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メインエピソード2【盤上の改革、監査チーム発足】㉔ / 灰咳奔走編

資材管理部部長のバックアップを受けた俺は、薬師ギルドへと再度向かう。

先の訪問と変わらぬ雰囲気の中、俺はハルトの部屋へと歩を進めた。

扉の前に辿り着くと、ポーション生成、精製に伴う独特の薬臭が鼻につく。どうやら作業を開始しているらしい。

入室した俺に気付いたのか、ハルトは作業の手を止め、こちらに顔を向ける。

「おかえりなさいレオンさん。…その顔ならば、いい結果を持ち帰れたようですね」

俺の表情より結果を察したのだろう、答えを待たずに作業台に向き直る。

物事に優先順位を設け、作業に没頭することが出来るのは、研究者の大事な要素だ。必要連絡があるのならば、俺から言葉が向けられるだろうと、自作業を優先させている。ハルトは薬師ギルドにとって有益な才能を開花させようとしていた。




当面の作業はハルトに任せ、俺は素材調達で得られた時間よりタイムスケジュールを組み上げる。限られたリソース(時間)で効率的な成果を求められるのは、経理課で慣れたものだ。

パターン分の生成、精製を行う為の時間、投薬後の効能発揮までの時間、症例再発有無の確認時間。

瞳を青に染め、スキル起動する。高速思考の中、様々な観点より、かかる時間を挙げ、効的なスケジュールを組み上げる。

375パターン全てに対し、各工程を最初から実施する必要は無い。

並列作業により時間短縮を図る。同じ条件となる工程は共通化して時間短縮を図る。

条件ごとにかかる時間と、共通化できる工程を書き出し、空き時間が出来ないよう並列化する。

スケジュールを組み上げ、スキル解除する。疲労と頭痛を感じながら石パンを(かじ)っていると、扉の向こう側より騒がしい足音が聞こえてくる。

施療院との交渉に向かっていたジェイルも、返ってきたようだ。

扉が開けれ、ジェイルが入室する。その音でハルトは振り返り、俺を含めた三者が顔を突き付けあう。

これで役者は揃った。状況を報告し合い、認識を整理、共有する。

状況は依然厳しいままであるが、決して先行きが見えない訳ではない。歩みを止める訳には行かない。

俺達は次の準備に取り掛かるのだった。




ジェイルの報告。施療院との交渉について。

素材納入については、一括納入で話がついた。

施療院側に対し、大規模発注である故に、確保が容易ではない旨と、分割納入した場合のデメリットを提示すると、しぶしぶながらも一括納入に合意したそうだ。

文句を言う担当者に、ジェイルは伝授した小技を披露したそうだ。その担当者は露骨に嫌な顔を浮かべていたらしい。どこも手間が増えるのを嫌がるのは変わらないな。

期限として、薬師ギルドが冒険者ギルドより素材納入後、検品、状態確認が完了し次第的入するとを伝えたとある。

検品、状態確認については、より換算すると、1日はかかる見込みとなる為、冒険者ギルドからの納入+1日が施療院への納入期限となる。

ハルトの報告。対処薬の進捗について。

先行して、前準備として必要な『太陽草』、及び『銀星花』を粉砕して粉末状にし終えたところとなっている。

この後の手順として、条件1「指定温度の『月涙水』に溶融」させ、条件2「指定時間効能抽出」し、条件3「指定割合で混合」し、条件4「指定温度で効能定着」させる。

条件1と条件4について、指定温度をパターン分用意する必要がある。そこで、ジェイルに用意させた各種魔石を使用し、一定の温度調整を図る。

条件2は時間の組み合わせとなり、条件3は混合比率の組み合わせとなるので、特別な道具は必要ない。

生成、精製を行う為のスペースと各補器具の調達については、既に申請済みであるらしい。

俺の報告。素材調達、冒険者ギルドへの根回しについて。

資材管理部に協力を取り付け、納入まで1週間かかる旨を伝える。

これから薬師ギルドより冒険者ギルドに対して注文を行い、見積もり、合意のプロセスを経る為、実際に薬師ギルド宛に納入されるのは一週間+1日後になるだろう。

なお、この間は、冒険者ギルドから薬師ギルドへ短期出向扱いになっている旨も伝えておく。

各自の報告による情報共有を終えた俺達は、不明点、疑問点が無いことを確認する。

パーツは揃った。後は組み上げるだけだ。

顔を見合わせ、無言で箱き合う。

素材確保、及び納入。375パターンの網羅。納入期限の確定。

素材調達、交渉はジェイル、対処薬の生成、精製はハルト、統括及び各種サポートは俺。役割を分担し、行動に移す。

足並みは異なるが、目指している場所は同じだ。

互いが互いの仕事を信じ、動き出すのだった。




冒険者ギルトへの素材調達に向かうジェイルに、相当すると思われるビリーの人となりを伝える。

任せとけ、と軽く言い放つジェイルに一抹の不安を覚えながら見送る。

生真面目な気のあるビリーと、奔放な気のあるジェイルでは、なかなか噛み合わないかもしれない。

だが、目指す場所は同じはず。互いの能力が分かれば(わだかま)り無く作業を進められるだろう。




残ったハルトと俺は、分業して生成、精製に臨む。

中央パターン、つまり条件1、条件2、条件3、条件4の組み合わせが3-2-3-3となるパターンを最優先で精製する。

このパターンと、サンプル(既存の対処薬)を比較し、効能の基準とする。

そして優先順位の高位から順に精製、比較を行い、結果を網羅させ、法則及び効能を取り纏める。

最も効能が高く、効果に期待が持てるパターンで、『灰咳』に対する治療効果有無を確認する。

経過観察なども見る必要がある為、時間は幾ら有っても惜しい。

俺はジェイルより調達された素材を、既定の手順に沿って粉砕し、粉末化する。

ハルトは各種魔石を用いて、試験管内の「月涙水」が指定温度に保たれるよう調整している。

温度調整が行えたことを確認後、いよいよ精製工程に入った。

俺達にとってはたった1パターンの施行になるが、薬師ギルドにとっては偉大な飛躍になる。

思わず某宇宙飛行士の言葉を引用したくなる。

伝承を逸脱するという、目に見えない鎖から解き放たれる、大いなる瞬間になったのだから。




第1精製。No.188、組み合わせパターン3-2-3-3、優先順位は最優先。

条件1、月涙水の温度を15度に設定し、太陽草、銀星花を溶解。

条件2、溶解時の温度を保ちつつ、12時間の効能抽出。

条件3、抽出した溶液を1対1の割合で混合。

条件4、混合した溶液を温度5度に保ち、12時間の保管による効能定着。

結果、サンプル(既存の対処薬)と比較すると、免疫力向上の「赤」、鎮痛の「青」、混合した施薬としての「紫」共に、サンブルの値を大きく上回っていることを確認できた。

やはり、先人の偉業は何かしらの勢力により潰されそうになっていたのであろうと予測できる。

No.188を基準として、優先順位の高いパターンを確認していく。

時間差で効能抽出と効能定着が行われるようスケジュールを組んでいる為、確認を五月雨(さみだれ)式で行う必要がある。

キツい作業となるが、この労苦の先には希望が見えている。適度の休憩を設け、集中力を落とさず、慎重に作業を続けて行こう。

試験管の紫は何も言わず、静かに(きら)めいていた。


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