文明 二
三月十一日、輸送船は火星圏へ進入した。進入後間も無くして反乱軍の戦闘艇二機が輸送船のインターセプトの為に接近してきた。ヒューリーとモンテ伍長は接近して来る戦闘艇を窓から見ていた。
「あれが反乱軍の戦闘艇かぁ、こんなに近くでじっくりと見たのは初めてだな。国連軍の戦闘艇よりも速そうだなヒューリー」
実際、反乱軍の戦闘艇の性能は国連軍の戦闘艇のそれを上回る。反乱軍がどのような技術を以ってその戦闘艇を製造しているのか未だ謎が多い。
反乱軍の戦闘艇のコックピットは全体が装甲で覆われているのでヒューリー達からは戦闘艇のパイロットの姿を確認することができない。装甲の中にいる反乱軍のパイロットから輸送船に通信が入ってきた。
『航行中の輸送船に告ぐ。こちらは植民地解放軍B艦隊所属の航空隊である。船舶番号と船の責任者を報告せよ』
反乱軍との交信はモリソン船長が実施することになっていた。マウロ中尉、ラブロフ少尉の二人が見守る中、彼はコックピットにあるハンドマイクを手に取った
「船舶番号EC四〇四・二一八一三三、責任者はテオドルト・モリソンだ」
モリソン船長はパイロットに対してそのように返答した。それから一分と経たずにパイロットから再び通信が入った。
『船舶番号を確認した。船名ゴールデンハインド号、船長テオドルト・モリソン。指定の航路に従い、軌道基地へ航行せよ』
「こちらGH号、了解した」
反乱軍戦闘艇との交信はそこで終わり、戦闘艇は輸送船から離れていった。
「最初の難関は乗り越えましたね」
ラブロフ少尉はそう言いながら大きな溜め息をついて座席の背もたれにもたれかかった。
一方でマウロ中尉は未だ不安を抑えきれてなかった。
「思っていたより簡単に通してくれたな」
「いつもこんな感じだよ。まあこの船に国連軍がいるってことを連中が知れば、こんなボロ船一瞬で宇宙のゴミにされるだろうな。逃げる暇も無い」
モリソン船長の言葉を聞いてマウロ中尉は乾いた笑いを発した。
輸送船は順調に火星の軌道基地へ航行した。
基地が肉眼で確認できる程度の距離まで輸送船が来た時、ラブロフ少尉はコックピットから見える目の前の光景に異変を感じた。
はるか遠くに小さく見える基地の周辺に大小様々な点が浮いていたのだ。それもひとつやふたつではなく大量にだ。大まかに数えてもその数は二百を超えていた。
輸送船がさらに接近し、ラブロフ少尉はそれが何であるのかを突き止めた。
「嘘・・・だろ・・」
点の正体に気づいた時、彼は驚愕し全身に鳥肌を立たせた。マウロ中尉は口をわずかに開いたまま表情が固まってしまっていた。
点は全て船だった。それも戦うための船だ。反乱軍のものと思われる多数の戦闘艦が基地周辺に停泊していたのだ。戦艦、巡洋艦、空母、駆逐艦などありとあらゆる反乱軍の軍艦の姿をラブロフ少尉は確認した。
「奴らはいつの間にこれだけの艦を揃えたんだ!?」
「こいつはたまげた、俺が最後に見た時よりも数が増えているよ。しかも反乱軍の艦はここにあるのが全てじゃ無いだろうな。火星圏のあちこちに戦力は散らばっているだろうよ」
ラブロフ少尉どころかモリソン船長でさえこの様な規模の反乱軍艦隊を見たのは初めてだった。
船員室の窓からそれを見ていたヒューリーはカメラを取り出し、シャッターを何度も切った。赤い惑星の地平線、その上空に存在する基地と大規模艦隊。この時撮影した写真は後に教科書にも載る事になる写真だった。
モリソン船長が基地の管制官と交信する頃には輸送船はすっかり反乱軍の艦と戦闘艇に囲まれていた。
緊迫した面持ちの二人の士官をよそにモリソン船長は軌道基地の管制官に対して輸送船の入港の許可を求めた。
「軌道基地管制塔こちら輸送船GH号。入港の許可を求む」
『GH号こちら管制塔。一五番ドックへの入港を許可する。レーダー誘導に従い、進入路へ航行せよ』
「こちらGH号了解。レーダー誘導に従い、一五番ドックへ入港する」
直径四キロ高さ三百メートル程の巨大な円盤状の形をした軌道基地にある多数のドックのひとつに輸送船は入港した。輸送船がドックに入り、ハッチが閉まるとドック内に空気が注入され始める。それと同時に宇宙服を着用した基地の作業員が輸送船に群がり始めた。
ラブロフ少尉達は約四週間ぶりに船の外へ出た。ヒューリーやオルグレン二等軍曹などの下士官組も船を降りていた。
船とドックを結ぶ通路をつないでいるブリッジを彼らが歩いていると、ブリッジのドック
側の方から一人の髪の薄い中年の男が近づいてきた。
その男は赤茶色の宇宙服を着用しておりヘルメットは脇に抱えられていた。宇宙服には反乱軍の部隊章と階級章が付いていたので軍人である事が判断できた。相変わらず偵察隊の人員はラブロフ少尉をはじめとしてほぼ全員の顔がこわばっていた。その中でも特にオルグレン二等軍曹は警戒心を強めていた。
男は植民地偵察隊に近づくと真っ先にモリソン船長と話を始めた。
「ようモリソン!久しぶりだなァ、随分見なかったからとうとうくたばったっちまったのかと思ったぞ!」
その軍人は笑顔でモリソン船長の肩を叩きながら大声でそう言った。彼とモリソン船長は知り合いだったのだ。
「フン、残念だったな俺はまだ生きてるよ。死にそうになったことなら幾度もあったけどな」
「国連軍か?」
「ああそうだ、お前らが地球に爆撃したおかげで国連軍が地球圏の警戒態勢をガチガチに固めちまったんだぞ」
「どうやらそのようだな。お前の船にもでかい被弾痕があいてらあ。他の奴らも初めて見る顔ばかりだな」
軍人はモリソン船長の肩越しにヒューリー達を見た。
「前に乗ってた奴らは死んだかビビって逃げ出したかで全員いなくなっちまった」
もちろんモリソン船長の話は殆どが嘘である。船体の被弾痕は国連軍ではなく反乱軍の攻撃によるもので、船員は船長以外全員が死刑となっている。
モリソン船長はヒューリー達の方に向き直った。
「お前らに俺の友人を紹介する。解放軍のエイヴ曹長、GH号の元船員だ」
「おい!最後のは言わなくてもいいだろう!」
エイヴ曹長が少し焦りながらそう言った。
「別にいいじゃねえか。良くお前みたいなゴロツキを火星の奴らは軍に入れたもんだ」
「それだけ解放軍は人手不足だったんだよ。それに俺はここに家族がいるからな」
「そうだったな。火星で余計な枷付けなきゃまだまだあの船で使ってやったのに」
「もう昔の話はいいだろ、ところでしばらくここにいるのか?」
「ああ少しな。世話になるぜ」
エイヴ曹長とモリソン船長がドックに向かって歩き出したので偵察隊もそれに続いた。
エイヴ曹長とモリソン船長の話は続いていた。
「モリソンそういえば今回はアレを持ってきてるのか?」
「ああ葉巻か、安心しろしっかり積んでるぜ。ちゃんとハバナ産だ」
「そいつはありがたい!なんせ火星のプラントでは食えない葉っぱは作ってくれないからなぁ」
「火星に降りるエレベータは一番速いのでいつ来る?」
「火星に降りるのか?ちょっと待ってくれ」
エイヴ曹長は宇宙服のポケットから折り畳まれた時刻表の紙を取りだした。
「ええと、一番速いのは一時間後くらいだな。どうだモリソン?エレベータが来るまで久しぶりに飯でも一緒に食わないか?」
「あいつらも一緒で良いか?ちょっと大所帯だが」
モリソン船長はそう言いながら親指で自身の後ろに続くヒューリー達を指差した。
「ああ構わないぜ。荷物の積み下ろしは部下共にやらせておくから」
「お前も偉くなったもんだ」
「まあな」
四週間ぶりにまともな食事が摂れるとなればヒューリーとモンテ伍長はテンションが一気に上がった。本来の任務も忘れて騒ぐその姿は宇宙海賊と変わりが無かった。




