純作業でも驚くほどの効率、効果を生み出しておりました。

予定していた時間を迎える頃には、すっかりノルマを終え、無事達成と相成りました。


子供達の成果を確認したレオンは、頷きます。

そして、ギルドの査定担当に連絡し、今回の査定を依頼します。

到着した査定担当の一挙手一投足に、子供達は固唾(かたず)を飲んで見守ります。自分達の成果が、どのような結果を生み出すのか、不安と期待が入り交じっているからでしょう。

――皆さんも経験がありませんか?テストや成果物の判定を待つ時間というのは、明るい希望と暗い絶望が交互しますよね――

査定担当が書類に何かを記し、レオンに話しかけます。レオンは書類の内容を見ると、眉間に皺を寄せ、査定担当に何かを言っているようです。おや?口論でしょうか?公正な取引を信条とするレオンにしては、珍しい姿ですね。何か不備があったのでしょうか?


暫(しばら)く続いた口論(言い合い)が終わると、レオンは大きく息を吐きました。そして渡された書類に目を通し、何かを書いています。

書き終えた書類を受け取った査定担当は一礼すると、ゆっくりとした足取りで去っていきました。その後姿を、レオンは苦々しげに見つめていました。

子供達は、レオンの様子より、自身の成果が良くなかったのかも?と不安になりました。褒めて貰えたとはいえ、素人が行う、初めての作業です。

報酬が貰えるかも?という期待は、減額されてしまうのかも?という落胆に変わっていました。

レオンは皆を集め、本日の作業の結果を知らせます。

「皆、今日一日、よく頑張ったね。お金を稼ぐと言う大変さ、分かったかな?」

「そうだね、お菓子食べたいよね。皆、頑張ったもんね」

「でも、お菓子は誰でも食べられる訳じゃないんだよ。お菓子を食べるには、お金を払う必要があってね。お金は、働かないと貰えないんだよ」

「今日、皆が頑張って働いたことによって、お金を貰うことが出来ました」

「けれど、貰えたお金で、何でもお菓子を貰える訳じゃないんだよ。欲しいお菓子、食べたいお菓子のそれぞれに払うお金が決まっているんだ」

「だから、お菓子が欲しい場合は、決められたお金を払う必要があるんだね」

「今回のお仕事で、貰えたお金で、皆が欲しいお菓子のお金を払えるか、考えてみようか」


レオンの言葉に、子供達はひそひそと話し合っています。何を買おうか、ワクワクしているようですね。

そのワクワクに歯止めをかけるよう、レオンは追加の制約を告げました。

「あ、そうそう、その前に。皆で欲しいお菓子を決めるか、それとも、自分達一人一人で欲しいお菓子を決めるか、どっちがいいかな?」

「皆で決めるなら、これだけ使えます。自分達一人一人なら、これくらいだけ使えます」

「どちらにするかは、皆で決めようね。自分の言う通りにならなかったからといって、ケンカしたり、イジワルしたら……わかってるよね?」

レオンは、ニッコリと笑顔を浮かべています。しかし、子供達は軽く身震いをすると、素早く顔を上下させて、了承を示しました。

普段は優しいお兄さんですが、怒らせてはいけない、ということをしっかり躾けられているようですね。


やがて、意見が纏まりました。

どうやら、個別で欲しいお菓子を選ぶ方針のようです。

レオンは頷くと、作業内容に応じて、分割した報酬を各人に手渡しました。

報酬額の差分に不思議がる子達に、仕事の内容に応じて貰える金額が異なることを説明します。

簡単な仕事、楽な仕事であるほど、報酬が少なく、難しい仕事、大変な仕事であるほど、報酬が高くなること。

だけど、仕事が失敗したら、報酬が貰えなくなること。

だから、自分が出来る仕事と、貰える報酬をキチンと考えることが大切なんだよ、とゆっくり教えます。

子供達には、まだ難しいようですね。首を傾げて一生懸命に理解しようとしますが、なかなか追いつけないようです。

レオンは微笑むと、子供達の頭を優しく撫でます。

年少組は、年中組の仕事を出来るように。年中組は、年長組の仕事を出来るように。そうすれば、貰える報酬は多くなるよ、と伝えます。

子供達は得心が行ったようで、笑顔を浮かべて報酬を握り締め、駆け出して行きました。

レオンは残された年長組の子達と顔を見合わせ、苦笑を浮かべるのでした。


年長組の子の一人がレオンに尋ねます。

査定担当と話していた際、何故難しい顔をしていたのか?と。

レオンは答えます。

「『品質基準は満たしているし、量も申し分ない。今回は初回だから、ご祝儀査定としておこうか?』って言われたよ」

「だけど、断った。有り難い申し出だし、担当の裁量範囲内に収まるから不正には当たらない。だが、痛くない腹を探られるネタを作るわけには行かないからね」

「代わりにこう言ったんだ。『以降、継続してこのクエストを発注して欲しい。報酬額は今回相当で構わない』とね」

「ほら、そうすれば、お前達が受けている公共クエスト以外にも、定期収入を得ることが出来るだろう?」

「そうしたらね。向こう側も、『継続発注するならば、品質を確保する為にも、労働環境の整備も必須とするぞ。受けました、出来ませんでした、じゃ済まないからな』と言うからさ」

「環境を整えるにはどうすればいいか?考える必要があったから、難しい顔をしてしまった、という訳さ」

レオンの話に、年長組の子は驚きます。

報酬を貰うだけと思いきや、二手先、三手先の事を考えていることを思い知らされたからです。

驚き固まる年長組の子の頭も、レオンは優しく撫で、言い聞かせます。

「言っただろう?『お金を稼ぐことは容易ではない。だから、誰かに任せるのではなく、自分達で稼げるよう、皆で頑張ろう。自分がその手助けをするから』と」

孤児院を立て直す際、皆の前で宣言した言葉です。

レオンの偽りなく、温かく、強い言葉に、年長組の子は溢れる涙を留めることが出来ませんでした。


さて、報酬を握り締めた子達は、市場に向かってお菓子を求めます。

習い始めた算術を用いて、報酬内で得られるお菓子を必死に計算します。

中には、なかなか計算が追いつかずに手間取る子がいたり、計算誤りをしてしまう子も居ましたが、周りの仲間達のフォローにより、事なきを得たようです。

思い思いに、願ったお菓子を得られた子供達は、満足気にお菓子を頬張ります。

その様子を温かく見守るレオンの頭の片隅には、次のプランが既に練られ始めていました。

教育と労働のバランス、環境整備、人員コスト、マネジメント…

考えればキリがありません。

如何にして効率良く、かつ最大効果を生み出すことが出来るか。

いつの間にかレオンの瞳は青く染まっているのでした。


これは、レオンが足長レオンとして、弟や妹に、生きる為の手段を身につけさせようとするお話です。

報酬を得た子供達が市場で値切り、泣き落とし、褒め殺しなど、教えていない手管を披露し、レオンを驚かせることになること。

そして、環境整備の為に、歯軋りをしながらも憮然とした表情で、笑顔で揉み手をするマルコに相談し、月々の返済額と返済回数が増えることになることも、また別のお話となります。


■執筆裏話

手間と時間のかかる単純作業を、外部発注することによって雇用創出を図りました。

孤児院の子供たちの姿で、ほっこりしてもらえると幸いです。


評価、感想、御待ちしております。執筆のモチベーションアップに繋がりますので!


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