第285話:段階を踏んで その6
透輝やメリアと初めて挑んだ北の大規模ダンジョンだが、浅く潜っただけだとしても浮かんだ感想は『厄介だな』の一言である。
大規模ダンジョンだからある意味当然だが、出現するモンスターが手強い。それでいて死霊系モンスターばかり出現するから気が抜けないし、闇属性魔法への警戒で精神的にも疲労する。
出現するモンスターは中級がジャイアントゾンビにリッチ、デュラハンとこれまで何度も戦ったことがある相手が多い。そして上級はヴァンパイアのみだが、このヴァンパイアが手強くて厄介だ。
中級なら接近さえすればどうとでも料理できる。『暗殺唱』を撃たれると面倒だが、この程度ならダンジョン破壊に参加予定のメンバーなら全員防ぐことができる。
だが、ヴァンパイアの『致死暗澹』と身体能力は本当に厄介だ。『致死暗澹』はどうにかできるとして、モリオンやメリアがヴァンパイアの接近を許すと少し厳しいだろう。
それを防ぐのが俺達前衛の役割なのだが、相手が単独で出現する保証などあるはずもなく。複数出現されると対応に時間がかかるし、そこに別のモンスターが駆け付ければ更に面倒なことになる。
「俺の世界にさ、テレビゲームっていうのがあるんだけど……そのゲームで複数のモンスターが出現するんだよ。アレってリアルでやられるとクソゲーだよな」
ヴァンパイア、デュラハン、リッチの三体に襲われた際、それを切り抜けた後の透輝のセリフがコレである。
ヴァンパイアの相手を俺、デュラハンを透輝、リッチをメリアが相手取って対応したが、確率で即死する『暗殺唱』を三連射されたのだ。
こちらは防ぐ手段があるから切り抜けられたが、魔法で相殺するか物陰に隠れることしかできない場合、最悪、二十パーセントで即死するという確率を三回連続で回避する必要があったわけで。
(確率的に死なない確率は五割ぐらいか? 大丈夫と思うには高すぎるわな)
ここに『致死暗澹』が混ざると更に確率は上がる。それに魔法だけを警戒すれば良いというわけではなく、デュラハンの剣技、ヴァンパイアの近接格闘能力も厄介だ。
魔法以外大したことがないリッチ、接近しなければ何もできないジャイアントゾンビが癒しに思えるぐらいである。リッチの方はナメたら即死するから癒しというのは冗談だが。
(思った以上にモンスターが面倒で、肉体的にも精神的にも負荷が大きい……一日、二日程度ならともかく、ボスモンスターを探して何日も潜り続けるのは現実的じゃないな)
やっぱりランドウ先生の手を借りるべきか、あるいはダンジョンを破壊する本番に挑む前に近隣の諸侯やオレア教に頼んでモンスターの間引きを行うか、片道切符前提でオレア教の精鋭を借りるか。
(こっちも戦力を増やすか? 今のメンバー以外だと……立場を無視するならアレク、継戦能力に難があるけど広範囲を薙ぎ払えるエリカ、人形なら即死も関係なさそうなモモカ、真っ当に強いコハクやカトレア先輩、ジェイド先輩は……このダンジョンは相性が悪いか。スグリやルチルは戦闘力が低い。アレクはともかく、他が一長一短だな……)
『花コン』のメインキャラの内、教師であるコーラル学園長やランドウ先生、それに立場上アレク以上に連れ出せないアイリスを除き、それぞれの良し悪しを考える。
やっぱり真っ先に候補に挙がるのはアレクだ。アレクの補助があれば心強い。なにより精神が強いから大規模ダンジョンでも頼りになるだろう。
次に『召喚器』が強力なエリカとモモカが候補に挙がる。ただ、この二人はダンジョンで数日に渡って行動できるほど戦いに慣れていないし、まずは慣らすところから始める必要がある。その場合、慣れるまでどれだけ時間がかかることか。
コハクやカトレアは魔法も剣術も使えて真っ当に強く、前衛を増やせるが、闇属性魔法の対策が不十分だ。前衛という意味ではジェイドも頼りになるが、即死する危険性を考えると頼めない。
そしてスグリやルチルはそもそも実力が足りない。中規模ダンジョンぐらいなら連れて行けるが、北の大規模ダンジョンはさすがに無理だ。守ろうとすれば余計に精神力が削られるだろう。
(人数を増やし過ぎるのもモンスターに気付かれやすくなるからアウト、と……やっぱり増やせてもアレクぐらいか? ただ、補助が絶対に必要かと言われると微妙なところだし……)
補助に関してはMPの消耗さえ気にしないなら『光活唱』や『生新光明』を使えば良い。全体回復だけでなくステータスを上昇させる効果もあるため、万能的な補助が可能だ。
アレクみたいにピンポイントで必要な補助、妨害ができるわけではないが、味方を回復させつつステータスを上昇させるという、雑に使えるのも光属性魔法の良いところである。
「――以上の点から、透輝が『光活唱』、できれば『生新光明』まで覚えるのが急務ってわけだ」
日曜日の午後。
学園に戻る必要もあるため早めに大規模ダンジョンでの戦いを切り上げた俺は、兵舎に戻りながら昨日今日の結果を踏まえてそう結論付ける。
今のままでは戦力が足りないというのなら、足りるようにするしかない。そして現状、一番早く成長するのは透輝をおいて他にいなかった。
俺は既に頭打ちで、ひたすらに努力してジリジリと実力を上げるしかない。
メリアも俺に近く、光属性の最上級魔法を覚えるなどの伸びしろはあるが、成長力では透輝に大きく劣る。
あとはナズナやモリオンだが、それぞれ自分に合った戦闘スタイルを構築済みで、それを伸ばすために努力している最中だ。ただし、この二人もまた、成長力という点で透輝に劣る。
「俺の成長が鍵ってわけか……うぅ……地味にプレッシャーが……」
透輝が眉を寄せるが、こればかりは他に言い様がないため俺は何も言わない。透輝が成長すれば成長しただけ余裕ができるのも事実だからだ。
(今すぐ大規模ダンジョンの破壊に挑むわけじゃないけど、何年も余裕があるってわけでもない。こうなるとやっぱり、犠牲を出すこと前提で作戦を組むしかないか?)
誰も死者を出さずに乗り切るなんて、甘えたことは言ってられない時期がきたのかもしれない。何人、何十人、あるいは何百人になるかもしれないが、戦力を投入してボスモンスターまでの道を確保し、強者を当てて大規模ダンジョンを破壊するしかないのかもしれない。
(……いや、まだだ。まだ時間はあるし、透輝が強くなる余地もたくさん残っている……だからまだだ)
最終的にはそうなる可能性も考慮しつつ、今回の大規模ダンジョンへの遠征は様々な情報を得られたと判断し、学園に帰るのだった。
行きと同様にキュラスの背中に跨り、帰りも空の旅路をひとっ飛びして。
無事に学園に帰ってきた俺はメリアを送り届けるついでにオリヴィアと顔を合わせていた。いやまあ、ついでっていうとオリヴィアに悪いんだけど。
「それで、北の大規模ダンジョンはどうだったの?」
「噂通り厄介なところでしたよ。今後何回かにわけてダンジョンに挑むメンバーを連れて行って慣れさせる予定ですが、今の状況だと厳しいと言わざるを得ません」
俺は強がることなく素直に吐露する。ここでオリヴィア相手に大丈夫です、なんて太鼓判を押しても意味がないからだ。
「そう……何が足りないの?」
「単純に戦力が足りません。その点は透輝を鍛えることでどうにかするつもりですが、そうすると今度はダンジョン自体が厄介でして」
やっぱり闇属性魔法が、と俺は言う。命中すると確率で即死するというのが本当に厄介なのだ。そのため対処にどうしてもリソースを割く必要がある。
あと、単純にダンジョンが広いのが厄介だ。広い分モンスターとの接触が少ないかといえばそうでもなく、普通に歩き回れば三十分に一回は戦う羽目になった。
こちらが気配を隠し、細心の注意を払って進めば接触も減らせるが、やはりダンジョンにとって人間という生き物は異物なのか、どうしてもモンスターと戦うこととなる。
あるいは、死霊系モンスターが生者に対して独特の嗅覚でも持っているのかもしれないが……その辺りは『花コン』でも言及がなかった部分だ。
「死霊系モンスターって生き物……特に人間の気配に敏感だったりします?」
「そういう視点で調べたことはあるけど、明確な答えはなかったわね。でも、一番人間の気配に敏感なのは獣系モンスターじゃないかしら? 音や匂いに敏感だし、死霊系モンスターだから突出して人間の気配に敏感、ということはないはずよ」
「そうですか……となると、どうしたもんか……」
死霊系モンスターをやり過ごすための方法が確立されているわけではないようだ。『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時はリッチが相手なら風魔法を使ってどうにかできたが、今回は防衛戦ではない。移動すればどうやってもこちらの気配は勘付かれるだろう。
(いっそのこと、派手に音を立ててモンスターを集めて、メリアやモリオンに魔法で薙ぎ払ってもらうとか……音が聞こえた範囲にいたモンスター全てを仕留めればその周辺は安全になるだろ……って、いかん。脳筋な解決方法しか浮かばねえ……)
それでモンスターを仕留めきれればいいが、同時に何十匹とモンスターが寄ってきたらさすがに対処できないだろう。一度に対処できるのならありといえばありに思えるが、ヴァンパイアが大量に寄ってきて『致死暗澹』を連射されたら死ぬ。
(ランドウ先生に同行してもらって片っ端から斬ってもらって……って、それじゃあ透輝だけでなく、俺達の成長につながらないんだって……本当にどうしよう……)
ランドウ先生がいなければどうにもならないのだというのなら、俺も迷わず助力を乞うだろう。だが、俺達の現在の実力でもある程度は大規模ダンジョンに潜ることができる。それが俺の判断を悩ませる。
せめてあと一人、手練れが欲しい。それも中級、上級の死霊系モンスターが相手でも問題なく立ち回ることができる能力、強さを持つ者だ。滅茶苦茶贅沢を言っているのはわかるけど、それぐらいじゃないと北の大規模ダンジョンでは戦えない。
今はまだ時間があるし、現状考えているメンバー以外で『花コン』のメインキャラの誰かに声をかけ、育てるところから始めるべきか。
そんなことを考えるが結局、良い案が出ることはなく。オリヴィアには報告だけして図書館を後にした。そうして俺は寮へと戻り――部屋の中から気配を感じ取る。
「おかえりなさい。それとただいま、お父さん……どうしたの?」
そこには、俺が今必要とする戦力がいたのだった。




