文明 七
地上に到着してからおよそ半日が経過し、シティは日が昇り始めていた。エイブ曹長が戻るまで時間があったので、偵察隊はエレベータが来るまでシティの地上基地で待機することにした。
しかしエイヴ曹長は既に基地の中で待っていた。それも小銃で武装した兵数名を連れてだ。兵達の右腕には白い腕章が付いており、黒字で「MP」という文字が書かれていた 。
反乱軍の憲兵隊である。彼の目は鋭くモリソン船長を睨んでいた。
「貨物船GH号船長、テオドルト・モリソン。お前と船員達にスパイの疑惑がかけらている」
エイヴ曹長がそう言うと憲兵が一斉に銃口を偵察隊に向けた。オルグレン軍曹がすかさず拳銃を抜こうとしたがラブロフ少尉それを制止する。
「おいエイヴ悪い冗談だろ。俺がスパイだって?何のため、誰のためにだよ」
「モリソン、まさかお前が地球側につくなんてな。見損なったよ」
「それで?疑惑の原因はなんなんだよ?」
エイヴ曹長が銃を構えて並んでいる背後の憲兵の一人に目配せをするとその憲兵は銃を下ろし書類と一枚の写真を挟んだクリップボードを彼に渡した。彼は写真をモリソン船長に見せながら再び話し始めた。
「これは先日軌道基地へ帰還した我が軍の艦隊に所属する攻撃艇のガンカメラが捉えたものだ。撮影時期はおよそ1ヶ月前、国連軍の艦隊と交戦した際のものだ」
その写真には国連軍艦隊に護衛されながら航行するGH号の姿があった。
「どう見てもお前の船だ、モリソン。何故国連軍と行動を共にしていたんだ?」
「俺の船の同型船なんていくらでもあるだろう。それがたまたま国連軍のものだったんだよ」
「これだけじゃないぞ。入港中のお前の船の被弾箇所を調べさせてもらった。これが非常に特徴的でな、比較的小口径の電磁加速砲弾によるものだ」
これにラブロフ少尉は少しばかり動揺した。
「お前の手下は理解したようだな、モリソン。攻撃艇に搭載できるほどの小型化された電磁加速砲は国連軍にはまだ本格的には配備されていないはずだ。つまりGH号は我が軍の攻撃艇を受けたんだ。国連軍と反乱軍の戦闘の最中でな」
エイヴ曹長はクリップボードを下ろすと、憲兵達に命令を出した。
「こいつらを拘束しろ!所持品も全て回収だ!」
憲兵達は直ちに偵察隊の拳銃などの所持品を押収し手錠をかけた。
「おい!頼むよ!やめてくれ!家に帰らせてくれ!」
モンテ伍長はあまりにも抵抗していたので憲兵に銃尾で殴られ気絶させられた。
手錠をかけられたモリソン船長にエイヴ曹長が近づく。
「まったく几帳面なこった。見違えたぞエイヴ」
「何故お前が国連軍に手を貸したんだ?」
それを聞いたモリソン船長が鼻で笑った。
「フン、お前らが地球に爆弾を落としたせいで国連軍が警戒を強化したんだぞ。おかげで船員は全員拘束されて処刑されちまったよ。かつてのお前の仲間だ。俺だって死ぬか協力するか迫られたんだ。そしたら選ぶのはひとつだよな」
ばつが悪くなったエイヴ曹長は話を切り上げた。
「エレベータに連行しろ!軌道基地で全員に尋問を行う!」
偵察隊員は両腕を憲兵にがっしり掴まれながら連行され、エレベータの貨物室に詰め込まれた。拘束された偵察隊と憲兵を乗せたエレベータは軌道基地へ向けて地上を出発した。隊員達は不安にかられ既に意気消沈している様子だった。赤色ランプの明かりの中でモリソン船長がラブロフ少尉に話しかける。
「残念だな少尉、こんな結果に終わっちまって」
「畜生・・!ここまで来てこのざまかよ!カメラも拳銃もなにもかも押収された!なんとしても取り返さないと!」
「無理だよ、周りは全部反乱軍だぞ?船で待ってた連中も既に拘束されてるだろうな」
「このままじゃ終戦まで捕虜か下手したら処刑される!軍曹、なんとかこの手錠を外せないか?」
ラブロフ少尉は元憲兵のオルグレン軍曹を頼った。
「やろうとしてますが難しいです!強固な電子錠で固定されてて、溶断でもしない限り無理です!」
「なんてこった、国連軍と反乱軍のどっちにも捕らえられるなんてね」
モリソン船長も半ば諦めの感情を露わにし始めていた。
エレベータが火星上空の軌道基地に到着すると、偵察隊員は基地へ降ろされ収容所まで向かって広大な基地内を憲兵と共に移動させられた。
ラブロフ少尉がふと近くの窓から基地の外を見ると、見覚えのある艦がタグボートに曳航され基地に入港しようとしているのが目に入った。
「国連軍の空母だ!何故火星の基地に?」
ラブロフ少尉の疑問にエイヴ曹長が応えた。
「そうだ、国連軍の艦だよ。俺たちに寝返ったんだ。賢い判断だな、この戦争の行く末を見極めたようだ。一悶着あったようだが無事ここまで辿り着いた」
その空母はコレー大尉が乗っているモハーヴェイだった。アダモフ大尉の決起は成功し、艦は反乱軍の艦隊と合流して反乱軍基地まで辿り着いていたのだ。




