68 皇太妃からの依頼
「昨晩、綏 紫蓮が奇襲されたんです」
「えっ、き、奇襲ですか」
靑靑が一転して、青ざめる。
「侵入者は私が退けましたが、ほかにも残党が潜んでいる危険があるため、紫蓮を保護し、こちらに連れてきました。刺客の屍は倉にあります。後宮に侵入者がいるというだけでも大変な事態です。被害が拡がらないうちに対処しなければ」
絳は刺客が他の妃妾に危害を加えるはずがないことを理解している。だが、紫蓮が襲われたことより、後宮に侵入者があったことに重きをおいたほうが迅速に刑部省を動かせると判断したのだ。
靑靑を連れて、倉に確認しにいく。
だが、なかはもぬけの殻だった。
「回収されたか」
絳が悔しげに舌を打つ。
奇襲されたという証拠がこれでなくなった。報告したところで取りあってはもらえないだろう。証拠もなく侵入者があったなどと騒ぎたてることは、こちらの立場を悪くするだけだ。これは後宮の衛官たちの沽券にかかわる。嘘をつき、衛官を侮辱したと糾弾されたら、面倒なことになる。
「え、えっと、実はもうひとつ、たいへんなことが」
靑靑は気を取りなおして、朝から騒いでいたことを伝達する。
「実は皇太妃様から死化粧妃に依頼がありまして」
皇太妃といえば、現皇帝の母親にあたる。先帝は最期まで何者も皇后に迎えることはしなかったため、后ではなく妃の階級だが、現在は幼い皇帝にかわって皇后さながらに国事を執りおこなっている。
いまや、後宮どころか、宮廷の頂に咲き誇る華だ。
「皇太妃直々の依頼、ですか」
絳が神経を張りつめたのがわかる。だが、紫蓮は落ちついていた。
「今度は、誰が死んだのかな」
ともすれば不敬な言葉に靑靑が慌てる。
「え、えっと、皇帝陛下の従兄である柴綜芳様がその、薨去されました。た、ただちに宮廷外にある柴家の御邸にむかうよう、お達しです」
「死にかたは」
靑靑は縮みあがる。勘弁してくださいとばかりに頭をさげた。
「そ、それは……その、私の口からは、とてもではありませんが」
「言えないような死にかた、ね。死に優劣はないんだけどね」
紫蓮が息をつき、頭を振る。
「ただちに荷をまとめるよ。いかなる死にかたをしていようとも、死者は等しくやすらかに葬られるべきだ」
紫を湛えた眼が死を映して、透きとおる。
「葬ることだけが遺されたものにできる唯一なのだから」
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