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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第11章

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第279話:準備 その2

 『召喚器』――それはこの魔法が存在する世界でも割と不思議な代物である。


 頑丈な武器や防具として使用できる、特殊な効果がないものを下級。


 使用者の身体能力を引き上げたり、切りつけた相手にデバフを与えたり、切れ味が鋭かったり、極めて頑丈だったり、形状が変化したりと、多少特殊な能力を発揮するものを中級。


 属性魔法のような何かしらの効果を発揮できるものを上級。


 それ以外の特殊かつ強力な能力を発動するものを最上級と分類しているが、その形状や効果は個々人で千差万別。分類わけも大雑把なものだ。


 そんな『召喚器』だが、発現した当人の魂の具現とも言われており、熟練度に応じて『召喚』、『活性』、『掌握』、『顕現』と段階がわかれる。


 『掌握』に至ると『召喚器』の名前も大体わかるし、『召喚器』が持つ能力も大体は使用できる。これが『顕現』に至ると俗にいう必殺技が『花コン』では使えたのだが、今世では今のところ使用できる人を見たことがない。


 『召喚器』というのは大まかに説明すればそんな代物だが、普通の武器や防具とは異なる特徴がもう一つあった。


 それは、死者の『召喚器』を除いて発現した当人しか使えないことだ。


 俺の本の『召喚器』みたいに他人が見ることはできても、渡せばすぐに消えてしまう。たとえば弓型の『召喚器』なら矢を飛ばすことは可能でも、弓を消せば刺さっていた矢も消えてしまうのだ。


 仮に他人の『召喚器』を使えるとすれば、メリアの『献魂逸擲』も何度も使用できるようになってしまうだろう。命と引き換えだから強いのに、それが()()さえ用意できれば連射できるとなると話が変わってくる。


 そんなわけで、本来は他人だと触れることもできない、スグリの『召喚器』をしっかりと掴んでしまったわけだが――。


(ど、どういうことだ? 使い方が普通の錬金アイテムみたいに投げて使うから? アイテムみたいに使用者を選ばない感じ? 『花コン』だと……スグリの『召喚器』を他人が使用できる云々ってイベントなんてなかった……はず……)


 俺は盛大に混乱する。いきなり過ぎて思考が上手く働かない。ビックリしすぎて心臓が止まりそうだ。


(俺が知らなかっただけで他人の『召喚器』も使えたり……いや、無理だよな。『瞬伐悠剣』みたいに亡くなった人の『召喚器』なら使えるけど、生きている人の『召喚器』は使えないよな。そんなことができるなら有用な『召喚器』を集めて強者に使わせる、なんてこともできるし)


 手の中にある、スグリの『禁忌弱薬』を見ながらそんなことを思う。魂の具現と言われるだけはあり、他人が馬鹿にしたら即座に決闘に発展しかねない代物でもあるのだが――。


(『花コン』では出なかったけど、実は何かしらの条件を満たすと他人の『召喚器』も使える……とか? それともやっぱり、スグリの『召喚器』が錬金で作ったアイテムに似ているから誰でも使えるようになっているとか……いかん、推測だけじゃわからん)


 持つことはできているが、使用することはできないのかもしれないし、普通に使用することさえできるのかもしれない。それは試してみないとわからないが、どうするべきか。


「す、スグリ? 君のこの『召喚器』、少し借りても?」

「え、あ、は、はい……ど、どうぞ……?」


 スグリはスグリで、不思議そうな顔をしている。俺の反応をおかしく思っているのか、あるいは俺と同じように他人が自分の『召喚器』を使えることを疑問に思っているのか。


 俺はスグリに断りを入れてから錬金工房を後にする。スグリから距離を取っても手の中のフラスコは消えず、そのままじっと見ながら錬金工房から離れていく。


(消えない……えっ、どういうこと? 怖っ……)


 本来の使用者から離れても消えないということは、やはり、このまま使えるということだろうか。そんなことを考えながら廊下を歩く俺だが、どうやって試したものかと頭を悩ませる。


 握っているのが『召喚器』ということもあり、人によっては他人の魂の具現が云々と危惧するだろう。そのため俺としても信頼が置けて、口が堅い者に協力を仰ぐ必要がある。


「若様、こちらにいらっしゃったのですね。生徒会や決闘委員会からは何か……どうかされましたか?」


 そうやって歩き回っていると、俺を探していたと思しきナズナと行き会った。俺が普段通りのルーティンを終えて第一訓練場に向かっているとでも思ったのだろう。


「ナズナ、良いところで会った。こっちにきてくれ」


 俺はそう言って人気のない方へと移動する。学園は広く、周囲の気配を探りながら移動すればちょっとした死角が簡単に見つかるのだ。


 ナズナが相手なら俺も文句はない。信頼が置けるし口も堅いし、協力を依頼するにはうってつけの相手だった。


「すまないがコレを持ってみてくれるか?」


 そう言って俺はスグリから受け取った『召喚器』を差し出す。スグリの『召喚器』が誰でも使える物だとすれば、ナズナも触ることができるだろう。


 そんな俺の頼みごとに対し、ナズナは不思議そうな顔をしながらも右手を差し出してフラスコを受け取ろうとする。俺が言うことだからとりあえず従おう、みたいな顔だった。


「あっ」

「えっ?」


 ナズナにフラスコを渡した――その瞬間だった。


 それまでの頑丈さが嘘のようにフラスコが砕け、ナズナの手に薄青色した液体が降りかかる。そのあまりの砕けっぷりに思わず声を漏らしたが、ナズナはナズナで何が起こったのかわからないように目を瞬かせた。


「っ!?」


 そしていきなりその場で片膝を突く。まるでナズナだけ感じる重力が増したかのような体勢の崩れ方だった。


「な、ナズナ?」

「わ、若様……急に体がきつくなりましたが……これは?」


 どうやら『禁忌弱薬』の効果が発揮されているらしい。どこか辛そうに息を吐くのを見て、俺はすぐにナズナを抱き起こす。


「いや、すまない。スグリから借りた……アイテムだったんだが。大丈夫か?」

「風邪をひいて熱を出した時みたいな、妙なだるさが……じ、自分で立てるので、大丈夫です」


 俺が心配して声をかけると、ナズナは恥ずかしそうな顔をしながら自分の足で立つ。しかしながら顔色が悪く、『禁忌弱薬』の効果デバフがしっかりと作用しているようだった。


(ナズナが触ることができないってことは、スグリの『召喚器』が誰にでも使えるものじゃないってことで……いや、渡そうとした時に使用する判定が入った? ゲームじゃあるまいし、さすがにそんな判定はないか?)


 俺はナズナを支えながらそんなことを思考する。


(発現してから誰かに渡すことが可能で、そこから更に渡そうとするとアウト……勝手に使われてしまうとか? あるいは俺だから使用できた? え? そうだとしたらなんでそんなことに?)


 武器や防具みたいな『召喚器』と異なり、他人――敵に対して使う『召喚器』だから勝手が違うのだろうか。『花コン』だと敵に投げて効果を発揮していたのだが。


(……ナズナが敵だって判定された? それともやっぱり他人が『召喚器』に触ったから? いや、効果を発揮したってことは使用したってことになるだろうから、渡したのとは違う……はず?)


 いかん、いくら考えてもコレだって答えが出てこない。


「ナズナ、突然ですまないが君の『召喚器』を見せてくれないか?」


 俺はひとまず、別の視点から疑問を解消してみようと試みる。他人の『召喚器』に触れることができるかの確認だ。


「それは別に構いませんが……」


 また急に変なことを言い出したぞ、とでも言いたげな顔をしながらナズナが盾の『召喚器』を発現する。


 ナズナの『召喚器』は五角形を逆さまにしたような形で、大きさは片手で使えるサイズだ。盾には腕を通す金具と持ち手があり、ナズナの場合は利き手である右腕を通し、持ち手を握って使用する。

 ナズナが使えばバリアを張って物理、魔法を問わず防ぐことができる便利な『召喚器』だ。


「ふむ……」


 俺はナズナの『召喚器』を拳で軽く叩く。扉をノックするようにコンコンと音を響かせるが、非常に頑丈な手応えだ。


「あの、若様? さっきから何を?」

「ちょっとした実験だ。すまないが協力してくれ。で、君の『召喚器』を使えるかどうか試してみたいんだが……」

「は、はあ……」


 ナズナは首を傾げつつも、盾の『召喚器』を差し出してくれる。魂の具現と言われるぐらいだから嫌がるかと思ったんだが……これも長年の信頼関係によるものだろうか。


「ありがとう、ナズナ……っと?」


 ナズナから『召喚器』を受け取り、ナズナが手を離した瞬間だった。俺の手の中から盾が消え、宙を掴んでしまう。


(消えた……やっぱり使えないよな? それじゃあスグリの『召喚器』は一体……)


 こちらは予想通りの結果になり、俺は首を傾げる。一応の確認として自分の、本の『召喚器』を発現してナズナに渡してみるがこちらも結果は同じだ。渡して俺が手を離した瞬間、その場から消えてしまう。


(わからねえ……どうなってるんだ? 他に確認できることは……)


 俺は更に首を傾げながらも、ナズナに協力を頼んで先ほどまでいた錬金工房へと戻る。そして何事かと目を丸くするスグリにもう一度『禁忌弱薬』の発現を頼んだ。


「その『召喚器』は……()()()()、若様はレッドカラント殿と一緒にいたのですね?」


 おっと、ナズナの機嫌が急降下した気配を感じるぞ。


「ああ、そうだ。アイリス殿下や透輝が育てているキュラスがいるだろ? あの子に使わせる鞍や竜笛の製作を依頼しに来ててな」


 疚しいところは何もない、と言わんばかりに堂々と答える。実際、疚しいところはないのだ。仮に相手がカリンでも同じことを答えられるだろう。


「……そ、そうなんですね。失礼いたしました」


 ナズナは急降下した機嫌を持ち直したようで、自分自身を律するように咳払いをする。だが、その途中で疑問を覚えたのか、俺をじっと見つめてきた。


「いえ、それなら先ほど若様が持っていたモノは……何故レッドカラント殿の『召喚器』を若様が?」

「なんでだろうなぁ……」


 とぼけるわけではなく、本心から呟く。本当になんでだろうなぁ……。


「スグリ、その『召喚器』をナズナに渡してみてくれないか?」

「え? は、はい……ミナト様がそう仰るのなら……」


 とりあえずそれで俺がおかしいのかスグリの『召喚器』がおかしいのかがわかる。そう思って頼むと、スグリはどこか躊躇した様子でナズナに『召喚器』を手渡した。


「っ!?」


 ナズナの手に渡った瞬間、フラスコが砕けて再び薄青色した液体がナズナの手に降りかかる。触れた瞬間に砕けたため回避のしようがなかったらしい。


「……も、もう一度出してもらっていいかな?」


 こうなると、おかしいのはスグリの『召喚器』ではなく俺の方になってしまう。それが認められずにもう一度頼むと、スグリはすぐに『召喚器』を発現してくれた。ついでに物は試しにと俺の『召喚器』を手渡してみるが、俺の『召喚器』だけが消えてしまう。


「…………」


 俺はスグリの『召喚器』を無言で受け取る。フラスコの形をしている割に頑丈で、触れただけでは到底砕けそうにない手応えだ。錬金で作ったアイテムみたいに()()()()()()


(えぇ……どういうことだ……なんで、どうして……?)


 ナズナは触ることができず、『召喚器』の能力がそのまま発揮された。


 俺は普通に触ることができ、ナズナに手渡せばスグリが渡した時と同じように効果を発揮する。


 それでいてナズナの『召喚器』は触ることはできても俺だけで使うことはできず、そのまま消えてしまう。


(スグリとナズナの違いは……『召喚器』の性質? それとも何か別の……そういえばスグリに関しては俺の『召喚器』が光ってたな……)


 本の『召喚器』に記されたスグリに関するページ。その十ページ目が淡く光っていたな、なんてことを思い出す。もしかするとアレが関係しているのだろうか?


(他の人のページが光ってないから確認のしようがないんだよな……ないとは思うけど、『召喚器』が魂の具現っていうのなら、スグリが俺に対して()()()()()()()ぐらい強く想っている……なんてことも……)


 ふとそんなことを考えて、ジクジクと胃が痛むのを感じ取る。ちょっと穴が開いたかな? なんて考えてしまうような痛みだった。


 それでも、仮に本の『召喚器』のページが光る条件が好感度によるものだとすれば。光った相手の『召喚器』を借りることができるのだとすれば。


 それはまるで、()()()()()()()能力だ。主人公とうきのものとは異なるが、好感度が影響して能力がどうこうとなると似たようなものである。


 ただまあ、ミナトみたいな悪役のかませ犬が? なんて疑問も抱くわけで。どちらかというとスグリが俺に対して『召喚器たましい』を預けても良いと思っている、なんて可能性の方がまだ()()()()()気もするんだが。


(それはそれで重苦しいけど……ど、どちらにせよ、スグリの『召喚器』を携帯できるようになったぞ……やったぁ……)


 さすがに複数は発現できないようだが、一回だけなら特定のボス以外を弱体化させられるであろうアイテムを入手できた。


 そんな()()()()()()()をしながら、俺は鷲掴みするように腹部を押さえるのだった。

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― 新着の感想 ―
魔法先生ネギまのアーティファクトみたいですね(笑)
全然「やったぁ」じゃないミナトの明日はどっちだ!(苦笑)
スグリが自分のだけ持ってもらえるとか知ったらますます重い感情を向けられそうw
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