第362話:二度目の戦い その1
「――シィッ!」
鋭い呼気と共に剣を振るい、向かってくるケルベロスの首を一つ、二つと刎ね飛ばす。そして三つ目を斬ろうとしたところでヴァンパイアによる『致死暗澹』が飛来し、後方へ跳びながら『一の払い』で両断――したついでにそのままケルベロスの首も斬り落とした。
『グルゥアアアアアアァァッ!』
俺の着地際を狙い、生み出されたおかわりのケルベロスがその巨体に物を言わせて突撃してくる。そのため空中で再度剣を振るい、斬撃を飛ばして牽制し、着地する時間を作り出す。
俺とバリスシアの戦いは、『飛竜の塒』で行われた一度目の戦いと同じ様相を呈していた。
バリスシアが黒い霧を集めてモンスターを出現させ、俺が出てきたモンスターを倒す。そして隙を見付けたらバリスシアとの距離を縮めようとし、バリスシアはそれを防ぐために新たなモンスターを生み出すという手の指し合いだ。
前回との違いがあるとすれば、バリスシアが生み出すモンスターが上級ばかりという点だろう。あの時と条件は一緒なのか、ヴァンパイアのような闇属性のモンスターも平気で呼び出し、こちらに向かって魔法を撃たせてくる。
他に違いがあるとすれば、それは――。
「ミナトッ! そっちにいったぞ!」
「っ!?」
距離を取ってこそいるが、透輝達と白虎の戦いの余波がこちらまで及ぶことか。
今もまた、白虎が使った魔法の余波がこちらへと飛来し、剣を振るって両断することとなった。
白虎は金属性の魔法を使うが、最上級モンスターということもあって使用する魔法も下級から最上級までと幅広いものになる。
金属性は能力を向上させるバフや相手の能力を下げるデバフなど補助に特化しているが、以前、オリヴィアと模擬戦をした時のように攻撃魔法が存在しないわけではない。
下級魔法の『金傷』、中級魔法の『飛爆鉄』、上級魔法の『金剛爆砂』、最上級魔法の『金竜ノ破鉄』など、物理的な攻撃魔法が『花コン』でも存在した。
『金傷』だけは単体攻撃魔法だが、中級以上の魔法は全体攻撃……つまりは範囲攻撃になる。それも金属性らしいというべきか、物理的に金属を召喚して撒き散らすという厄介極まりない魔法だ。
『飛爆鉄』でさえ文字通り鉄片を爆発させて飛ばすという前世の地雷みたいな、あるいはショットガンみたいな金属片を撒き散らす魔法だが、それ以上の魔法となると規模も威力も桁違いだった。
(今のは『金剛爆砂』か? 攻撃範囲が広すぎて透輝とリリィだけじゃ防げないか……)
透輝やリリィの『一の払い』が未熟というわけではない。ただ単純に、攻撃範囲が広すぎて無効化できないだけだ。
感覚的に言えば『飛爆鉄』は散弾銃、『金剛爆砂』は大砲での散弾といったところか。最上級魔法たる、『金竜ノ破鉄』はまだ見ていないが――。
「あまり余所見をしてくれるな。そら、追加だぞ」
白虎に関しては透輝達に任せるしかない。今の俺にできるのは、バリスシアが呼び出すモンスターを片づけながら隙を窺うことだけだ。
(チッ……コカトリスだけでなく、ホーンラビットにファングウルフ……下級のモンスターまで出し始めたか。面倒な)
状態異常を引き起こす魔法を得意とするコカトリスも厄介だが、下級のモンスターを召喚されるのもそれはそれで厄介だった。中級、上級のモンスターと比べれば脅威は劣るが、その攻撃は無視できるものではない。あと、呼び出すコストが軽いのか、一度の召喚で複数出現しているのも厄介だ。
攻撃をくらうよりも先に剣で両断しているから無事なのであって、攻撃をくらえば当然ながら怪我を負うし、下手すれば死ぬ。回復ポーションは持ってきているが、その数にも限りがあるのだ。さすがに蘇生用のポーションは持っていないし、死んだらそれまでである。
『ガウッ! ガ――』
飛び掛かってきた三匹のファングウルフをそれぞれ真横に両断して絶命させ、角を突き出すようにして跳んできた二匹のホーンラビットは交差しながら首を刎ね飛ばす。
そうしている間に準備が整ったのか、コカトリスが『石化縛』を使ってくる。直撃すれば石化という状態異常を巻き起こす魔法で、単独での状態で受ければ即死と変わらない魔法だ。
更に、バリスシアが追加で生み出したケルベロスが『火炎旋封』の準備に取り掛かっているのが見えた。そのため『一の払い』で斬撃を飛ばして『石化縛』を両断すると、すぐさま剣を返して魔力を込めていく。
「――ふっ!」
息を吐き、剣を振るって迫る炎の波を両断する。そして炎を切り分け、驚いているケルベロスの眼前へと躍り出れば三つの首をまとめて横に両断した。
ついでに、先ほど『致死暗澹』を撃ってからは気配を消すように木々に隠れていたヴァンパイアのもとへ駆け、隠れていた木ごと首を両断する。
「素晴らしい……前回戦った時と比べ、更に研ぎ澄まされているな」
そんな俺を見て、バリスシアが楽しそうに笑いながら拍手をしてくる。まったくもって嬉しくない拍手と賛辞だった。
「そういうお前は後ろで見物か? そろそろ前に出てこいよ」
以前戦った時はバリスシアの強度を知らず、必殺の意志を込めた斬撃も腕一本で防がれてしまった。だが、今は違う。バリスシアがどれだけ頑丈かを知り、その頑丈さを上回ることができるよう修練を積んできたつもりだ。
透輝達が白虎を倒すまでの時間稼ぎをしているつもりだが、当然、バリスシアを仕留める隙があるのなら仕留める。そのつもりで立ち回っている。
しかし、バリスシアもこちらの目論見を見抜いているのだろう。モンスターを呼び出しては俺にぶつけるだけで、決して前に出てこようとはしない。
「ふふふ……そうは言うがな。こうして貴様が戦うところを見るのも中々に興味深いのだよ。大したものだ。人間という生き物は寿命が短い代わりに成長が速くて驚かされる」
挑発なのか、あるいは本音なのか。どこか感心したように話すバリスシアに対し、俺としては嫌悪感を混ぜた視線を向けるしかない。興味深いとは言うが、その声色には実験動物を眺めるような不遜さがあったからだ。
「全ては時が満ちるまでの暇潰しだが、その過程が興味深いものであるなら退屈しのぎになるだろう? アスターの趣味も以前は理解できなかったが、今は少し、理解ができるようになった」
そう言って歪に笑うバリスシアだが、『魔王の影』にとっては『魔王』が発生するまでの時間は遅いか早いかの違いしかない。早めることも可能だが、別段、人類に手を出して負の感情を溜めずともいつかは起きる事象でしかないのだ。
『花コン』だと『魔王の影』は『魔王』の発生を推し進めている節があったが、こうして生で対面してみると印象が変わる。
どうでも良いと思っているわけではないが、確実に発生するものをわざわざ加速させてまで発生させるか。それは個々人のスタンスの違いらしく、バリスシアは興味が薄いタイプの性格だったようだ。アスターはランドウ先生への悪意を見た感じ、好き勝手に動いて人類を混乱させようとするタイプだろう。
正直なところ、バリスシアの興味の対象が俺に向けられていなければ、勝手にして勝手に殺されてくれ、と笑えたのだが。
「ああ、そうかい。俺よりも強くて手応えのある人類なら何人でもいるだろうに。そっちに執着してくれよ」
こちとら本来は悪役未満の雑魚なかませ犬だぞ。『魔王の影』に執着されるような存在じゃないし、なんなら雑に殺される立場だ。
この世界においても、そろそろ強さの限界が見えつつある。これ以上の強さを求めるには劇的な何かを必要とするほど、己の技量や才能を磨いてきたつもりだ。
ランドウ先生曰く完成してからがスタートとのことだが、これまで以上に遅々とした亀のような歩みでの成長となるだろう。そして、それでもと磨き上げた俺の最終的な強さは本物の天才達と比べれば大きく劣ったものに違いない。
「ふむ……それはそれで見応えがあるのだろうが、貴様のように成長途中の、懸命に咲き誇ろうとする小さな花に目を奪われる者もいたというだけの話だろう」
だが、バリスシアは俺が成長の途中だからこそ興味をひかれたと断言する。それはある意味心からの賛辞だった。それで良いのだという肯定でもあった。
「少なくとも、こうして再び相見えることを楽しみに思っていたのだ。つまらぬことを言ってくれるな」
「…………」
バリスシアの言葉に俺は沈黙する。反論できなかったとか、敵の言葉に絆されただとか、そういうわけではない。ただ、その口振りに違和感を覚えたのだ。
(一度しか会ってないが、俺の中の人物像と目の前のバリスシアが重ならねえ……いや、ところどころ重なるが、どうにも違和感があるというか……)
まさかアスターが化けているのか、なんて疑ってみるが、アスター特有の違和感は感じ取れない。そうなると目の前のバリスシアは本物で、なおかつ以前の戦いがそれだけ大きな影響を与えていた、なんてことでもあるのだが。
『魔王の影』も、何かあれば変化するということか。バリスシアの口振りから察するに、その変化も人間と比べると緩やかなものなのだろう。
もっとも、だからといって相容れる存在ではない。敵であることに変わりはないのだ。それも、この世界においては人類にとっての脅威で、怨敵とすら言える相手である。
「…………」
俺は無言のまま、僅かに視線を動かして透輝達の様子を確認する。白虎相手に優勢に戦いを進めているが、すぐに勝負が決まるほど有利というわけでもない。まだしばらく時間がかかるだろう。
このまま時間を稼ぎ、透輝達が合流するのを待てば良い。そう思うものの、どれだけ時間がかかるかわからないのが難点だった。
そして、上級のモンスターが相手だろうと仕留めて見せたが、俺にも限界があるわけで。バリスシアがこちらを試すように戦力の逐次投入を行っているからしのげているが、大量にモンスターを呼び出されたら一気に押し込まれそうだ。
(透輝達を待つのが無難ではある、が……)
先ほどのバリスシアの言葉を聞いて、ほんの僅か、自分の手でバリスシアを討ち取ってしまいたいという思いが芽生えてしまった。いや、その気持ち自体は前々からあった。次に会った時は負けない、勝つんだと思って剣を振るってきたのだ。
(このまま待つか……いくか)
迷いは一瞬だった。俺は愛剣をしっかりと握り直し、僅かに構えを変化させる。すると、それを見たバリスシアが僅かに目を輝かせたように感じた。
「剣よ。悠敵を瞬く間に伐るための力をこの身に宿せ――『瞬伐悠剣』!」
「いいぞ……こい! こちらも全力だ!」
『瞬伐悠剣』の力を解放して地を蹴り――そんな俺に合わせて、バリスシアも地を蹴って前へと駆け出してくるのだった。
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