第355話:新たなメンバー その2
「――というわけで。西の大規模ダンジョンを攻略するにあたり、協力してくれることになったアレクだ」
「ご紹介に預かりました、アレク=サンドライト=オブシディアンでございまぁす。初めての方はお見知りおきを」
アレクが協力してくれるということで、早速第一訓練場に連れて行ってその場にいた面子に紹介をする。幸いと言うべきか、西の大規模ダンジョンを攻略するメンバーが勢揃いしており、丁度良かったのだ。
「おっ、アレクじゃん」
「ふむ……アレク殿が手を貸してくれるのなら心強いですね」
透輝はそれなりに友好関係を築いているのか、気さくな様子で片手を上げる。
モリオンもアレクの技量をよく理解しているのか、言葉通り心強く思っているらしい。
「若様が連れてこられたのなら頼りになるのでしょう。よろしくお願いします」
「…………」
「…………」
女性陣はナズナがごく普通の反応を示したものの、メリアとリリィは沈黙していた。
メリアはアレクの顔を……正確に言えばそのピエロメイクを見て不思議そうに目を瞬かせている。なんでそんなメイクをしているんだろう? とでも言わんばかりの顔だ。
そしてリリィはといえば、アレクを警戒する素振りを見せつつ、俺に向かってどこか呆れたような視線を向けてくる。なんでそんな目をしているのかな?
「ミナトさん、ちょっと」
そう言って手招きをして、俺が近付いたら腕を掴んで引きずるようにしてアレク達と距離を取らされる。一体何事かと思っていると、リリィは触れそうなほどに顔を寄せ、小声で囁いてきた。
「お父さんっ、どういうつもり? アレクさんがいたら色々とばれちゃうと思うんだけどっ」
「あー……それなぁ……」
どうやら俺とリリィの関係について、気付かれてしまうのではないかと不安に思っているらしい。
俺とリリィの関係、なんて聞くとやましい関係に聞こえるが、その実態は別にやましくなんてない。親子関係なだけだ。うん、やましくはないがやばくはあるな。
だがしかし、である。
「実はだいぶ前にバレちゃっててな……だからまあ、いいかなって」
自分の口から説明したわけではないが、明らかに勘付いている様子だった。そのため開き直って、もういいかな、なんて思ったのである。あと、アレクなら他人に吹聴するような真似はしないと確信しているし。
「……なんでバレてるの? お父さん、話したわけじゃないんだよね?」
「なんでだろうなぁ……俺達のちょっとした素振りでバレたっぽくてな」
今もこうして内緒話をしている時点でヒントを与えている気がするが、当のアレクはこっちを見て微苦笑するだけである。あー、これは確信を与えてますわ。
「ミナト」
そんな感じで俺がリリィと話をしていると、トコトコと近付いて来たメリアが俺の服を引っ張る。そしてアレクを指さし……って、人を指さしちゃ駄目だからな?
「ピエロ」
「うん、そうだね、道化師だね。だから指さすのはやめような?」
手を掴んで下げさせ、さて、どうしたものかと内心で首を傾げる。
メリアは別段、アレクのことを嫌っているわけではなさそうだ。ただ他の人と違う外見をしているから不思議に思っているだけだろう。
そんなメリアと比べ、リリィは事情を説明した後も警戒するような視線をアレクに向け続けている。アレクに限ってはそんなに警戒する必要はないと思うんだがなぁ……。
まあ、アレクが相手なら接している内に自然と打ち解けるだろう。そう判断した俺はアレク達の元へと戻り、視線をアレクへと向ける。
「知らない人もいるだろうから説明するが、アレクは援護の魔法が得意な支援役だ。基本的にモリオンと同じで後ろからの援護が役割になる。あと、俺と分断された時、あるいは俺に何かがあった時の指揮を任せたいとも思っている」
そう言いつつ俺はモリオンの反応を見る。何かあった時に指揮を執るのはモリオンの役割だったため、それがなくなってどう思うかの確認だ。
「それは助かりますね。私が指揮を取っても良かったですが、それをすると今度は魔法での攻撃や援護が疎かになりますから。アレク殿がそれを担ってくれるのなら任せられます」
「……君には負担をかけ続けてきたからな。だが、俺だけでなくアレクも指揮が執れない場合は君に任せることになる。それは忘れないでくれ」
表情を見た感じ、不満はなさそうだ。というか、言葉通りならやっぱりモリオンの負担が大きかったってことでもある。前衛に立って剣を振るいながら指揮を執る俺よりは楽だったかもしれないが、それでも負担は大きかったのだろう。
「ししょー、アレクは援護系の魔法が得意って言うけど、どんな感じなんだ? 俺、援護系の魔法って使ったことがないし、使われたこともほとんどないんだけど……」
そうやってモリオンと話していると、今度は透輝が不思議そうな顔で尋ねてくる。透輝の場合『鋭業廻器』が身体能力を強化してくれるし、今では『絆石』の力もあって更に強化されているのだ。援護魔法で強化してもらう必要はなかったから当然の疑問だろう。
「そうか……それなら丁度良いな。透輝、実践だ。アレクは透輝の援護を頼めるか?」
「お任せあれ」
「えっ!? ちょ、いきなりかよ……やるけどさぁ……」
話で聞くよりも体験した方が早いだろう。そう判断して師匠命令を出すと、透輝は渋々と頷く。アレクは普段通りというか、俺の行動を予想していた感じだ。
「他の皆も見ていてくれ。特に前衛に立つことがあるメンバーは自分のことだと思ってしっかり見るように。いいな?」
俺と透輝、あとはナズナやリリィは前に出てモンスターと直接戦うし、アレクの世話になることも多いだろう。そう思って声をかけるとそれぞれから返事があった。
(さて、手っ取り早いといっても、アレクが援護に回るとなると、だ……)
自分で言っておいてなんだが、透輝ほどの手練れの剣士にアレクの援護が加わるとどうなるか。それを予想すると少しばかり早まったかな、なんて思ってしまう。
「アレク、こっちへの妨害はなしにしてくれ。それをやられると受け損なう危険性が高い」
「わかったわ。それじゃあアタシは透輝君の援護だけするわね」
一応の保険としてそう頼めば、アレクはすぐに請け負ってくれる。透輝はそんな俺とアレクのやり取りを不思議そうに聞いているが……本当にわかってない感じか。
「よし……それじゃあやるか。開始の合図はアレクの魔法がかかったらだ。いいな?」
「うっす。やるからには今日こそ勝たせてもらうぜ、ししょー!」
気持ちを切り替えたのか、真剣な表情を浮かべる透輝。それに合わせて俺も意識を切り替え、剣を抜いて中段に構える。
「それじゃあいくわよ? 『疾風』、『猛火』、『金剛』」
開始の合図代わりにアレクから魔法が飛ぶ。それぞれ速度、攻撃力、防御力を高める援護だ。ただ、全て下級魔法なのは俺を案じてか、あるいは援護魔法を受けた機会が少ない透輝を慣れさせるためか。
「よっしゃ、行くぜ! っ!?」
『鋭業廻器』を発現して構えた透輝が勢い良く駆け出し――すぐに自分の体の異変に気付いたのか、目を見開く。
『疾風』の場合速度を三ターンの間三割上昇させる。装備アイテムと違い、自分の感覚はそのままのため慣れていないと面食らうのだ。
「ちょっ、踏み込みがズレて……チィッ!」
強引に踏み込みを修正し、俺へと斬りかかってくる透輝。結果的に荒々しい乱れた剣筋になったが、正面から剣を受けた俺は思わず後ろへと後退する。
『猛火』は攻撃力を三ターンの間三割上昇させるが、これを現実でやられるととんでもない。普段の感覚で剣を振るったら威力が三割増しなのだ。剣を受け止めた俺が反撃は無理だと判断し、後ろに下がるのも仕方がないというやつである。
(普段以上に重い……わかってはいたが、援護魔法ってやっぱり厄介だわ)
ゲームだと搦め手を面倒臭がる者もいるだろうが、この現実たる世界で使われる援護魔法は厄介極まりない。下級魔法でさえこれほどの変化があるのだ。これが中級以上の魔法になると更に厄介になる。
「お……おおっ? なんか感覚が……こう、かっ!」
そして厄介極まりないといえば、目の前の透輝もそうだ。普段と違う速度、剣の威力だというのに、たったの一回で適応したらしい。次に繰り出してきた斬撃は普段通りに近く、俺は内心で苦笑しながら剣を受け流す。
(これでこっちに妨害の魔法が飛んでたら長くはもたなかったな。今の状態でも割ときついが……)
次から次へと繰り出される斬撃を弾き、受け止め、受け流し。たまに押し切られそうになって軽く焦るが、なんとか攻撃を凌いでいく。
「透輝君? 次はもっと速くなるけど大丈夫かしら?」
「おうっ! 慣れてきたから大丈夫だ!」
そうして三ターン……三十秒近くを凌いだ俺だったが、アレクが透輝にかけた言葉を聞いて意識を更に集中させていく。今以上となると手を抜いてはいられないからだ。
「『雷光速』」
アレクが使ったのは中級の援護魔法だ。今度は速度を六割上昇させる魔法で、攻撃や防御に関しては魔法を使わずにいる。おそらく、そこまでやると俺が押し切られると判断したのだろう。正解だ。
(『雷光速』だけでもきついけどな!)
速度が上がればそれだけで十分以上に厄介である。透輝はただでさえ『鋭業廻器』による強化を受けているのだ。そこから更に速度が増すと、目で追うのも難しい領域へと到達する。
「――――」
そのため俺は目で追わず、気配で透輝の動きを追う。呼吸や踏み込みから攻撃を予測し、最短の距離を最速で動いて透輝に追従する。
「っ!? アレク!? なんかミナトが加速してるんだけど魔法使った!?」
「使ってないわ。多分それ、魔法じゃなくて技術じゃないかしら」
そんな会話が聞こえたが答える余裕はない。以前、ランドウ先生と立ち会った時並に意識を集中させ、透輝が繰り出す斬撃を捌いていく。
反撃に転じる余裕は――ない。それほどに透輝の動きが速い。なんとか防御が間に合っているが、単純に速度が違い過ぎる。
そうして三十秒ほど透輝の攻撃を凌ぎ続けると、魔法の効果が切れた。透輝の動きが明らかに遅くなり、慌てた様子で距離を取るのが見える。
「……とまあ、そんなわけでだ。見た通り、援護魔法を使うとここまで速く、強くなる。各自、アレクの魔法に慣れるようにしておいてくれ」
アレクが魔法をかけ直す素振りを見せないのを確認し、一息吐いてから俺は話をまとめる。正直なところ、追加で三十秒戦っていたら防御を突破されていただろう。それぐらい加速した透輝は厄介だった。
(良い修行になる……が、気を抜くと負けるぞ、こりゃあ……)
さすがにまだ、負けてやれない。そうは思うが、そろそろきつくなってきたか、とも思う俺だった。




