第358話:異物
アレクを加えて行った西の大規模ダンジョンでの訓練。
あくまでアレクを大規模ダンジョンに慣らすため、そして他のメンバーの修行のために挑んだものの、破軍スライムという希少なモンスターに遭遇した俺達は普段よりも少しばかり早めに探索を切り上げ、学園へと帰ってきた。
「みんな、お疲れ様。アレクを加えてダンジョンに潜ってみたが……みんなの感想は?」
そして解散する前に、今日の締めくくりとしてそんなことを尋ねる。まあ、答えは予想できているが。
「戦いが滅茶苦茶楽になったぜ、ししょー」
「単純な武力とは異なりますが、頼りになる能力かと」
「わたし以外にも『疾風迅雷』が使えると魔力の消耗が抑えられるし、何かあった時にも便利かなって思います」
先に返事をしたのは前衛組だ。特に、俺と一緒に前線で剣を振るう透輝の評価は高い。ナズナやリリィも同様で、アレクへの評価は高いようだ。
「援護を任せることができ、攻撃に集中できるので非常に助かりますね」
「すごい」
モリオンは役割の分担ができるからと喜び、メリアは……なんだろう。何がすごいんだろう。いやまあ、たしかにアレクはすごいんだけどさ。言いたいこともニュアンスは伝わってくるけどさ。
「お役に立てたようでなによりだわぁ。これで何もできなかったら、なんて緊張してたのよ?」
そう言って微笑むアレクだが、多分、半分は本音だろう。これでも長い付き合いだ。冗談めかしているが、その声色に本音が混ざっているのが感じ取れた。
「俺としても非常に助かるし、今後も協力を頼みたい。構わないか?」
「ええ。任せてちょうだい」
「で、だ……破軍スライムから出てきたこの腕輪についてなんだが……」
推定『万能の腕輪』を取り出し、俺は攻略メンバーを見渡す。
「希少なものが出ましたね……こういったアイテムをモンスターが落とすのを見たのは初めてですよ」
そう言って眼鏡のレンズ越しに目を細めるモリオン。やはり広い知識を持つモリオンからしても、装備アイテムは希少なようだった。
「俺も宝箱以外から出たのは初めて見たよ。それで、だ……問題は誰が使うかってことなんだが」
効果は優れていたとしても、数は一つだけである。そのため意見を求めるように尋ねると、真っ先にモリオンが挙手をした。
「北の大規模ダンジョンの時もそうでしたが、強敵と遭遇した際、率先して前に立つのがミナト様です。一番腕が立つ方が前に出るのは止めませんが、もしもに備えてミナト様が使うべきかと」
モリオンが使用を勧めたのは俺である。たしかに、前衛に立つ者が使うのがベターではあるのだろうが。
「……一応確認してみるが、俺の場合は『召喚器』の能力と重複しているみたいでな。効果がないんだよ」
そう言いつつ腕輪を左腕に通す。それなりに大きいため問題なく通すことができたが、体の感覚に変化はない。試しにその場で飛び跳ねたり、剣を振ってみたりするが、身体能力が向上しているようには思えなかった。
「うん……やっぱり駄目か。透輝、試してみてくれ」
「え? お、おう……なんか、こういうのって緊張するな」
俺が腕輪を手渡すと、透輝は戸惑いながら左腕に腕輪をつける。そして体の調子を確かめるように地面を蹴り。
「うわっとっ!?」
なんというか、盛大に転んだ。足がもつれたように転び、地面をバウンドしてから受け身を取る。
「えっ、ちょ、なにこれ、なんだこれ!? 感覚が狂う……呪いの装備!?」
「外すことはできるだろ?」
「あ、ほんとだ……呪いの装備じゃなかった……でもなんかこう、妙に力が入るというか……なんだこれ? 表現が難しいな……普通は百パーセントで止まるところが百二十パーセントまで力が入る? みたいな……」
困惑しながら自分の体に起きていることを説明する透輝。やはり、装備アイテムを使うと感覚が変わってしまうらしい。
「『鋭業廻器』を使った時に似てるけど、あっちはどこまで力が入るかわかるんだよな。こっちは上限を超えるというか……慣れないと使いにくいかな」
そんなことを言いながら飛んだり跳ねたりを繰り返す透輝。どうやら自分の感覚に慣れさせようとしているみたいだが、その調整が目に見えて進んでいくのを確認し、俺は一つ頷く。
「力だけでなく速度も上がってる感じか? それならやっぱり、『万能の腕輪』で間違いなさそうだな」
俺が知る限り、『万能』シリーズ以外に複数のステータスが上昇する装備アイテムはなかったはずだ。そのため『万能の腕輪』で確定したと考えて良いだろう。
「というわけで透輝、師匠命令だ。その感覚に慣れろ」
「うっす……って、これ、俺が使っていいのか?」
「リリィに渡すことも考えたんだがな……リリィはどちらかというと後衛の防御だし『疾風迅雷』を使える、俺は自前の強化があるし、ナズナは硬い。そうなると『鋭業廻器』を発現しないと強化されない透輝が無難かな、と思ったわけだ」
俺は他のパーティメンバーを見回しつつ、そう説明をする。
「たしかに……私やアレク殿、メリア殿では不向きですか。ミナト様も効果がないとなると透輝が一番適していますね」
納得したようにモリオンが言う。それを聞いた他のメンバーも納得した様子で頷いており、透輝が使うことに不満を見せる者はいなかった。
「えー……本当に? 俺が使っていいのか?」
当の透輝もワクワクしたような、新しいオモチャを与えられた子どものような顔をしている。それを見ながら、俺は心中でこっそりと零す。
(一番適しているっていうのもあるけど、透輝に死なれたら困るからな……)
様々な情を排していえば、俺にとって一番死なれると困るのが透輝である。死んだら『宝玉』を消耗して生き返る可能性があるとはいえ、『宝玉』を消耗するとその分、『鋭業廻器』の力も弱まってしまう。
せっかくアイリスの個別ルートに入ってグッドエンドにいきそうなのだ。透輝が死ぬ可能性を減らせるのなら手段を講じるべきだろう。
『鋭業廻器』を発現すれば透輝も身体能力が強化されるようだが、逆にいえば発現しなければ強化されないわけで。常に『召喚器』を出しっぱなしにできるほど透輝も慣れていないため、別の手段で補えるのなら助かる話だった。
(あとはぶっちゃけ、透輝なら使い始めればすぐに慣れるだろうし……)
ランドウ先生でさえ敬遠するような代物だが、透輝のことだ。使っていればすぐに慣れるだろうという見立てもあった。本当、その辺り天才だからな。
「とりあえず、当面は慣れるよう努めること。透輝が慣れたらダンジョンに潜るようにして、少しずつ慣らしていこう」
アレクも加わったし、今はまだ、時間も多少はある。そのため一歩ずつ前に進むよう締め括り、今日のところは解散となったのだった。
「なあミナト、見てくれよ! 『万能の腕輪』もだいぶ慣れたんだけど、これって滅茶苦茶便利でさ! 『鋭業廻器』を使う時でも上乗せされるんだぜ!」
「…………」
そして、一週間と経っていない次の週の平日のこと。
放課後になって訓練を始めたら、意気揚々といった様子の透輝がそんなことを言い出した。
(一週間足らずで慣れたのは……まあいい。透輝だもんな。むしろ一週間近くかかったのが長かったぐらいか、うん……でも『召喚器』と併用できるっていうのはどういうことだ?)
『鋭業廻器』を発現し、ブンブン振り回しながら透輝が言う。その動きはこれまでと比べて鋭く、速く、重く。ただ成長したとは言えないぐらいの上乗せが見て取れた。
(えー……もしかして普通は上乗せできるのか? 俺の『召喚器』がおかしいだけ? 常時身体能力が強化されているから装備アイテムと似たような感じなのかと思ったけど……透輝の場合、『鋭業廻器』は一時的な強化だから重複しない? え? どういうことだ?)
透輝が問題なく剣を振り回しているのを見て、むむむ、と思考する俺。なんだこれ、この短期間で使いこなすとか主人公かコイツ。主人公だったわ。
(わからん……ところどころ『花コン』の世界と同じっぽいし、それが関係している? 主人公と悪役の違いはなんだ? いや、待てよ? ナズナも『俊足の指輪』を使えてたし、おかしいのは俺の方……か?)
二対一で俺の方が間違っているのだろうか。そんなことを考えて、確認としてモリオンやアレク、メリアやリリィにも『万能の腕輪』をつけてもらったが、全員が全員、きちんと効果が発動しているようだった。
(あ、おかしいのはやっぱり俺の方なのか……なんでだよ……)
もしかしたら『花コン』のメインキャラだけしか効果がないのかな、なんて思ったが、リリィもきちんと効果を発揮している。そのためその線は捨てて良いだろう。悪役は装備アイテムを装備する場所がないのかな、なんて考えたのだが。
(やっぱり、俺の『召喚器』が常時身体能力を強化しているからか? 発現していないのに身体能力を強化し続ける『召喚器』って他に見てないしな)
透輝の『鋭業廻器』も発現しないと身体能力が強化されないし、他のその手の『召喚器』も同様だ。たとえば、モリオンの『五剋放杖』も魔法の威力を強化する能力があるが、それは発現している間だけである。
――まるで、お前は異物だと己の『召喚器』に言われているようだ。
(……いや、偶然そうだってだけだろ?)
たまたま、己の『召喚器』が常時身体能力を強化しているだけだ。
先日、破軍スライムを倒した時のことがアレクのページとして新たに刻まれた己の『召喚器』だったが、俺のそんな疑問に答えてくれることなど――ありはしなかった。




