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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第14章

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第365話:二度目の戦い その4

「あー……くそっ、逃がしたかぁ……」


 地面の隆起が止まり、バリスシアの気配が完全に消えてしまったのを感じ取った俺は、思わずため息を吐くようにして呟いた。


 バリスシアの手によって隆起した地面はちょっとした山とも言える高さと規模になっており、見上げるほどの大きさになっている。俺が立っているのはその()()()()といったところで、透輝達の姿が見えないほど引き離されてしまったようだ。


 地面ごと持ち上げられた木々が不自然にあちらこちらへと枝先を向けており、自然にできた山ではなく人工の雑木林みたいになっている。


(いくらダンジョンを操作できるといっても限度があるだろ……こんな山みたいな障害物を作りやがって……)


 ダンジョン内の地形が変化するのはよくあることだが、さすがに限度があるだろう。そんなことを思いつつ、俺は呼吸を整えるように数度深呼吸をする。バリスシアは逃がしたが、白虎がまだ残っているのだ。


 ただ、前肢は両方とも失っていたし、あとはとどめをさすだけだろう。そう思った俺の考えを裏付けるように、遠くから白虎の断末魔が聞こえてくる。そして、それと同時に大規模ダンジョンを覆っていた重厚な威圧感に大きなヒビが入るのを感じ取った。


(……バリスシアは取り逃がしたが、なんとか無事に終わったか……)


 北の大規模ダンジョンでも経験したが、ボスモンスターが命を落とし、大規模ダンジョンの崩壊が始まった合図だ。


 それを悟った俺は、周囲の威圧感が空気に解けて風のように()()()()()()()()()のを全身で感じ取る。おそらく、残っている東や南の大規模ダンジョンへと流れているのだろう。もちろん、全部が全部流れてるのではなく、大半は空気中にでも溶けていくのだろうが。


(今回も……いや、バリスシアは予想外だったけど、今回の方が楽だったか。モンスターの襲撃もそこまでなかったし、白虎もほぼ透輝達だけで倒せた。こうなると本当、バリスシアを取り逃がしたのが痛いな……)


 片手落ちというか、なんというか。あんなに戦う気満々だったというのに、多少不利になっただけで逃げるとは思わなかった。まあ、あそこまで追い込めば後は仕留めるだけだったから、逃げるのも妥当と言えば妥当なのだが。


(決着は次に持ち越し、か……)


 今回はアレクが『悲運幸運悲喜交々』を使ってくれたおかげで逆転ができたが、アレがなければどうなっていたか。接戦を演じることはできていたが、勝てたかどうかと聞かれると微妙なところである。


(ダンジョンを破壊したばかりだけど、まだまだ修行が足りないか……帰ったらランドウ先生に鍛え直してもらうかな)


 前回戦った時と比べると、きちんと()()()()()()()()。それは自信を持って言えるが、バリスシアに勝つためにはもっと強くならなければ――なんて考えていたら、リリィが駆けてくるのが見えた。剣を片手に何やら慌てた様子である。


「お父さん、大丈夫!? バリスシアはどうなったの!?」


 どうやら白虎を倒してすぐさま駆け付けたらしい。忙しないことだが、それだけ俺の心配をしてくれたのだろう。


「この山を作って逃げちまったよ。そっちはきちんとボスモンスターを仕留めたっていうのに、情けない限りだ」

「そ、そっかぁ……でも、お父さんが無事で良かったよ」


 胸に手を当て、ほっと安心したように息を吐くリリィ。バリスシアがいないとわかったからか、歩調を緩めて気を抜いた様子で近付いてくる。


 バリスシアが撤退し、白虎が死んで大規模ダンジョンが崩壊し始めた。あとは威圧感が消え失せるまでこの場に残り、ダンジョンが崩壊してもそのまま残っているモンスター達の()()()を手伝ってから学園に戻ることになるだろう。


(まさか今回も一回の挑戦でダンジョンを破壊できるとはな……これならもう一ヶ所ぐらいいけるんじゃないか? 『魔王』が発生する場所を一ヶ所に絞った方が迎撃も簡単だろうし……)


 北の大規模ダンジョンみたいに一度で攻略できるとは思っておらず、予定ではもう少し時間がかかると考えていた。そのため東か南の大規模ダンジョンも破壊できるんじゃないか、なんてことを考えながら俺は剣を鞘に納める。


(でも、大規模ダンジョンを二ヶ所破壊したから、残ったダンジョンはモンスターが十レベル分強くなってるんだよな……もう一ヶ所破壊したら十五レベル分になるか。そのダンジョンで『魔王』が発生したらモンスターが強くなりすぎるかもしれないし、やっぱりここで打ち止めかな?)


 その辺りの判断はオリヴィアや国の上層部が行うことになるだろう。


 兎にも角にも、透輝達と合流してキュラスを呼び、最寄りの町へ移動してダンジョンの破壊に成功したことを報告しなければならない。そうすれば竜騎士が各地に飛び、後処理を進めていくことになるはずだ。


(学園に帰るのは……もう少し先になるか。ま、こればかりは仕方ないな)


 そんなことを考えながら、リリィを連れて歩き出す。リリィが駆けてきた方向に進めば透輝達もいるだろう。


 そう考えて――違和感があった。


 何かを見落としている気がする。バリスシアは逃げ、白虎は死に、大規模ダンジョンは崩壊を始めているというのに、妙に引っかかるものがあった。


 それが何なのか、すぐには出てこない。だが、剣士としての直感が異常を叫んでいる。


()()()()、どうしたの?」


 ――違和感は、背後にあった。


「っ!?」


 咄嗟に身を捻るが、遅かった。


 背中に熱が走ったかと思うと、そのまま激痛を超えた痛みや衝撃と共に剣が俺の胸部から生え、真紅に濡れた切っ先を覗かせる。


 部分鎧と肋骨の隙間を縫うようにして、寝かせた刃が肋骨の間を貫通させるような軌道で深々と刺さっていた。そして、とどめをさすように()()が加えられ――。


「ぐっ……がぁっ……!」


 血を吐き出すように叫びながら、右手で抜剣。激痛を飲み下しながら背後に向かって剣を振るが、体勢的に無理があった。返ってきた痛みの割に剣筋が乱れた、弱々しい一閃しか繰り出せなかった。


「ふふふっ……良い勘をしてるけど、気付くのがほんの少し遅かったね」


 そんな俺の斬撃を悠々と回避し、剣を引き抜きながら距離を取ったリリィが笑う。なんとも歪な、口元が裂けるような笑みだった。


「リリィ……じゃ、ねえ、な……アスター……か……」

「御名答! うんうん、すごいね、お父さん。ダンジョンが崩壊する気配に紛れて近付いたのに、直前で気付くなんて……ま、それでも回避できなかった以上、無駄だったけどね?」


 拍手をしつつ、くすくすと嘲るように笑うアスター。


(ち……くしょう……油断、した……)


 背中から胸部にかけての傷は剣を捻られたせいで傷口が広がり、激痛と共に大量の血が零れ落ちていく。気を抜けば指先から力が抜け、剣を落としてしまいそうになる。


 ポーションを使おうとしたが、剣で刺したついでに抜き取ったのだろう。アスターの手の中に回復ポーションの瓶がいくつも握られているのが見えた。


「ふふっ……痛い? ねえ、痛い? どうなの? 教えてよ、お父さん」

「っ……」


 怒りで声を上げれば、そのまま口から血が溢れ出そうになる。そのため喉をせり上がってくる液体を激情と共に飲み下し、俺は剣を構えた。


「えっ? 嘘、戦うの? そのザマで? その傷で? 戦えるの? 勝てると思うの?」


 俺の動きを見たアスターが目を丸くして言う。俺の行動に驚いたのもあるだろうが、心底から馬鹿にしたような声色だった。


「ふふふ……あははははははははっ! 嘘でしょ! バリスシアから聞いたけど、本当に死にかけても戦おうとするんだ! すごいすごいっ! すごいよお父さん!」


 ケラケラと、腹を抱えるようにしてアスターが笑う。それを見ながら俺は前へ進もうとするが、一歩が重い。体が動いてくれない。


「いや、無理でしょ。心臓を貫いたのに動けるわけないでしょ」


 そう言われて、ああ、と納得した。


 道理でろくに呼吸ができないし、体が動かないわけだ。前世でも同じように刺されたからよくわかる。


 仮にポーションが手元にあったとしても、これはもう、無理だ。


 ――致命傷だって、よくわかる。


「いやぁ、それにしてもおかしいと思わなかった? 大規模ダンジョンなのにモンスターが少ないわ、真っすぐボスのところまで行けるわ……バリスシアも誘い込むためだって言ってたでしょ? 駄目だよお父さん、ちゃんと疑わなきゃ。それに、()()()はダンジョンの外でやらないと」


 一秒ごとに死に近づく俺を見て、アスターが楽しそうに笑う。虫の足を千切る幼い子どもみたいに無邪気で、それでいて嗜虐さを滲ませた笑みだった。


「ま、それでも本当はバリスシアが仕留めると思ったんだけどね。わたしはあくまで後詰だったんだけど……いやぁ、まさかこんなことになるなんてねぇ。今回はあの化け物もいないし、厄介な英雄をこうして仕留めることができた。万々歳だわ」


 バリスシアの戦いぶり――俺と戦えて喜ばしいと言いながらも簡単に撤退した理由がわかり、は、と小さく笑う。俺が油断するまで待つなんて、用意周到にもほどがあると思った。あるいは、アレクの『悲運幸運悲喜交々』が予想外だったためこうしてアスターの不意打ちに切り替えたのか。


(……あー……そっか……死ぬのか……)


 激痛と、傷口から溢れ出る血と、霞がかってきた思考から、そんなことを考える。戦場では一瞬の油断が命取りだと聞くが、まさにその通りだった。こうして不意を打たれ、致命傷を負ってしまっている。


「そろそろ意識がなくなった? 握ってる剣、借りたいんだけど」


 『瞬伐悠剣』を借り、今度は俺の姿に化けて仲間達を襲うつもりなのだろう。実に効果的な奇襲方法だと、そう思えた。


 ()()()、前に出た。


 全身を脱力させて、倒れ込むようにして前に出る。ふらりと、あるいはゆらりと。殺気も何もかも消して――いや、最早殺気を出す体力も残っていなくて。気を抜けばそのまま倒れそうだから踏み込んだ足に力を込めて、アスターとの間にあった距離を揺れるような動きで潰す。


「――え?」


 トン、と軽い音を立てて、『三の突き』がアスターの心臓部に突き立った。これ以上ないほど脱力した状態で、これ以上ないほど無駄のない突きで、アスターの『本体』を捉えて貫く。ごく自然と『閃刃』と『三の突き』を混ぜ合わせた、必殺の突きだった。


 きっと、今の動きを見ればランドウ先生も褒めてくれるんじゃないか、なんて思える動きと手応えだった。死の目前で理想に届いたって、そう思えた。


 俺は喉元をせり上がってきた血を吐き出す。そして喉の通りを良くして、口元を血で汚しながら笑う。


「これ、で……お互い、致命傷……だ……さあ、最期まで……やろうぜ」


 その言葉に、アスターの顔が引きつるのが見えたのだった。

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― 新着の感想 ―
瀕死ならまだ間に合うといいが… リリィの召喚器で生死を曖昧にして復活か、覚醒イベントならいいのだが… 次回 ミナト死す! デュエル、スタンバイ!
うっは…マジかぁ。全く気付かなかったけど、バリスシアの言動から匂わせてはあったんだなぁ。 そもそも宝玉の使用が間に合うのか… 内緒話もバレてしまったけどアスターをここで始末したら問題ないか()
ゲームじゃないんだしランドウ先生連れて来てれば逃さなかったのにとか考えてたらまさかの結果に。 そろそろ召喚器覚醒してくれないかな?
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