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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第15章

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第377話:足掻く その7

 西の大規模ダンジョンを破壊してから学園へと帰還し、初めて迎えた日曜日。


 その日、俺達は元々予定されていた凱旋パレードを行い、前回同様王城で国王陛下から勲章や褒賞の授与を受けることとなった。


 前回は俺が第二等勲章の『白銀王花勲章はくぎんおうかくんしょう』を授与され、透輝達が『赤銅百花勲章せきどうひゃっかくんしょう』を授与されたが、今回は透輝とモリオンが『白銀王花勲章』を授与され、アレクに『赤銅百花勲章』が、残ったナズナ達には『白銅百花勲章』が授与されることとなった。


 アイリスが他所の世界から召喚してしまった透輝、実家が直臣のモリオンは一段高い勲章が与えられ、実家が陪臣のナズナ、オレア教関係者ということになっているメリアやリリィは第三等勲章を追加で渡し、政治的なバランスを取ったのだろう。


 『白銅百花勲章』は俺も授与されたが、軍事や政治、経済以外、()()()の分野で優れた功績を挙げた者へ贈られるものなんだが……適当な勲章が他になかったのだと思われる。


 そんなわけで、王都の民向けの()()()のパレードと勲章の授与が終わり、平和な日常が戻ってきた――のだが。


「はー……こりゃすげぇ……これ、全部『召喚器』なのか……」


 月曜日の放課後。俺は透輝を連れて図書館を訪れ、オリヴィアに許可を取った『召喚器』の保管庫へと足を踏み入れていた。ちなみに護衛としてナズナもついてきているが、入室の許可が出ていないため図書館の中で俺達を待っている。


 以前にも訪れたことがあるが、相変わらず何百という『召喚器』が置かれたその部屋は圧巻の一言である。


 俺が透輝をここに連れてきた理由はただ一つ。消耗してしまった『宝玉』をどうにか補充するためだ。


 『花コン』ではミナトの『召喚器』を砕くことで消耗した『宝玉』を一つ、回復することができた。そのため『召喚器』を透輝に破壊させ、『宝玉』の回復ができないかを試すのが今回の目的である。

 ただ、『召喚器』は持ち主の魂の具現と呼ばれるだけあり、非常に重い意味を持つ代物だ。本来なら俺の『召喚器』を破壊できるか試してもらうところが、まずは持ち主がいない()()()()()『召喚器』で試してみようということになったのである。


 俺の本の『召喚器』は俺の身体能力を強化してくれているし、仮に破壊してしまえばその恩恵もなくなるだろう。そうなった場合、俺の強さは一気に失われる可能性が高い。


 『瞬伐悠剣』があるため戦えなくなるということはないだろうが、『宝玉』の回復が必ず行われるのならまだしも、不明瞭な状態で実際に『召喚器』を破壊させるほど俺も無計画ではない。まずは保管庫の『召喚器』で試すべきだろう。


 そう思った――のだが。


「あの……ししょー? 破壊するも何も、滅茶苦茶硬くて無理なんすけど……」


 オリヴィアの許可も取ったし、使い手もいない。


 そんなわけで目についた直剣を透輝に斬らせようとしたのだが、『鋭業廻器』を使っても直剣が斬れず、透輝の手を痺れさせる結果で終わってしまった。


 透輝は涙目になって俺に報告してくるが、俺としてははいそうですかと諦めるわけにはいかない。


「んー……さすがに武器の『召喚器』は硬いからな。こっちの『召喚器』にしてみようか」


 『花コン』ではミナトが使っていた『陰我押法いんがおうほう』を叩き折っていたし、今の透輝の腕なら武器を破壊することもできると思ったのだが、そう簡単にはいかないようだ。


 そのため俺は用途不明の帯状の『召喚器』を手に取る。おそらくはキッカの国のものなのだろう。和服を締めれば似合いそうな赤色を基調とした帯だ。


「よし……こい!」


 俺は帯を掴んで引っ張り、透輝が斬りやすいようにする。それを見た透輝は『鋭業廻器』を振り上げ、迷いなく振り下ろした。


「布ならいける――って、嘘だろっ!?」


 迂闊に触れれば指が落ちそうなほどの切れ味を誇る『鋭業廻器』だが、『召喚器』が相手ではさすがにその切れ味も通じないのか。帯の『召喚器』は『鋭業廻器』の刃をしっかりと受け止めてたわみ、勢いを跳ね返すように反発する。


「……マジか。さすがに布地だから斬れると思ったんだが」


 俺も思わず呆然と呟いてしまった。『召喚器』がここまで頑丈だとは思わなかったのだ。


(えぇ……それならなんで『花コン』では『陰我押法』が砕けたんだ? ゲーム上の都合? 演出? ミナトがボコボコにされて心が折れたから? って、それが一番あり得そうだな……)


 『魔王の影』に騙されたり、モリオンやナズナといった配下に裏切られたり、婚約者候補カリンに謀殺されそうになったり、コハクやモモカからは煙たがられたり、周囲からは白い目で見られたりと、メンタルがボロボロになるような目に遭わされるのがミナトという存在である。


 その上で幾度も主人公に負け、最終的に精神たましいが圧し折れて『召喚器』も砕かれてしまった、なんて考えると納得もできる。


 心から敗北を認めてしまえば、魂の具現である『召喚器』も脆くなるのではないか、なんて推測だ。ただ、そうだとしても持ち主がいない『召喚器』がこれほどまでに頑丈だというのは予想外だが。


(いや、待てよ? 死んだからって必ずしも『召喚器』が残るわけじゃない。『召喚器』が残るほどに強い思いがあったとか、精神が頑丈だったとか、そういう理由がある……とか?)


 だからこそ、ここまで頑丈なのではないか。俺も『瞬伐悠剣』の頑丈さと切れ味にずっと助けられてきたのだ。これが折れるということは、魂から屈服した証なのかもしれない。


(それでも限度があるはず……どうにか破壊できないか?)


 布地の『召喚器』でさえ斬れないのだから、他の『召喚器』も望み薄だろう。そう思うものの、それなら強引にでも破壊してしまえ、なんてことを考える。


「よし……透輝、俺はこっちの杖で殴りかかるから、そっちも迎え撃って打ち合おう。二人分の腕力なら斬れる……かもしれない」

「それ、斬れたらそのままミナトも斬れちゃうやつじゃね? ま、まあ、頑張って寸止めするけどさ」


 俺は目についた木製の杖の『召喚器』を手に取り、両手で握って構える。杖の先端には宝石がついたまさに()()使()()()()と言わんばかりの外見だったが、長さが一メートル近くあるため振るうのに丁度良かったのだ。


 握り心地はあまり良くないが、それでも木刀の代わりと思えば悪くない。両手を細かく動かしてしっかりと握り込むと、透輝に向かって踏み込み、全力で振り下ろす。


 スギイシ流奥義――『閃刃』。


 全力も全力。奥義を放つ俺に対し、透輝もまた、『閃刃』で応戦した。『鋭業廻器』の切っ先と杖の先端がぶつかり、硬質な音を立てて拮抗する――。


(って、これでも斬れないのかよ!?)


 『閃刃』同士がぶつかったにもかかわらず、杖の『召喚器』は健在だった。『鋭業廻器』の刃がめり込んですらいない。こんなことに使うな、と言わんばかりに杖の宝石が煌めいている気さえした。


「硬っ!? うわ……さっきの帯もだけど、この見た目で斬れないのってなんかショックだな……」


 思わず頭を抱える俺と、剣士としてのプライドが傷ついたと思しき透輝。うん、その気持ちはよくわかる。斬れそうなのに斬れなかったとなると、剣士としてものすごいストレスになるのだ。


 たとえるなら、ゴミ箱に向かってゴミを投げて入らなかった時の苛立ち。それを何百倍にして濃縮したような感じである。あるいは千倍、万倍か。


 武器は駄目、布でさえ駄目、木材も駄目。そうなると当然、他の『召喚器』も無理だろう。防具系の『召喚器』は元々頑丈だし、それ以外の『召喚器』でさえ駄目そうだ。


「斬れそうな『召喚器』……うーん……って、ミナト? このデカいのって何? ロボットみたい……って、通じないか……」


 そうやって斬れそうな『召喚器』を探していると、透輝が部屋の中央にある大きな鎧に目を向けた。以前オリヴィアから由来を聞いたことがある、オオイシの鎧だ。


 相変わらずロボットみたいな外見をしているが、透輝の目から見てもそれは同じだったらしい。どことなくワクワクしたような、目を輝かせて尋ねてくる透輝に俺は苦笑を返す。


「オレア教で祀っている三人の英雄の一人、オオイシ殿が使っていた『召喚器』だそうだ。壊すなよ? 管理人オリヴィアに俺が怒られちまう」


 実際は怒られる程度では済まないと思うが、そう言う他ない。ただ、もしも斬れるなら、なんて考えてみたが、軽く叩いてみただけでもその硬さが伝わってくる。透輝も『鋭業廻器』で軽く突いているが、切っ先が弾かれるばかりでめり込むことさえなかった。


(仕方ない……最後の手段だが)


 そんなことを思いつつ、俺は本の『召喚器』を発現する。そして透輝に向かって掲げると、苦笑しながら言う。


「あとは俺の『召喚器』ぐらいだが……斬れるなら斬ってくれ」

「いや、でもさぁ……もしも斬れちゃったらどうするんだよ……『召喚器』って大事なものなんだろ?」


 かつて『王国北部ダンジョン異常成長事件』の際に、ボスモンスターと化したデュラハンでさえ斬れなかったのだ。いくら透輝の腕と『鋭業廻器』の切れ味があろうと望みは薄いが、透輝は()()()を考えたのか乗り気ではない。


「俺が持つ知識だと俺の『召喚器』を砕けば『宝玉』が回復するんだよ。ただ、『召喚器』自体が違うからな……多分、無理だとは思うが……」

「……そこまで言うならやってみるけどさ」


 渋々、といった様子で剣を構える透輝。その様子から、どうせ無理だろうし、という諦めが透けて見えた。そして剣を振りかぶったかと思うと、横薙ぎに剣を一閃して俺の『召喚器』を斬ろうとする。


「っ……」


 だが、やはりと言うべきか無理だった。刃が本の表面で止まり、毛ほどの傷も残すことなく静止している。


「……駄目かぁ」


 思わず呟く。そうじゃないかな、とは思ったが、実験は失敗に終わってしまった。透輝は透輝で、俺の『召喚器』が斬れなかったことに安堵している様子だ。


「まだ他にも『召喚器』があるし、片っ端から試してみるか」


 何百という『召喚器』がここには眠っているのだ。一つぐらい破壊できるものがあるかもしれない。


 そう思ったが結局、色々と試したものの『宝玉』を回復させることはできなかったのだった。

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― 新着の感想 ―
まだ名前を教えてくれない召喚器くん、ご主人様公認で切られそうになって余計スネてしまいそうだw
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