第376話:足掻く その6
ナズナと話をしながら馬車に揺られること、一時間。
王都に到着した俺はそのまま馬車を走らせ、第一層の王城へと向かう。
そして物言いたげなナズナの視線を受けつつも馬車のことを頼み、城内に足を踏み入れ、西の大規模ダンジョンの破壊に関して報告に来た旨を伝えたら大した待ち時間もなく三階の応接室へと通された。謁見の間ではないあたり、まずは私的に報告を受けようということなのだろう。
応接室にはある意味普段通りというべきか、国王陛下とネフライト男爵がいた。ついでにいえば応接室の扉脇には俺達が以前スギイシ流を教えた兵士が立っており、職務中にもかかわらず俺に向かって敬礼を向けてきたため苦笑を返しておいた。
「久しいな、ミナトよ。そして今回の件、まことに大儀であった」
「まずは陛下に報告を」
国王陛下からは労われ、ネフライト男爵からは報告を促される。そのため俺は西の大規模ダンジョンに潜った日のことから端的に、それでいて不足がないよう報告を行っていく。この辺りは最早慣れたものだ。
バリスシアが白虎と共に待ち構えていたこと、俺と透輝達に別れて戦ったこと、バリスシアを撃退したもののそれは罠でアスターから不意打ちを受けたこと、そして俺が死に、透輝の『宝玉』で蘇生したこと、白虎を仕留めてダンジョンを崩壊させたこと、あとはその後のはぐれモンスターの討伐などに関して口頭で報告していく。
これらの報告に関しては報告書としてまとめて提出してあるし、俺が死んで云々はオリヴィア経由で知られているだろう。だが、当事者の口から報告するというのは一種の様式美みたいなものだ。
そうして報告をして、妙な間というか、沈黙が下りる。国王陛下もネフライト男爵も、ほんの少しだけ表情に疑惑の色が混ざっていた。
「ミナト殿。先ほど報告にあった、一度死亡して生き返ったというのは……」
「事実です。アスターに背後から心臓を突かれまして……たしかに一度死に、そして透輝の『宝玉』で蘇りました」
「そうか……にわかには信じ難いが……」
ネフライト男爵からの質問に答えると、納得半分疑問半分といった様子で頷かれる。俺は当事者だし、『宝玉』も『花コン』で知っていたからすぐに納得できたのだが、第三者が聞けば眉唾物だろう。
「ふむ……今朝方教主殿から話を聞いたし、お主からの報告はその辺りを省いて家臣に共有してある。余の家臣にそのような間抜けはいないと期待したいが、『宝玉』とやらを不老不死の道具だと考える者がいるかもしれないのでな」
「アレはそんな便利なものじゃないんですが……そんなことを考える方も出ますか」
「出るだろうよ。死んだ人間を生き返らせることができたというだけで破格の力だ。それなら不老不死も、なんてことを考える者が絶対に出る。トウキ=テンカワの身の安全のためにも緘口令を敷いておかねばな」
そう言ってため息を吐く国王陛下。どうやら陛下自身は不老不死には興味がないらしい。
「おや、陛下は不老不死にご興味はないので?」
俺と同じことを思ったのか、ネフライト男爵がからかうように言う。半ば私的な場だからこその問いかけだろう。
「追い求める者がいるのは理解する……が、余はいらんな。不老不死になってみろ。国王の椅子から降りられなくなるではないか。死ぬまで働き続けろと言うのか?」
「不老不死ならいくら働いても死ねませんけどね」
ネフライト男爵のツッコミにハハハ、と笑い合う。ブラックジョークも良いところだろう。
そして、わざわざそんな冗談を飛ばしたのも自分が死んだことを報告する俺を慮ってのことだと思う。
「なにはともあれ、西の大規模ダンジョンを破壊できただけでなく、『魔王の影』……それも厄介だったアスターを仕留められたのは大きい。これで余も枕を高くして眠れるというものだ」
「陛下の安眠をお守りできたのなら、家臣としてこれ以上の栄誉はありませんな」
今度は俺がそう言えば、国王陛下もネフライト男爵も笑ってくれる。いやぁ、良い雰囲気だ。これからのことを報告する前振りとしてはこれぐらいで十分だろう。少しの間笑い合い、タイミングを見計らってから国王陛下が口を開く。
「それで、だ……残った大規模ダンジョンの破壊に関して意見が欲しい。余としてはもう一ヶ所攻略してどちらかだけを残すことも検討しているのだが、破壊することは可能か?」
「可能です。ただ、『魔王の影』が何か仕掛けてくる可能性を考えると、ランドウ先生を動かしたいですね」
「ランドウ=スギイシか……アスターを仕留めた以上、暗殺もそこまで警戒しなくて良くなった。教主殿は本人が強いとはいえ、警戒するに越したことはないからな。ただ、『最深ダンジョン』のことを考えるとあまり動かしたくないが……」
そう言って国王陛下が気にかけたのは、学園の地下にある『最深ダンジョン』についてである。
『花コン』ではグランドエンドルートに進むと稼働するが、国王陛下がそれを知るはずもない。というか、現実のこの世界だと別の条件で稼働する可能性もあるのだ。
元々メリアが学園からあまり離れられなかったのもそれを警戒していた部分があり、二年目からはランドウ先生が赴任したことで戦力的に問題がなくなったというのもあるだろう。
あとはまあ、ランドウ先生に動いてもらうと俺達の経験にならないというのが大きかった。全部ランドウ先生一人でいいんじゃないかな、なんてことになりかねないのである。そうなると主人公の育成にも支障が出てしまうだろう。
(でも、透輝もだいぶ成長したし、ランドウ先生に協力を頼むのもありといえばありなんだよな)
しかしながら、透輝も既に一人前の剣士として成長した。魔法に関してもそれなり以上に使えるし、ランドウ先生の手を借りたからといって頼り切る状況にはならないだろう。
そんなわけで、残った二つの大規模ダンジョンに関してもどちらか片方の破壊を検討しても良いのだが――。
「しかしながら陛下、大規模ダンジョンを破壊する度に残ったダンジョンのモンスターが強くなっているというのも見過ごせません。もう一つ破壊したとして、『魔王』が発生した際に残った大規模ダンジョンから強力なモンスターの群れが出てくる、なんてことになりかねませんが……」
この辺りは『花コン』でも曖昧な部分である。大規模ダンジョンを破壊する度に残ったダンジョンではモンスターが五レベルずつ強化されていくが、『魔王』が発生した際に溢れ出るモンスターの全てがそうであるという保証はない。
だが、『魔王』が発生した時だけモンスターが弱くなると考えるのは楽観視が過ぎるだろう。そのため強化されたモンスターが出てくると考えるべきだが、そうなると大規模ダンジョンをどこまで破壊するかが鍵になる。
残っているのは東と南の大規模ダンジョンだ。このどちらで『魔王』が発生したとしてもすぐに各貴族の軍や王国騎士団などをぶつけられるようにする予定だが、『魔王』が発生する予測地点を一ヶ所に絞れるのならそれに越したことはない。
要は戦力の配置のしやすさを取るか、敵モンスターの強さを取るかということだ。無論、これはあくまで残った大規模ダンジョンから『魔王』が発生するという前提があってのことである。
全部破壊すれば大規模ダンジョンの跡地からランダムで、グランドエンドルートなら『最深ダンジョン』で『魔王』が発生するが、あくまで『花コン』での知識の話だ。
『魔王の影』が何か仕出かし、『魔王』の発生地点が変わっても良いよう、全ての戦力を南東方向に配置するわけではない。他の方角にも最低限ながら戦力を置き、竜騎士で連絡を取り合って戦力を移動させる予定になっている。
(その上で考えると、モンスターの五レベル差をどこまで重視するかだよな……明確に差があるけど、あくまでそれだけって感じだし)
それに、と内心で呟き、俺は話の続きを口にする。
「一ヶ所だけ残した場合、最悪、『魔王の影』が自らダンジョンを破壊して別の場所に『魔王』を発生させる、なんて可能性も考えなければなりません。教主殿の見立てでは破壊した大規模ダンジョンのいずれかで『魔王』が発生する、とのことで……」
「……あり得るか?」
「奴らならば」
本当は俺がオリヴィアに渡した情報だが、『花コン』がどうとか言うわけにもいかず、一番説得力があると思われる形で告げる。
交戦した『魔王の影』は二体だけだが、奴らならやる。そう答えるしかない。
こちらが戦力を集中させたのを見て、残った大規模ダンジョンを破壊。そうすることで別の方角で『魔王』を発生させ、こちらの後背を突く……なんてことも平気でやりかねない。
大規模ダンジョンを二ヶ所残すというのも、その辺りを躊躇させる目的があった。まあ、『魔王』が発生するまでに『魔王の影』を全員仕留めることができれば、その辺りのことは心配しなくても良くなるのだが。
(せめて参謀役のスファレライトを仕留められれば……)
リーダー役はスイレンだが、向こうの頭脳を破壊できれば『魔王の影』の脅威度はぐっと下がる。ただし向こうもそれは百も承知しているだろうから、『魔王』が発生するまで出てこないだろうが。
「ふむ……たしかにそうだな。こちらの戦力をギリギリまで引き付け、自ら大規模ダンジョンを破壊する……そうした場合、予定以上に被害が広がるか」
口元に手を当てながらそう呟く陛下に、俺は頷きを返す。
(普通のダンジョンと同じで、『魔王』に近付けば飼い慣らした飛竜も野生に帰ってしまうはずだ……『魔王』と共に発生したモンスターの相手を兵士に任せつつ、キュラスで『魔王』を直撃して仕留めるしかない……)
そのための透輝やランドウ先生、メリアなのだ。あとはそこに俺が加わり、モリオン達に露払いを頼んで突撃する。それが一番勝率が高い戦法だろう。
この戦法の良いところは、最悪、『魔王』の発生地点が予測から外れたとしても実行できるという点だ。キュラスという航空戦力で敵の歩兵を跳び越え、直接『魔王』を叩くことができる。
ただ、他の兵力がないとモンスターに囲まれて袋叩きにされながら『魔王』と戦うことになるため、可能なら兵士達と一緒に戦いたいところだ。
「それらの可能性を含めて軍部に作戦を検討させるとしよう。では次に、今回の件の褒賞と凱旋パレードに関してだが……」
そうやって話をしていると次の話題に移り、それを聞いた俺は真剣に内容を確認していくのだった。




