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メインエピソード2【盤上の改革、監査チーム発足】㉕ / 灰咳奔走編

優先順位が高いパターンより、順次確認を進めていく。

途中、冒険者ギルドとの調整を終えたジェイルも返ってきた為、三人で手分けして作業を進める。

No.188以降の確認については、第三作業エリアに移動して生成、精製、確認を進めることにした。

ハルトの部屋で作業をやり切るには手狭となっており、効率が悪くなるのが目に見えている為だ。

素材、機材の持ち出しを行い、改めて状況を整理する。

施療院までの納入期限まで、一週間+2日の猶予を創り出すことが出来た。

しかし、この日数全てを生成、精製、確認に費やすことは出来ない。

精製した対処薬の安全確認、及び効果確認、そして副作用有無などを確認する必要があるからだ。

整理した内容を書き出し、認識を共有する。作業内容を分担し、各自の作業に取り掛かる。

ジェイルは生成担当として、素材粉末化などの下準備。ハルトは精製担当として、温度調整、素材溶解、溶液混合などの精密作業。俺は統合サポート担当として、結果確認、バターン分析、及び各種サポート。

375パターンの検証が済み次第、対処薬としての候補選別と各種確認を実施。

やることが多く、目が眩みそうになる。ジェイルなどは顔が引き攣っている。

ハルトが率先して動き出す。その目には迷いはない。その動きに、俺とジェイルは顔を見合わせた。

ジェイルは困ったような表情を浮かべ、肩を(すく)める。しかし、すぐに作業に取り掛かる。

二人が動き出したのを確認した俺は、瞳を青く染め、石パンを(かじ)り、兵站を整える。

一本の矢では折れやすいが、三本の矢を束ねれば容易くは折れない。俺、ジェイル、ハルトは正に三本の矢として放たれたのだった。




第2精製、No.190、組み合わせバターン3-2-3-5、優先順位は高。

条件1~条件3まではNo.188と同様。

条件4、混合した溶液を温度7度に保ち、12時間の保管による効能定着。

『太陽草』の赤の溶液と『銀星花』の青の溶液が時間により分離することが判明。

高い効能で抽出した溶液を混合させ、対処効能を発露させたとしても、時間経過で効能が減少しては意味が無い。

高い効能を持つ混合溶液においては、効能定着させる温度も低い方が良いのだろうか?




第3精製。No.186、組み合わせバターン3-2-3-1、優先順位は高。

条件1~条件3まではNo.188と同様。

条件4、混合した溶液を温度3度に保ち、12時間の保管による効能定着。

赤の溶液と青の溶液の分離は解消したようだが、No.188と比較すると「紫」の数値が低くなっている。

効能定着させる為の温度が低すぎる場合、時間経過による効能減少は発生しないが、効能定着も期待値に達しない、ということだろうか?




第4精製、No.38、組み合わせバターン1-2-3-3、優先順位は高。

条件2~条件4まではNo.188と同樣。

条件1、素材を溶解させる際の温度を13度とする。

No.188と比較し、同時間経過、同手順による攪拌(かくはん)を行っても、『太陽草』の素材は溶けきらなかった。

逆に、『銀星花』の素材はNo.188と比較すると、より早く溶けたことが確認出来た。

精製された赤の溶液も、No.188と比較すると色が若干薄く、混合後も赤みが薄い紫となった。

赤みが薄いということは、免疫力向上が見込めないことになり、対処が効果的でないということになる。




第5精製。No.340、組み合わせバターン5-2-3-3、優先順位は高。

条件2~条件4まではNo.188と同様、

条件1、素材を溶解させる際の温度を17度とする。

No.38の結果とは異なり、『太陽草』の素材は溶けきったが、今度は『銀星花』の素材が溶けきらなかった。

今度は青がNo.188と比較すると色が若干薄く、混合後も青みが薄い紫となった。

青みが薄いということは、鎮痛効果が見込めず、免疫力向上に鎮痛が追い付かないということだ。




第6精製。No.163、組み合わせパターン3-1-3-3、優先順位は高。

条件1、条件3、条件4まではNo.188と同様。

条件2、効能抽出、効能定着の時間をそれぞれ11時間と13時間とする。

効能抽出をNo.188と比較して短くした為、赤、青の溶液共に、澄んではいるが、若干淡い。混合後の紫も同様に淡く、効能定着をNo.188と比較して長くしても、期待した効果は得られなかった。




第7精製。No.213、組み合わせパターン3-3-3-3。優先順位は高。

条件1、条件3、条件4まではNo.188と同様。

条件2、効能抽出、効能定着の時間をそれぞれ13時間と11時間とする。

効能抽出を長くした為、赤、青の溶液共に、濁った濃い色となっている。

混合後の紫も同様に濁っており、効能定着を短くした結果、サンプルを下回る結果となった。

抽出時間が長すぎる場合、不純物まで抽出してしまい、効果が期待出来なくなるのだろうか?




第8精製。No.178、組み合わせバターン3-2-1-3、優先順位は高。

条件1、条件2、条件4まではNo.188と同様。

条件3、混合比率を赤を3、青を7とする。

青の比率を多くした為か、混合後の定着時間を経た際に、全体的には青みの強い紫が出来ており、下部に混ざり切らなかった青が残っていた。

察するに、混合比率においても、赤と青のバランスがあるのか?

今回のパターンにおいては、鎮痛効果がより高いが、免疫力向上が見込めないという結果になるだろう。




第9精製。No.198、組み合わせパターン3-2-5-3、優先順位は高。

条件1、条件2、条件4まではNo.188と同様。

条件3、混合比率を赤を7、青を3とする。

赤の比率を多くした為が、混合後の定着時間を経た際に、全体的には赤みの強い紫が出来ており、上部に混ざり切らなかった青が残っていた。

今回のパターンにおいては、免疫力向上効果がより高いが、鎮痛が見込めないという結果になるだろう。

混合比率を調整することで、No.188を上回る結果を得ることが出来るのかもしれない。




結果を整理する。

条件1における素材の溶解温度については、素材ごとに適温がある。試したパターンにおいては、15度で溶解させることが最も効果が得られること。

条件2における効能抽出、効能定着においては、「抽出>定着」ならば効果が薄くなり、「抽出<定着」ならば効果自体がサンプルを下回ってしまうこと。

条件3における混在比率については、赤と青のバランスが崩れれば適切に混ざらず、抽出した効能の混合、及び定着が望めないということ、そしてバランスを見極めれば、No.188を上回る可能性が見込めるということ。

条件4における効能定着温度については、温度により時間経過による分離が発生し、混合後の効果発生にも差分が生じること。




判明した結果より、精製の傾向を読む。

免疫力、鎮痛がより向上し。

かつ、身体に負荷が掛からず。

そして、時間経過による効能劣化が行われない。

No.188を超える精製バターンとは?




堅い岩パンを水でふやかし、口の中に詰め込む。無理矢理に咀嚼し、浸した水ごと胃の中に流し込む。

口の中に広がる不快感に顔を(しか)めるが、僅かな躊躇(ちゅうちょ)もなく、スキル行使をする。

No.188を超える精製パターンを求める為、高速思考の海に潜る。


【カロリーコンバータ・オーバーロード!】


瞳の色が青、緑を経て、深紅に変わる。未来予測を叶えるような万能感に満ちていく。

身体が熱くなり、汗が噴き出す。

――素材を溶かしきれなくては意味がない。溶解させる温度は15で固定とする……

鼻から滴る血が口、顎を伝わり、シャツが朱に染まる。

――単純に現在比率を変化させるだけでは駄目だ…定着時間と抽出時間を計算し…なおかつ劣化を防ぐには…

思考の海に潜る、潜る、潜る。

――比率を6、青4とする、または7、青3として、鎮痛よりも免疫力向上を取る。代わりに抽出は鎮痛を多くする。そして劣化を防ぐため、やや低めの温度にすれば…

滴る血はとどまらず、床にまで広がっていく。

――No.167、組み合わせパターン3-1-4-2、そしてNo.172、組み合わせパターン3-1-5-2、これだ!!

スキル行使による精製シミュレーションにより、最適解と思われる組み合わせパターンを抽出すると同時に、スキルが強制解除される。

全身に満ちていた万能感は、潮が引くように消え去る。瞳が黒に戻された俺は膝から崩れ落ち、床に両手を着く。そして、荒い呼吸を繰り返す。

破綻した兵站を整えようと、岩パンを少しずつ(かじ)るが、喉を通らない。

水で強引に流し込み、意識を繋ぎとめる。

そして、慌てて駆け寄ってきたジェイルとハルトに、分析結果と今後の対応について説明するのだった。




「傾向は掴みました。次に行うのはNo.167とNo.172です」

「私の分析と計算が正しければ、共にNo.188の効能を超えた結果になるでしょう」

「No.172は、より効能が強いですが負荷も高い為、『灰咳』症例者の最終段階に陥ってしまった方を対象にするつもりです」

「流石に疲れました…私は一旦休みます」

「ハルトさん、準備だけお願いします。ジェイルさん、申し訳ありませんが、(ぬぐ)うものを用意して頂けませんか?」

汚れた床を掃除しようとする俺を、ジェイルは無言で制す。そして俺を抱きかかえ作業室を出ていく。

「とりあえず、お前は休め。倒れるか、死ぬぞ」

ジェイルはそう言うと、仮眠室らしきところの寝床に俺を放り込んだ。

「24時間休め。これは同志としてのお願いだ。お前に倒れてもらう訳にはいかんのだからな」

替えのシャツと濡れたタオル、そして水差しを用意し、ジェイルは去っていく。

仮眠室の寝床に置かれた俺は、血で汚れた顔をタオルで拭い、朱に染まったシャツを脱ぎ捨てる。そして新しいシャツに袖を通す。薬師ギルドで洗浄してある所為か、僅かに薬臭が鼻につく。

用意された水差しの飲み物を口にすると、砂地に零れた水のように、全身に染み渡り広がっていく気がする。

水差しの中身が半分ほどになると、ようやく人心地がつく。そして、猛烈な眠気が襲ってきた。

俺は抗えず、意識を手放す。ジェイルとハルトに後を任せて。


■執筆裏話

パターン検証の描写を書くのが、意外に楽しかったです。


評価、感想、御待ちしております。執筆のモチベーションアップに繋がりますので!

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