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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第14章

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第353話:西の大規模ダンジョンの調査 その2

 西の大規模ダンジョンに潜って調査を行う俺達だったが、死霊系モンスターがいないという点で安心できるからか、北の大規模ダンジョンと比べるとその足取りはやや軽いものになっていた。


 ダンジョンに漂う威圧感自体は西の大規模ダンジョンの方が強いが、闇属性魔法が飛んでこないというのが大きいのだろう。確率とはいえ一発で即死しかねない魔法っていうのはやっぱりクソゲーだと思う。


 そんなこんなで油断はせず、それでいて魔法で即死しないことに安堵しながらダンジョンを巡ること三時間あまり。学園に帰るための時間も必要なため、ほどほどのところで切り上げないとなぁ、なんて思っていたら強めの気配を感じ取った。


(んー……上級のモンスターか?)


 この三時間ほどで遭遇したモンスターは全て中級である。軽く感触を確かめるために潜っているのもあり、ダンジョンの浅い場所を動き回っているからそれも仕方ないだろう。だが、今回は中級モンスターと比べ、重厚な気配と殺気を放つモンスターが近付いてきているように感じられた。


(アレは……ケルベロスか)


 そこにいたのは、ドーベルマンを凶悪にしたような外見にして、なおかつ三つ首で巨体にしたようなモンスター――ケルベロスである。


 獣系モンスターの中ではトップクラスに強く、かつては東の大規模ダンジョンで修行をしていた際、ランドウ先生からの()()として戦った相手でもあった。


(こんな浅い場所で遭遇するなんてな……っと、くるか!?)


 向こうもこちらに気付いていたのか、木々を掻き分けるようにしてケルベロスが駆けてくる。彼我の距離は五十メートルほどだったが、巨体に見合わぬ速度と機敏さで瞬く間に距離を詰めてくる。


「アレがケルベロスかぁ……本当に首が三つあるんだな」

「若様、わたしと透輝で対処します」

「わかった。やってみてくれ」


 だが、上級モンスターが相手だからといって慌てるような者はこちらにはいない。最早その程度、()()()()と言わんばかりに泰然としている。


 今も、慣れた様子で透輝とナズナが前に出た。その間俺達は周囲を索敵し、他にモンスターが接近してこないかを確認する。ケルベロスは強力なモンスターだが、そちらに気を取られて背後から強襲でもされたら目も当てられないのだ。


(他は……いない、か。でも油断はできないな。こっちの音を聞いて寄ってくる可能性があるし……)


 獣系モンスターは総じて耳や鼻が利く。多少距離があっても戦闘音を聞きつけ、集まってくるだろう。


 一応、獣系モンスターが相手でも『相埋模個』が機能することは既に確認しているが、余裕がある時まで全て回避するのはナシだ。それはそれでリリィの負担が大きすぎるし、俺達の経験にならない。


 もっとも、これがダンジョンを破壊するための()()だったなら体力の消耗を抑えるべく、リリィの『相埋模個』でやり過ごす可能性もあるが――。


「わたしが止める! 攻撃は任せるっ!」

「了解!」


 ケルベロスの突進に対し、ナズナが盾を構えて正面から受け止める。体格差というか、体重差がとんでもないことになっているはずだが……『汝佐優守』を『掌握』したおかげなのか、ナズナは地面に両足の跡をつけて後ろに下がりながらも耐えきり、ケルベロスの突進を受け止めきった。


「おおおおおおぉぉっ!」


 そこに透輝が斬りかかる。明らかに体格差があるにもかかわらずナズナに止められたことで困惑するケルベロスに対し、真横から攻めかかって一太刀で首の一つを斬り飛ばす。


(そりゃまあ、驚くわな)


 俺はケルベロスに同情する。知りようがないこととはいえ、今のナズナに真正面から突撃するのは無謀ですらあった。


 普通に考えたらケルベロスの方が圧倒的に有利だが、それを覆せるだけの能力があるなんて思いもしないだろう。というか、それを察知することができたら最早未来予知みたいなものである。


「次ぃっ!」


 今しがた首の一つを斬り飛ばした透輝だったが、返す刃でもう一つ、首を斬り飛ばす。普通の生き物なら既に死んでいそうなものだが、三つの首があるというのは伊達ではないのか、ケルベロスは唸り声を上げながら大きく後退した。


「下がって、透輝。少しばかり試してみたいことがあるの」

「うっす。了解」


 ケルベロスが下がったのを見て、次にしてくることを見抜いたのだろう。盾を構えたままでナズナが前に出ると、それを見たケルベロスが自身を奮い立たせるように咆哮を上げる。あるいは、先ほど受け止められたことへの怒りがそこにはあったのかもしれない。


「――来なさい」


 挑発するように己の盾を拳で叩くナズナ。それを見たケルベロスの口元に炎が煌めき、瞬く間に巨大化していく。火属性の上級魔法、『火炎旋封』だ。


『ガアアアアアアァァッ!』


 咆哮と共に炎の濁流が射出される。それは人間を容易に焼き殺し、骨まで燃やし尽くすような業火だ。()()()回避するか相殺するか、そのどちらかになるだろう。


「――――」


 だが、ナズナはどちらも選ばなかった。即座にバリアを張って正面から受け止めたのだ。


「おお……」


 それを見た透輝が感嘆したような声を漏らす。何かあればナズナを助けられるようにと剣を構えていたが、思わず切っ先が下がるほどに驚いているようだ。


(多分、防げるとは思っていたが……上級魔法でもバリアで防げるようになったか)


 『召喚器』を『掌握』して能力が強化されたとは思っていたが、真っ向から『火炎旋封』を受け止められるほどにバリアの強度が増しているらしい。さすがに最上級魔法は防げないと思うが、威力を減衰させればそれも可能になるのではないだろうか。


『ガ、ァ……ッ……グ、ルゥ……』


 炎を吐き切ったケルベロスが困惑したように、あるいは恐れるように一歩後ろへと下がるのが見えた。突撃を受け止められたのも驚きなら、上級魔法をバリアで防がれたのも驚きだろう。その気持ちはわかるし、少しばかり同情するところである。


「――シッ!」


 まあ、同情しても手加減はしないんだが。


 俺はナズナに気を取られているケルベロスの懐へと潜り込み、剣を一閃して首を刎ね飛ばす。あまりにも隙だらけだったため、つい、斬ってしまった。


「ナズナさんの『召喚器』、強化されたって聞いたけど本当にすごいなぁ……バリアなんて男の浪漫じゃんか。しかも上級魔法を防げるぐらい頑丈って……」

「透輝もよくやってくれたわね。敵の攻撃を防げば後はどうにかしてくれるって思うと気が楽だわ」


 透輝とナズナが互いを称えるような会話をしているのが聞こえてくる。それを聞いた俺は、仲間内で絆が深まるのは良いことだと口の端を吊り上げた。


「ミナト様、ナズナ殿は劇的に強くなりましたね。これなら色々と任せられるのでは?」


 そんな俺に対し、周囲の索敵をしていたモリオンが声をかけてくる。ナズナに聞こえないよう小声での言葉だったが、俺はそれに小さく笑いながら頷いた。


「上級魔法でも問題なくバリアで防げるっていうのは助かるな。これならモリオン達後衛をまとめて守れるし、何かあれば前衛に立って盾で防ぐこともできる……よく、ここまで育ってくれたよ」


 思わず、しみじみとした口調で言ってしまった。するとモリオンが苦笑を浮かべ、ナズナへと視線を向ける。


「ナズナ殿もミナト様の家臣として恥じないよう、努力を重ねていましたから……私も負けてはいられませんね」

(ナズナ殿()って……モリオンは一応、家臣とは別なんだけどなぁ……)


 今更か、とは思うが、モリオンはあくまでサンデューク辺境伯家の寄り子である。ナズナは俺の家臣に当たるが、モリオンは客将みたいなものなのだ。本当に今更だが。


「わぁ……今の見た? すごいね。わたしやお……ミナトさん、透輝さんは斬れるけど、魔法を受け止めるなんて……」

「ん……すごい」


 リリィも感心した様子でメリアへと話を振り、メリアはメリアで何度も頷いている。


「私も修行の成果をお見せしたいところですが……最上級魔法を撃つ必要があるかというと、ないんですよね」

「ないだろうなぁ……」


 モリオンがナズナに対抗するように話をするが、さすがに今の状況で最上級魔法を撃たれても困る。以前見たように未完成だったとしても威力が過剰なのだ。あと、魔力の消耗も激しいし、適切な種類の魔法を適切な威力で、適切なタイミングで使ってくれればそれで良い。


(うーん……強くなってる子は強くなってるんだよな……いや、俺も以前より強くなってるけど、みんなと比べるとやっぱり地味というか……)


 武闘祭の後に行ったランドウ先生との決闘。アレで剣士として一皮剝けることができたが、わかりやすい強さを身に着けたとか、何かしらの必殺技を覚えただとか、そういうことはない。そのためナズナやモリオンが羨ましくもあった。


(いかんいかん、ないもの強請ねだりをしていても仕方ない。俺にできることをやらないと……)


 仲間達に指示を出し、誰一人として欠けることなくボスモンスターを倒し、大規模ダンジョンを破壊する。


 それが俺にできることで、今はまず、西の大規模ダンジョンの環境に慣れることが最優先だった。


(時間はまだある……とりあえず毎週末にここにきて実戦を重ねて、慣れたら攻略だな)


 今日のところは短時間の冒険になるが、思ったよりも良い手応えを掴むことができた。


 そのことに満足し、俺は撤収の指示を出すのだった。

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もう1段階覚醒したらバリアでマホカンタしそう
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