表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/137

67 後宮一の抱かれたい男

「ずいぶんと幸せそうだね」


「幸せですよ。愛しいあなたが、私の甜菓かしを食べてくださるなんて、こんな幸福があってもいいのかと」


「たいそうだなあ」


「ふふ、私にとってはたいへんなことなんですよ」


「そうかな。後宮の妃妾ひしょうたちは喜ぶとおもうけれどね」


 後宮庁舎こうきゅうちょうしゃまで荷を取りにいったとき、妃妾たちがコウの噂をしていたが、声をかけたら微笑みかけてもらっただの、荷を持ってくれただの、きゃあきゃあと声をあげていた。妃妾たちのかしましさにくらべたら、せみのほうがよほど物静かに想えるくらいだ。


「後宮一の抱かれたい男だとかいっていたよ」


 茶をのんでいたコウせた。


「まったく、良家りょうけ姑娘おんなばかりだというのに、品のない」


「男のいないところではそんなものさ」


「後宮では私の素姓は割れてませんからね。まあ、おかげで助かってはいますが。眉目好みめよしに産まれついた特権ですね」


 コウはにっこりと笑った。ずいぶんと驕った台詞だが、彼が言うといやみではない。


「僕は巷でいうところの美醜びしゅうというものにはこだわらないが――そうだね、死化粧の施しがいがある顔だとはおもうよ」


「死化粧ですか」


 縁起でもないと怒られてもしかたない無神経な発言だったが、コウは眼を見張り、続けて恍惚の息を洩らす。


「それはいい」


 熱せられて、融けた鉄を想わせる睛眸せいぼうが紫蓮を映す。


「いつか、私が死んだら――死ねるときがきたら、あなたが死化粧を施して棺におさめてくださいますか」


 ああ、彼ならば、そういうだろうなとおもっていた。


 紫蓮シレンがこたえようと唇をほどいたその時だ。宦官が息をきらして飛びこんできた。靑靑ショウショウだ。


コウ様っ、起きておられますか! って、えっ、えええっ、紫蓮様!? な、なんで」


「どうかしたんですか、朝から騒々しいですね」


 絳がため息をついた。ふたりきりの時間を邪魔されたせいか、絳の視線は刺々しかった。だが、靑靑ショウショウはすでにそれどころではなさそうだ。


「はっ、まさか……あわわっ、絳様はそれはいけません。だめですよ。紫蓮様は妃という御立場で、あっ、でも、愛があれば私は応援いたしますが、その、せめてそういうことは笄年けいねんをお迎えになられてから」


 靑靑ショウショウは目をぐるぐるとまわして、慌てている。


「いったい、なにを勘違いしているんですか」


「えっ、だって……その」


「違いますよ」


 コウは呆れきっていた。紫蓮シレンはというと、蜂の巣に棒でも突っこんだような靑靑の騒ぎように耳を押さえている。頭痛がしてきた。


「昨晩、スイ 紫蓮シレンが奇襲されたんです」

お読みいただき、ありがとうございます。

皆様のお陰様でブクマ200突破いたしました!

三部完結後にふたつ、SSを御用意させていただきますので、今後ともご愛読いただければ嬉しいです!(投稿したやさきに減りました涙)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ