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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第14章

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第352話:西の大規模ダンジョンの調査 その1

 オリヴィアと夜更けに会話をした日から数日経った週末の土曜日。


 授業が終わったら準備を整え、攻略メンバーと共に西の大規模ダンジョンへと出発する。


 とりあえずは様子見ということでダンジョンに潜り、モンスターがどれほど強くなっているかを確認するのが目的だ。


 北の大規模ダンジョンでは直接戦闘に強いモンスターがそこまで多くなかったが、西の大規模ダンジョンは獣系モンスターが主体である。闇属性魔法は飛んでこないがその辺りがギャップとなる危険性もあり、まずは慣れるところから始めるつもりだった。


(一応、期間はそれなりにあるしな。焦らず少しずつ足場を固めていくか)


 さすがに『魔王』が発生するであろう時期ギリギリまで先延ばしにするわけにはいかないが、他の大規模ダンジョンは放置する関係上、数ヶ月は時間的余裕がある。もちろん、早めに攻略できるなら攻略しても良いのだろうが。


 そんなことを考えつつ、光竜キュラスの背に乗って数時間空の旅を送り、西の大規模ダンジョンに最も近い町へと降り立つ。そして今日のところは一泊し、一晩経ってからダンジョンに挑むこととした。


 大丈夫だとは思うが、五レベル分上昇しているであろう中級、上級モンスター相手にいきなり夜間戦闘を挑むのはどうかと考えたのだ。


 まずは強くなっているであろうモンスター達と日中に戦って強さを確かめ、問題がないと判断すれば泊りがけでダンジョン内で過ごしてみる。そして獣系モンスターが相手でも問題がない、数日ダンジョンの中でも活動できると判断できればダンジョンの攻略を行う予定だ。


 そんな予定を立て、攻略メンバー達にも情報を共有したら早速ダンジョンに挑む。キュラスを最寄りの町に預け、日が昇り始める時間帯になると徒歩でダンジョンに向かい、装備に問題がないことを確認し合ったら突入だ。


「さて……突入前、最後のおさらいだ。透輝、獣系モンスターの特徴は?」

「えーっと、種類によるけど素早さが高め。それと耳や鼻……五感が鋭くて索敵範囲が広いから、多少距離があってもこちらに気付かれる可能性がある」

「正解だ。あとは死霊系モンスターと違い、使ってくる魔法の属性がバラバラだっていうことも意識しておけ。まあ、俺が見たことあるのは火属性と木属性、あとは状態異常にする魔法ぐらいだけどな。それ以外の魔法が飛んでくる可能性も考慮しておくこと。いいな?」


 そう言って注意を促し、それぞれが装備の点検を終えたら早速ダンジョンへと突入する。以前は大規模ダンジョンってだけで緊張していたが、今では慣れたものだ。


 ――なんて、思っていたんだが。


「これは……」


 西の大規模ダンジョンに足を踏み入れた俺はすぐに足を止める。そして周囲を見回し、無意識の内に眉を寄せていたことに気付いて表情を緩めた。


「お、おお……北の大規模ダンジョンより威圧感がすごくね? なんかこう、ビリビリとくるんだけど」


 透輝が周囲を見回しながら呟く。


 大規模ダンジョンは他のダンジョンと比べ、威圧感が強い場所だ。それは俺も知っているし、北の大規模ダンジョンで慣れたつもりだった。

 だが、北の大規模ダンジョンを破壊した影響が表れているのだろう。慣れていない者なら回れ右をしたくなるであろう、重苦しい威圧感がダンジョン内に満ちていた。


(五レベル分の上昇でコレか……これじゃあどのみち、全部の大規模ダンジョンを破壊するのは無理だったかもな……)


 事前にオリヴィアから聞いてはいたが、聞くのと実際に体験するのとでは大違いだ。この分だとモンスターも相当手強くなっていそうである。


(いや、こっちも強くなっているんだ。これぐらいなら問題ない……はず……)


 そんなことを考えつつも、まずは空気に慣れるべくその場に留まる。そして準備運動をしたり、素振りをしたりと、軽く体を動かして問題がないかをチェックしていく。


「よし……みんなはどうだ?」

「問題ないぜ、ししょー」

「わたしも問題ありません、若様」


 俺と同じように素振りをしていた透輝が笑って返せば、『汝佐優守』を発現しては消し、消しては発現するといった行動を繰り返していたナズナも頷いてみせる。


「この程度の威圧感なら問題なく。あとは実際に戦って試してみましょう」

「問題ないです、お……ミナトさん」

「ん」


 モリオンも問題ないようだ。そしてリリィは別の意味で危ない――お父さんと呼びかけて俺の名前を呼ぶ。メリアは普段通り平然とした顔で頷いていた。


「それじゃあ実際に戦ってみるか。まずは中級のモンスターと出会えればいいんだが……」


 いきなり上級のモンスターと戦うより、中級のモンスターと戦って色々と試してみたい。そう思ってダンジョンを進もうとすると、その前に透輝が挙手をする。


「ししょー、聞こうと思って忘れていたことを今になって思い出したんだけど……いいか?」

「別に構わないが……」


 ダンジョンに突入する前に聞いてくれ、と思ったが、透輝は申し訳なさそうな顔をしている。どうやら本当に今になって思い出したらしい。


「いや、このダンジョンって()()()()獣系モンスターが出るって言ってただろ? わざわざそう言うってことは、それ以外のモンスターも出るのかなって思ってさ」

「ああ、そのことか」


 たしかに説明をしていなかったな、と俺は納得する。というのも、『花コン』では出現するし、この世界でも出現することが確認されているものの、()()()()()()()が出現する確率が他のモンスターと比べて非常に低いから説明を後回しにしていたのだ。


 その確率は百分の一、千分の一とも言われており、オレア教が長年かけて調査してきた中でも遭遇例がほんの数件しかないという希少さがある。


 俺が『花コン』をプレイしていた時も一回しか遭遇したことがなく、プレイヤーによる攻略サイトでの考察によると出現率の設定をミスったんじゃないか、と疑われる存在だ。


「一応な、軟体系……つまりスライムの一種なんだが、ごく稀に西の大規模ダンジョンで発見されるモンスターがいるんだよ。だから基本的に獣系モンスターしか出ないって言ったんだ」

「へぇ……そんなに珍しいスライムもいるんだな。どんなやつ?」

「俺も直接遭遇したことがないからなんとも……ただ、滅茶苦茶素早くて硬いらしい」

「滅茶苦茶素早くて、硬い……スライム?」


 透輝が怪訝そうな顔をする。この世界におけるスライムは雑魚的の代表みたいな感じだし、いまいちイメージが湧かないのだろうか。いや、この顔は何かが引っかかってる時の顔だな。 


「……それってもしかして、『は』から始まるモンスター?」

「そうだが……知ってるのか?」


 アイリスから聞いたのだろうか、なんて思いながら尋ねる。すると透輝はなんとも曖昧な、微妙な顔をした。いや、まさかなぁ、なんて呟いている。


「はぐ」

「そう――破軍スライムだ」

「破軍っ!?」


 目を剥いて驚く透輝。なんというか、予想が外れたような顔をしている。


 この破軍スライム、かつて西の大規模ダンジョンの間引きに来た軍を単独で破ったことからそう呼ばれるようになったモンスターだ。


 モンスターとしての階級は上級で、攻撃系だけでなく補助系の上級魔法も使えるらしい。ただでさえ素早いのに更に加速して動き回るそうだ。


 ただし、他の上級モンスターと比べて強いかと言われると微妙なところである。『花コン』で出現率が極めて低いのは設定のミスだと言われるのもその辺りが影響しており、倒しても莫大な経験値やお金を落とすといったこともなかった。

 一応、装備アイテムをドロップしやすいらしいが……俺がゲームで倒した時は何も落とさなかったっけ。


「だから西の大規模ダンジョンでスライムを見かけたら油断するな、って言われてるんだ。事前に説明しなくて俺も悪かったよ」

「い、いや、それは良いんだけど……そうだよな。経験値をたくさんくれそうだけど、ゲームじゃないもんな」


 透輝は納得した様子で言う。まあ、他のモンスターと比べて速度があるなら、戦うだけで良い経験にはなりそうだが。


 そうやって話をしながら大規模ダンジョンの中を進んでいく。当然ながら話をしていても周囲の索敵は忘れていない。このあたりは最早慣れたものだった。


「……ん?」


 大規模ダンジョンを進むこと十分少々。遠くに気配を感じた俺は足を止める。今しがた話をしていたし、破軍スライムが出てきたのかと一瞬警戒を強めたが、遠目に見えたのはそれなりに巨体のモンスターだ。


「運が良いな。ワイルドベアだ。とりあえず俺が一人で戦ってみる」


 遠くにいたのは中級のモンスターのワイルドベアである。三メートルほどの巨体で周囲を見回しているが、『金剛力』を使うぐらいで攻撃系の魔法は使わない、肉弾戦オンリーのモンスターだ。

 五レベル分の上昇がどれほどのものか、確認するには丁度良い相手といえるだろう。


 俺は指示を出して前に出る。こちらの気配を隠さず、むしろ足音を立てるようにして堂々と進んでいく。するとワイルドベアもすぐに気付き、その巨体を持ち上げて二本足で立ち上がった。


『グルゥ……ガアアアアアアアアアアアァァッ!』


 そして威嚇するように咆哮し、四足で地を蹴ってこちらへと駆けてくる。まるでダンプカーが突っ込んでくるような迫力があるが、俺は冷静に剣を抜いて迎え撃つ。


(魔法は……使ってないな。よし)


 飛び掛かってきたワイルドベアを回避すると、即座に身を翻して鉤爪を振るってくる。五本の指に生えた鉤爪は最早刃物と変わらず、直撃すれば首を刎ね飛ばすことさえあり得るだろう。


 俺は敢えてそこに剣を合わせ、鉤爪と打ち合う。そして両手、両腕に伝わってくる感触を確認し、片眉を跳ね上げた。


(以前戦ったワイルドベアと比べると、たしかに力が強くなってるな……だが、個体差で済ませられる範疇でもある……か)


 一合、二合、と剣を合わせ、火花を散らす。体格差はあるが体捌きによって相手の体重を逃がし、一歩も退くことなく調()()()()()()()


(こんなもんか……)


 そうしてある程度情報を集めたら、振り下ろされたワイルドベアの腕を斬り飛ばした。続いて前へと踏み込み、『三の突き』を心臓に叩き込んで即死させる。


「この一匹だけじゃ確証はもてないが、以前戦ったことがあるワイルドベアと比べるとたしかに強くなってるみたいだ。各自、油断せずにモンスターと戦い、感覚の違いを慣らしていってくれ」


 そう言って剣を払って血振るいし、鞘に納めてみれば、仲間達からは頼もしい返事がくるのだった。

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― 新着の感想 ―
経験値多めなアイツが通じない…? ミナトと透輝の出身世界は同じようで同じではない…? 深読みしすぎだろうか。
ミナトさん生前にDQはやったことないクチ?(笑)
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