サブエピソード2【足長レオンの孤児院奮闘記2:情操教育には心を込めて】
更新を楽しみにされていた方々、申し訳ございません。
メインエピソード2の更新が間に合わなかったため、サブエピソードでお茶を濁らせてください…
足長レオンは、弟、妹たちの教育に労を惜しみません。
これは、レオンが弟、妹たちと共に成長しようとしていくお話です。
とある日のこと。レオンが孤児院の出納帳をつけている時のことです。
庭で何やら騒ぐ声が聞こえてきます。最初はそれほど気になりませんでしたが、徐々に大きくなる怒鳴り声に、レオンは走らせていたペンをしばし休め、窓際に向かいます。
窓から見える庭先では、年中組の子たちが二手に分かれて集まっており、何かを言い合っていました。
そして、その傍らで、おろおろ戸惑い、中には涙ぐんでいる年少組の子たちも見えます。
―――困ったものですね、いつの時代においても、子供の涙には心が痛みます―――
「…またか…」
レオンは軽く溜息をつくと、椅子に掛けていた上着を羽織り、庭先へと足早に向かいました。
「いつもいつもずるいぞ!サボってばかりいて!!」
「そっちだって、かんたんなことしかやろうとしないじゃないか!」
言い争いの声は、激しさを増します。職場で荒くれ者の冒険者を相手にしているレオンにとって、口論の仲裁を行うことは容易いことですが、子供たちへの仲裁は容易いことではありませんでした。どちらかの味方をすれば、もう片方は必ず臍を曲げるのですから。
―――皆さんにも、身に覚えはありませんか?子供たちの心というのは、大人が思っているよりも、ずっと扱いが難しいものなのです。冒険者のクレームなどよりも、ずっと、ずっと―――
「はーいそれまで!皆、気を付け!!」
レオンは子供たちのそばに歩み寄ると、手を叩いて注目を促します。
レオンの登場と声掛けにより、言い争っていた年中組の子たちは元より、おろおろ、または涙ぐんでいた年少組の子たちも、背筋を伸ばして気をつけの姿勢になりました。
「はい。良くできました。みんな、まずは座ろうか」
気を付けの姿勢が出来たことを確認したレオンは、子供たち一人一人の頭を軽く撫で、率先して座ります。
年少組の子たちは、我先にとレオンのそばに座ります。年中組の子たちは顔を見合わせ、レオンを挟んで二手に分かれて座りました。
―――子供たちの扱いに慣れているようですね。普段からのしつけの賜物でしょうか。・・・おや?レオンが何かを話し始めるようです。一体何を始めるのでしょうか? ―――
「さっきまで、お仕事をしていたんだけどね、皆の賑やかな声が気になって。一体何があったのか、教えてくれるかな?」
言い争いをしていた、年中組の子たちに問い掛けます。
レオンの問い掛けに、二手に分かれた子たちは言い合います。
一つは、掃除当番を守らないこと。
一つは、簡単なことは行うが、大変なことは行わないこと。
子供たちの説明は稚拙なものでしたが、レオンはしっかりと話を聞きます。要約すると二点に絞ることが出来ました。
―――子供特有の支離滅裂な説明、経験したことはありませんか? 根気強く聞き取ることは、とても労力が必要になります―――
子供たちの話を聞き終えたレオンは、目を瞑り、顔を顰め、大げさに悩むふりをします。
大人の視点で物を言うことは簡単ですが、それでは子供たちの成長を促すことは出来ません。解決策をそのまま提示するのではなく、子供たち自身で解決策を生み出させる為の、アイディアを練っているのです。
「みんな、ちょっと考えてくれるかな?」
「どうして、サボっていると嫌な気持ちになるのかな?」
「どうして、簡単なことしか、しようとしなかったのかな?」
レオンは、言い争いの元となっていた内容について、少し掘り下げて問い掛けてみました。
問われた年中組の子たちは元より、年少組の子たちも考え始めました。
…PDCAサイクルという言葉があります。Plan、Do、Check、Actionの4ステップを繰り返すことで、継続的な改善を図る手法です。
レオンは、子供たちにPDCAサイクルを身につけさせるつもりなのでしょうか? そんな難しい言葉は、子供たちは一生知らないかもしれません。
けれど、レオンが教えようとしていることはそんな言葉よりもずっと大切な「自分で考え、より良くしていく力」のことなのでした。
子供たちは、思いついた言葉を次々に口にします。勿論、手を挙げて指名された子から順番に。言いたいことがある子が沢山居る時は、手を挙げて指名された子から順番に話すよう、 レオンと約束していたからです。
順番を守らず、好き放題に喋る人には辟易しますよね。レオンは孤児院において、 いくつかの規則を徹底させています。『挙手して発言』はそのうちの一つとなります。
指名された子供たちは、自身で考えたことを話します。たどたどしい口調ですが、懸命に考えたことが伺えます。
一通り、意見を聞き終えたレオンは、小さく額きます。そして、子供たちへ再度語り掛けます。
「みんな、教えてくれてありがとう」
レオンの言葉を待つかのように、子供たちはレオンを見詰めます。
「みんなの言う通りだね。自分だけ大変な思いをするのは嫌な気持ちになるし、楽しくないよね」
レオンの言葉に、年少組の子たちは頷きます。言い争っていた年中組の子たちは、レオンの前のせいか、ばつが悪そうに俯いてしまいました。
―――…おや、これは良くありません。皆の前で成果を褒めるのは推奨されますが、叱責をするのは逆効果です。それを知らないレオンではないはずなのですが―――
「…あるところに、働き者の虫さんと、遊びたがりの虫さんがいました」
レオンは唐突にお話を始めました。レオンの語るお話に、年少組の子たちは眼を輝かせて間き入ります。現代日本でも伝わっている、有名な作家の書いた寓話です。
この世界は娯楽が少なく、また、孤児院では生き抜いていくことに精一杯な為、絵本文化は育まれておらず、時折語るレオンのお話には、皆夢中になるのでした。
レオンは続けます。
「働き者の虫さんはいいました。『そんなに遊んでばかりだと、後で困るのは自分ですよ』 と」
お話はクライマックスに向けて進みます。気の進んでいない様子だった年中組の子たちも次第に引き込まれ、気付けば皆真剣に聞き入っていました。
「遊びたがりの虫さんは、お腹を空かせて倒れてしまうのでした」
レオンがお話を終え、皆を見ます。年少組の子たちは涙ぐみ、年中組の子たちは、何かを考えている様子です。
―――寓話を用いて、自身の行動を投影させたようですね。敢えて皆の前で叱責をしたのは、 このためでしょうか―――
皆の様子を見ていたレオンは、少し間を空けた後、物語を付け加えました。
「・・・働き者の虫さんは言いました。『もう、働いている私たちを、馬鹿にしたりしないでくださいね』。そういうと、働き者の虫さんは、遊びたがりの虫さんに、食べ物を分けてあげました。遊びたがりの虫さんは、『はい。もう馬鹿にしません。ありがとうございます。私も働きます』と言って、働き者の虫さんにありがとうを言いました。遊びたがりの虫さんは、 働くことの大切さが分かったようでした」
レオンの付け加えに、涙ぐんでいた年中組の子たちは、笑顔を浮かべ、考え込んでいた年中組の子たちはハッと顔を上げました。
―――悲劇的な結末と見せかけて、教訓を学ばせる手法を用いたようです。下げておいて上げるという古典的な手法ですが、効果は抜群のようですね―――
言い争っていた年中組の子たちは、お互い向き合い、謝り始めました。
嫌い合っていた訳ではなく、言葉のやり取りで引っ込みがつかなくなってしまっただけだったのでしょう。年少組の子たちも、その様子を見て、安心したようでした。
――――仲直りをし、微笑ましい子たちを見届けたレオンは部屋に戻り、出納帳への記載を再開するのでした。めでたしめでたし。…で終われば話は早いのですが―――
レオンはそもそもの発端となった、原因の改善を促します。
「さて。では、どうすれば良くなるのかも、みんなで考えてみようか」
契約順守として、割り当てられた掃除をサボらないで行うこと。成果報酬として、掃除の内容でご褒美を変えること。先着優遇として、率先して掃除すること。などなど。職場におけるルールとメリット、デメリットを、子供たちに分かるよう掃除に例えて伝えてあげるのでした。
「契約遵守」、「成果報酬」、そして「先着優遇」。
孤児院で教えるには少しばかり世知辛い言葉かもしれません。けれど、これこそが、 いつか彼らが外の
世界へ翼を広げる時に必要な、本物の知恵になるのです。
これは、レオンが足長レオンとして、弟や妹に考える力を育てようとするお話です。
考える力を身につけ、成長していく子供たちが、レオンを驚かせる成果を挙げるのは、また別のお話となります。
■執筆裏話
PDCAサイクルや、某寓話をファンタジー世界に落とし込んでみました。
あるあるだよね、と共感してくれると嬉しいです。
評価、感想、御待ちしております。執筆のモチベーションアップに繋がりますので!




