表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/137

69 人の尊厳を損なう死

死体の描写があります。

グロテスクな描写、不衛生な描写が苦手な読者様は御注意ください。

 サイ氏の邸宅は都のはずれにある。

 皇帝の遠縁とおえんにあたる氏族しぞくは政に関与できないよう宮廷から遠ざけられるのがきまりだ。

 スイ 紫蓮シレンの護衛は コウが務めることになった。護衛といってもほぼ監視役だ。とくに馬車で移動しているときに逃げださないよう見張るのが護衛の役割である。ほんとうは衛官がつくはずだったが、死のけがれを忌避して誰もが辞退したため、 コウが立候補した。絳としては願ったりかなったりだ。


「ようこそきてくれた、御苦労」


 迎えてくれたのは屈強な武官だった。眉が濃く、肩幅もがっちりとしていて勇猛な虎を想わせる。

 だが、いまは死人のように青ざめ、酷い隈ができていた。


「このたびは衷心ちゅうしんよりお悔やみいたします」


 コウは袖を掲げて頭をさげる。


「私は刑部丞けいぶじょう コウと申します」


「ああ、すまない、こちらからさきに名乗るべきだった。俺は綜芳スオウ様の側近をつとめるゲン戒韋カイイだ。……いや、つとめていた、というべきか」


 武官はあきらかに憔悴していた。


「僕はスイ 紫蓮シレンだよ。いたいはどちらかな。すぐにでも死化粧に取り掛かりたいのだけれどね」


 紫蓮は臆さず、落ちつきはらっている。取りたてて気遣うでもなく、なすべきをなすという一貫した態度を崩さない。


 戒韋カイイは了解したと頷き、すぐに通してくれた。立派な邸宅だ。宮廷のような華やかさはないが、紫檀したんで造られた調度からは皇族が暮らすにふさわしい風格が漂っている。彫刻の施された格子窓からは院子なかにわが一望でき、紫薇さるすべりが咲き群れていた。


 女官たちが慌ただしく、葬礼の支度をしている。


 サイ 綜芳スオウは二十三を過ぎていたが、妻をめとっていなかった。皇族としてはめずらしいことだ。邸には柴綜芳のほか、彼の母親がいるはずだが、息子の急死にせっているらしかった。


 階段をあがり、二階の房室へやに入る。


 足を踏み入れた途端に異臭が鼻をついた。香をたき、紛らわせようとしているが、臭いがまざってよけいに酷いことになっている。


 したいは頭から足先まで布を掛けられ、安置されていた。


「布を取るが……おどろかないでくれ」


 現れた綜芳スオウの屍は酸鼻をきわめる有様だった。

 絳ですら一瞬だけ、息をとめる。


 髭をはやした顔は赤く膨張し、赤紫になった舌が伸びきって垂れていた。眼窩から眼が飛びだして、瞼をおろすこともできていない。汚物も垂れながしになっているのか、屍を横たえている敷布がぐっしょりと濡れている。異臭のもとはここか。


 縊死いしは人の尊厳を損なう死にかただとは聞いたことがあった。だからこそ士族を含め、身分のあるものが死罪になるときはかならず斬刑に処すのだ。だが、ここまでとは。


 戒韋カイイはみるのもつらいのか、終始視線をふせている。


「ふむ、縊死してからそれほど時間が経たないうちにおろされたみたいだね。発見されたのは朝かな」

お読みいただき、ありがとうございます。

ほのぼのとした(?)時間は終わり、ここから事件が始まります。

引き続き、「後宮の死化粧妃」をお楽しみいただければ幸いでございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ