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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第11章

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第281話:段階を踏んで その2

 中規模ダンジョンで一晩を明かし、夜が明けたらダンジョンの中で修行をして。


 夜になったら再び戦っては休み、休んでは戦ってと繰り返す。


 さすがに小規模ダンジョンの時と違って呑気にお喋りしながら休む余裕もなく、見張りをする者は緊張感を持って、休む者は熟睡できるはずもないため浅く眠り、何かあれば飛び起きて行動を開始する。


 そんなことを二晩繰り返して学園に帰還すると、俺やナズナはともかく、モリオンでさえ授業中に眠そうにしていた。透輝は普通に居眠りをしている。どうやらまだまだ体力と慣れが足りないらしい。


(魔法使いとして後衛を務めるモリオンより先に沈むとは……減点だな)


 そんなことを考えながら殺気をぶつけてみると、ダンジョンでの行動が身に染みたのか透輝はすぐに飛び起きる。そして即座に『鋭業廻器』を発現しようとするが、教室で剣を振り回すよりも先に我に返ったのか着席した。


(うーん……中規模ダンジョンで二日過ごしただけでコレかぁ。大規模ダンジョンに行くのはまだまだ早い、か。キュラスも成長してないし、もう少し鍛えてみないとな)


 透輝の様子からそう判断し、俺は今後の育成プランを練る。引き続きスギイシ流を教えていくのと並行して暗闇の中での戦い方ももっと教えていくべきか。


(モリオンにも体力をつけさせないと厳しいか? 『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時よりは全然マシだけど、大規模ダンジョンで何日も行動するとなったら心許ないぞ……)


 現時点で合格点をやれるのはナズナだけだ。メリアも良い線いっているが、体格が小柄な分、体力に不安が残る。


(いや、メリアの場合は休める時はしっかり休んでたからな。大規模ダンジョンでも問題なく行動できるし、大丈夫……か?)


 疲れたから、眠いからといっても、ダンジョンから脱出しなければ気を抜いてきちんと休むことはできない。ゲームみたいにセーブポイントがあるわけでもないし、モンスターが出現しないセーフルームがあるわけでもないのだから。


(……俺ももっと体力をつけないとな)


 中規模ダンジョンなら三日間だろうが四日間だろうが普通に行動できるが、これが大規模ダンジョンになると一気に難易度が上がる。


 東の大規模ダンジョンで修行をしていた時でさえ、ダンジョンの浅い場所で寝泊りしていたのだ。


 これが実際に北の大規模ダンジョンを破壊するとなった時、ダンジョンの奥へ奥へと進んで行ったらどうなるか。


 持てる物資には限りがあるし、モンスターと戦う以上、回復ポーションやマジックポーションといった回復手段も必須だ。


 メリアがいるため光属性の中級魔法である『光活唱こうかつしょう』を使ってもらう、なんて手はある。『光活唱』は味方全体を回復させつつ、全ステータスを上昇させるという援護魔法と回復魔法を合体させたような性能があるからだ。

 ただし、その優れた性能に見合うだけの魔力を消耗する。中級魔法ではトップクラスに魔力を消耗するため、そればかりに頼るわけにもいかない。


 透輝もそろそろ『光活唱』を覚えそうだし、ポーション以外の回復手段があるのは助かる話なのだが、回復に魔力を回す余裕があるかどうか。


(……やっぱりランドウ先生に同行してもらって……いやでも、それじゃあ俺達の成長が……ボスモンスターを倒す時だけ同行してもらうか?)


 実際に準備を進めていくと、戦力的な不安が両肩に圧し掛かってきた。大規模ダンジョンになると上級モンスターが出てくるし、さすがに無傷で切り抜けるのは困難だろう。切り抜けられたとしても体力や魔力を大きく消耗しそうだ。


(スグリにポーション類を作ってもらって、持てるだけ持って……食料と水も必須だな。いや、水に関してはメリアやモリオンに魔法で出してもらえばいいし、最低限で十分か? その分、ポーションを持っていって……って、なるべく荷物は軽くしたいんだよな……)


 授業を聞きながらも、俺は手元のノートに大規模ダンジョンを攻略する際に必要となる物を書いていく。


 食料、水、ポーション類、薬、武器や防具を手入れするための道具、野営用の道具等々。


 食料は食料で何を持って行くべきか、味や栄養、腹持ちや重さの面から検討していく。軍事行動用の携行食料がベターだろうが、それだけだと飽きるだろう。きつい状況ほど食事は大事だ。糖分も摂取しなければ頭が回らない。


(こうして考えると、馬を連れて行けないのが痛いな……荷物を運ぶための人員を用意するか? いや、何かあった時に備えて各自で分散して荷物を持つ方が良いよな……そもそも荷運びの人員を用意しても守らないといけないし……)


 『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時はダンジョン化した直後だったため馬車で移動もできたが、大規模ダンジョンとなると馬車が通れる道などあるはずがない。それなら馬だけでも、とは思うがダンジョンの空気に飲まれて使い物にならないのだ。


 そうなるとオリヴィア経由でオレア教に協力を要請し、大規模ダンジョンでも行動できるぐらいの腕がある者に荷運びを頼み、途中まで同行してもらうというのはどうだろうか。


 ある程度進んだら荷物を受け取り、荷運びを担当した者はダンジョンから脱出。俺達はその地点から更に奥を目指す、なんてのはどうか。夜間の警戒も担当してもらえれば体力の消耗も少しは抑えられるはずである。


(そうすればボスモンスターが見つからずに途中で引き返すとしても、物資に余裕を持たせることができるかもしれないな……そのパターンだと一定の日数が経ったら()()()()()を派遣してもらって……いや、大規模ダンジョンの中で合流するのは難しいか)


 だが、途中まで同行してもらうというのは現実的な案だろう。俺達が守る必要がないぐらい腕が立つ者を用意してもらえれば十分に実現できそうである。


(……まあ、そうはいってもまずは大規模ダンジョンに慣れないことにはどうしようもないんだけどさ)


 透輝達もそうだが、俺やナズナだって慣れているのは東の大規模ダンジョンだけだ。北の大規模ダンジョンは勝手が違うだろう。


(確率で即死する魔法が飛んでくるだろうし、途中までとはいえ同行を頼むとなると命懸けになる……いや、行きは俺や透輝がいるから良いけど、引き返してからが問題だな。魔法で相殺する必要があるし、やっぱり手練れじゃないと厳しいか)


 スギイシ流を使える者はオレア教にいないだろうし、死霊系モンスターにとって特効となる光属性の魔法を使える者もメリア以外いないだろう。そうなると荷運びの人員は俺達と別れてからの方が危険になる。


(とりあえずオリヴィアさんに提案だけしてみるか。いきなり人手を用意してくれ、なんてことを言い出したら迷惑だしな)


 仮に人手を借りるとすればオレア教の精鋭になるだろう。そう結論付け、俺はノートを閉じるのだった。






「と、いうわけでして……北の大規模ダンジョンを破壊するとして、オレア教の手を借りることは可能ですか?」


 その日の深夜。


 最近、図書館でよく会うなぁ、なんてことを思いながらオリヴィアと顔を合わせた俺は、昼間に考えていたことを早速相談する。


 俺が考えるようなことはオリヴィアも検討済みだとは思うが、口に出して確認を取るのは大事だ。そんなこともわからないのか? なんて失望されるかもしれないが、確認せずに実行するのはただの間抜けだろう。特に、今回の話は他人の生き死にがかかわりかねないのだから。


「可能か不可能かでいえば可能よ。ただし大規模ダンジョン……それも北の大規模ダンジョンとなると、多くの戦力を損耗する前提になるわね」

「……やっぱり闇属性魔法が厳しいですか」


 俺は確認を兼ねて尋ねる。するとオリヴィアはため息を吐くようにして頷いた。


「そうなるわ。行きは良いとして、あなた達と別れた後が問題よ。どこまで送るかによるけれど、敵に『暗殺唱』なり『致死暗澹』なり撃たれると大打撃になりかねないわ」

「魔法で相殺は……」

()()()()()()()可能、としか答えようがないわね。あなたみたいに直接斬れる手練れはいないし、闇属性を相殺できる光属性魔法の使い手はメリアだけ……そのメリアがあなたに同行する以上、魔法で相殺するとしても確実性がないわ」


 『暗殺唱』や『致死暗澹』が厄介なのは、範囲攻撃だという点だ。上手いこと物陰に隠れたり、魔法で相殺したりできれば防げるが、命中すると確率で即死するというのは現実的に考えると厄介過ぎる。


「オレア教なら闇属性の魔法だろうと相殺できる手練れがいると思ったんですが……」

「もちろんいるわよ。ただ、さすがに数が揃っているとは言えないの。それらを投入することはできるけど、仮に彼ら、彼女らが死ねば『魔王』が発生した後に困ることになるわ」

「広範囲を薙ぎ払える火力がなくなるから、ですか」


 大規模ダンジョンに連れて行ったからといって、必ず死ぬと決まったわけではない。だが、他の大規模ダンジョンならともかく、北の大規模ダンジョンは死霊系モンスターだけしか出ない致死率が高い場所だ。


 そう考えるとスギイシ流をもっと広めていれば、と思うものの、スギイシ流はそれなりに魔力がないとまともに使えない流派である。特に魔法を斬るための『一の払い』は魔力がいるし、その運用技術を身に着けると普通の魔法が使いにくくなるというデメリットもあった。


(ゲーム基準で考えると、ミナトは無駄にMPがあったからな……今はその無駄に助けられているんだけどさ)


 もしもスギイシ流を修められない程度の魔力しかなかったら、今よりもずっと弱かっただろう。その場合絶望していたかもしれない。


 そんなことを考える俺だが、いくら考えても魔法を斬れるような手練れはその辺から生えてくるはずもなく。


「……『魔王』をどうにかして、平和な世界が訪れることを夢見て、未来のために自らの命すらなげうつ覚悟を固めている者も少なからずいるわ。ただ、全員が全員手練れというわけでもない。それらを使()()()()なら可能……とだけ答えておきましょうか」


 オリヴィアは手練れは貸せないが、()()となる人員なら貸せると真剣な顔で言う。それを聞いた俺は僅かに考え込み、首を横に振った。


「いや……()()()()()()透輝が使い物にならなくなりそうですし、やめておきますよ」


 俺達を途中まで送り届けるために無理をして、そのまま命を落とす。そんなことになれば透輝の精神に多大な負荷がかかるだろう。


 大規模ダンジョンを破壊するためにそんな甘えたことは言ってられない、と叱咤することもできるが、それであっさりと立ち直れるなら透輝が『花コン』の主人公を張ってなどいない。


(馬鹿正直に明かさず、隠しておけば……いや、手練れじゃないなら別れるまでで何人も死ぬだろうし、そもそもこちらの安全にもかかわる……無理、か)


 こうして考えると死霊系モンスターが使ってくる闇属性魔法が厄介過ぎる。かといって北の大規模ダンジョンを放置しておくと、そこに『魔王』が発生したら津波のように大量の死霊系モンスターが発生しかねないときた。


「大規模ダンジョンに挑めるぐらいの強さがあって、なおかつ俺達を途中まで送ってから生きて帰れるぐらい生存する能力が高い手練れ……どれぐらいいます?」


 オレア教だし何百人か抱えてません? なんて尋ねてみると、オリヴィアからジト目を向けられる。


「そんな手練れ、何百もいるわけないでしょ。何十程度しかいないわよ。具体的に言うと……二十から三十?」

「……それはそれで少なくないですか?」


 思わずそんなことを尋ねると、オリヴィアは小さくため息を吐く。


「あなたが北の大規模ダンジョンに連れて行こうとしているメンバー……テンカワ君だけが少し劣っているけど、他の子も手練れ揃いじゃない。あなたとメリアが頭一つ抜けて、他の子と同水準の戦士や魔法使いが二十から三十……他はもう少し()()()わね」


 どうやら『花コン』のメインキャラらしく、ナズナやモリオンは現時点で相当な手練れとして認識されているらしい。あとなんか、俺の評価もかなり高い。いくらなんでもメリアと並べられると困るんだが。


「そうなると、俺達だけでダンジョンを突破してボスモンスターを倒す方が無難ですか」

「人数が増えるとそれだけモンスターにも気付かれやすくなるしね。その点で見ると今の五人が適正といえば適正かしら」


 結局、俺達だけで突破するしかないらしい。いや、犠牲を飲み込めるなら人手を借りれるんだけどさ……その借りた人手は後々『魔王』が発生した時に必要になるわけで。


(借りるにしても、北の大規模ダンジョンに何度か挑んでみてからでいいか……)


 事前にこうして話をしておけば後々スムーズだろう。それに、他に取れる手段もあるといえばある。


「あとは、事前にモンスターを間引くぐらいね。それだったら訓練がてら貸し出すわよ?」

「やっぱりそれぐらいですよね……」


 事前にモンスターを間引き、減らしてから大規模ダンジョンに挑む。そうすれば少しは遭遇するモンスターの数も減るだろう。

 ただ、ダンジョンの浅い部分ならまだしも、奥に進めばその効果は感じられなくなるだろうが。


(少しでも疲労を減らせる……そう思うしかないな。他に頼りにできる戦力は……リリィがいる、が……)


 頼るのは最終手段にするべき少女の顔を思い浮かべ、頭を横に振って脳内から追い出す。


 オレア教だけでなく、北の大規模ダンジョンに接する諸侯に協力を依頼し、一斉にモンスターを間引いてもらってもダンジョンの奥までは届かない。


 それでも多少は効果があるだろう、と俺は自分に言い聞かせるのだった。

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