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サブエピソード3【足長レオンの孤児院奮闘記3:読み書き計算は楯となり矛となる③】

3話連続更新の3話目です。


さて。お昼を食べ終え、少し眠たくなった子たちに、レオンは次の段階に進ませます。

年少組の子たちの中には、午前中の数遊びに夢中だったせいか、夢の世界へと旅立っている子も見えます。

レオンは夢の世界に居る子を引き戻さないよう、用意していた小枝を頑張って起きている子の前に並べ、静かに語り掛けます。

「みんなの前に、小枝があるよね。この小枝を、まずは5本持ってみようか」

「持てたかな?じゃあ、今度は3本持ってみようか」

「最初に持った5本と、次に持った3本、合わせると全部でいくつになるかな?」

「ゆっくりでいいからね、持っている小枝の数を数えてみよう」

「小枝を手に持ったまま数えようとすると、わかりにくいかもね?一度下において、並べてごらん。そうしてから数えてみたら、わかるかもしれないよ?」

「わかったかな?…そうだね、8本だね」

「さっき、皆が並べていた木版を見てごらん。数字が順番にならんでいるだろう?…5の次は、6、その次は7、その次は8。5の3つ次の数になるから8になるんだよ。」

「じゃあ、今度は最初に1本、次に2本持ってみようか。合わせると全部でいくつになるかな?」

「おぉ、早い!すごいね、そう、全部で3本だね」

レオンの誘導により、子供たちはゆっくりですが、確実に足し算を身につけています。

―――分からなかったことを分かっていく、知らなかったことを知っていくことは、いつになっても心地よいものですよね。皆さんにも心当たりはありませんか?―――

レオンは、子供たちの成長を目の当たりにする、という極上の喜びを感じているようです。




「みんな、良くできたね。もともとあった数に、後から来た数を合わせると増えるよね。これを「足し算」って言うんだよ」

「じゃあ、今度は反対をやってみようか?」

「最初に5本持ってみようか。その5本のうち、3本を元に戻そうか。今、いくつ持っているかな?」

「…そうだね、2本だね。ほら、木版を見てごらん5の前は4。その前は3、その前は2だよね。5の3つ前の数になるから、2になるんだよ」

「これが、『引き算」って言うんだよ。もともとあった数から、数が出ていって減るからね」

「数字がいくつになるのか考えることを、計算っていうんだ。もとからあった数がいくつに増えるかな?と考えることを足し算、いくつに減るかな?と考えることを引き算って言うんだね」

「ん?どうしたんだい?…うん、うん、すごいね!そうだね、その通りだよ!面白いことに気付いたね!」

「みんな、ちょっといいかい? すごいことを教えてくれた子がいるよ」

「みんなのごはんって考えれば良いんだって。スープ、パン、お水ってあったらスープで1、パンで1、お水で1だから、1と1と1を合わせて、全部で3になるんだって」

「パンを食べちゃえば、全部の3から1出ていくから2になって、スープを飲んじゃえば、また!出ていくから1になるんだって」

「最後にお水も飲んじゃえば、また1出ていくから0になるんだって」

「そう、0も数字なんだよ。「何もない」ということなんだよ。すごいね!」

「そうなんだ。並べられている数の一番揺が「0」になっているのが見えるだろう? 「1」は一つだけある、「0」は何もない、ということなんだよ」

レオンは、自分で「0」の概念に気付いた子を手放しで褒め称えます。褒められた子は、照れた様子でしたが、しっかりと胸を張っていました。

――一意外に思うかもしれませんが、実は『0』の概念を理解することは、算術を学ぶ上でとても重要なことになるのです。何しろ、桁の繰り上がり、繰り下がりに関わることですし、 こればかりは頭で理解するというより、感覚で覚えるという方が、進みが早いのですから―――

「0」の概念に触れた子供たちは、口々に0になる計算をレオンに伝えます。 計算そのものは単純なので、概念を理解してしまえば簡単に披露出来るようです。

―――…内心マイナスの概念まで踏み込まれないで良かった、と肝を冷やしていたのですが、それは皆さんだけが知っている秘密にしておいてくださいね。―――

その後、いくつか足し算、引き算の例題を出し、習熟度を確認したレオンは、本日の最重要課題に取り組むことにしました。




「さて、足し算、引き算、みんな、どちらも出来てきたね」

「次は、ちょっと難しくなるけど、出来るかな?」

そういうと、レオンは木版を指差し、子供たちの視線を集めます。

「「9」の次をみてごらん。「10」になっているよね。「1」と「0」の二つの数字に分かれていることがわかるよね。これは、なんでだと思うかな?」

「そうだよね、難しいよね。「9」より1だけ多い数字が一つの数字であれば、二つの数字に分けることはないのにね」

「ふたつの数字に分かれている。これがとっても大事なことなんだよね」

「みんな、木版に描かれている数字の形をよく見てごらん。木版は沢山あるけど、数字の形は、いくつあるか分かるかな?」

「そう!そうだね!良く気付いたね!二つの数字が並んでいても、「0」から「9」まで、10 個の形しかないよね!」

レオンは地面に四角を一つ書き、その横に数字の「9」を描きます。

小枝を9本持ち、右側の四角に9本頂きます。

「今、小枝を9本置きました。これが「9」っていうのはわかるよね?」

レオンは子供たちを見渡します。子供たちは頭を上下に振り、理解を示します。

「じゃあ、「9」に一つ増やして、9の次の数字にするといくつになるかな?」

そこかしこから10! という声が聞こえてきます。

「そうだね、「10」だね。じゃあ、さっきこの四角の中に小枝を9本入れたけれど、1本増やすとどうなるかな?」

レオンの問い掛けに、子供たちはレオンの描いた四角の周りに集まります。

とある子が。9本入っている四角の中に、1本小枝を入れて、10になった!と言います。

レオンはそれを見て、優しく頷きます。

「そうだね、「9」を一つ増やしたら「10」になるからね。あれれ?ちょっと待って!?」

レオンは大げさに慌てます。子供たちはレオンの慌てぶりに、どうしたんだろうと顔を見合わせます。

「みんな、思い出して、数字の形って、「0」から「9」までしか無かったよね?この四角の中には10本の小技があるけど、「10」の形って無いよね。どうすれば良いかな?」

「四角の中に入れる数字は、「0」から「9」までなんだよね。だから「9」より一つ大きい[10]を四角の中に入れることは出来ないんだ」

レオンはわざと悲しそうな表情を浮かべます。

―――おやおや、レオンは演技派ですね。子供たちはレオンの芝居に引き込まれ、どうやればレオンの悲しみを解消できるか、考えているようです―――

「え?今、なんて言ったの?となりの四角を使っても良いかって?すごい!そうだよ、その通りだよ!」

悲しそうな表情を一変させ、明るい表情を浮かべます。

「となりの四角を使えば、「9」よりひとつ大きい10を、「1」と「0」の二つの数字を使うことで作れたね」

「あれれ?でも、となりの四角に「1」を描いて、もともとの四角に『0』を描いたら、小枝が余っちゃうね? どうしてだろう?」

レオンは左側の四角に1本の小枝を置き、右側の四角には何も置きません。手の中には9本の小枝が握られています。

「じ、つ、は。この左側の四角の『1』は10なんだよねー。右側の四角の『9』がひとつ増えて10になったから、合体してお引越ししました!」

左側の四角に置かれた小枝を摘み、手の中に収められていた小枝と合わせます。そして小枝の数を数えて10になることを子供たちに確認させ、用意していた麻紐で鮮やかに束ねて見せました。

「ほら、10本の小枝が、小枝の束ひとつになっただろう?これを左側の四角に入れれば…」

不思議そうに見ていた、子供たちの目が輝きます。

左の四角には束が一つ。右側の四角には小枝が何もない。「1」と「0」が完成したのです。

「数字の形は「1」と「0」なんだけど、数は10あるんだよ。左腕の四角にある束の紐を解けば、ほら、10本あるだろう?」

レオンの説明に、子供たちは目をキラキラさせています。まるでレオンが魔法使いであるかのように、次に何を教えてくれるのだろうかとワクワクしているようですね。

「じゃあ、みんなで計算してみようか。「8」と「3」を足し算したら、いくつになるかな?」

子供たちは思い思いに小枝と麻紐を掴み、自身で四角を描いて計算を始めます。

理解が及ぶと行動が早いですね。用意した小枝と麻紐はどんどん少なくなっていきます。

「そうだね、『11』」だね」

口々に計算した答えを発してきます。中には束ねた小枝を大きく持ち上げ、上手に束ねられたことをアピールしてくる子もいます。

「みんな、すごいね!良くできたね!じゃあ次はね…・」

レオンは褒めることを忘れません。繰り上がりの足し算が出来たことを褒め称え、間髪入れずに繰り下がりの引き算を教えます。

子供たちは頭を捻りますが、ハッと気付いて、我先にと答えを言い合います。

「そうだね!すごいよみんな!」

左側の四角にある「1」という数字は、10という数であるという、「桁」の概念を感覚で理解出来た証左です。

時間はかかりましたが、小枝と麻紐を使った足し算と引き算は、子供たちに染み渡り、数字という概念と桁、繰り上がり、繰り下がりを理解することが出来たようです。




文字は契約を守る楯となり、数字は損を防ぐ矛となるでしょう。レオンが授けた小枝の束は、 いつの日か彼らが孤児院を羽ばたき。この厳しい世界を生き抜いていくための、何よりも大きな財産となるに違いありません。




これは、レオンが足長レオンとして、弟や妹に文字(楯)と数字(矛)を身につけさせるお話です。




文字(楯)と数字(矛)を身につけた子供たちが、歴史のーページを彩るのか、それとも……。それは、また別のお話となります。





■執筆裏話

桁上がり説明回でした。

レオンの教育方法にほっこりしていただければ、幸いです。


評価、感想、御待ちしております。執筆のモチベーションアップに繋がりますので!


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