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Martians to Invade  作者: シュンキチ
文明
48/54

文明 三

 機動基地内の食堂で食事を終えた植民地偵察隊はパイロットのマウロ中尉と隊員4名を船の警備に残し、地上から基地に上がってきた地上行きのエレベータに乗り込んだ。

 これらの施設は軍が管轄し基本的には民間人は使用不可である。今回偵察隊はエイブ曹長の引率という形でエレベータに搭乗した。基地で勤務する他の反乱軍の軍人と共に窮屈な下士官座席に全員が座った。

 それから間もなくしてエレベータは地上へ向けて降下を開始した。窓側の席に座ったヒューリーは故郷をよく走っていた長距離バスの最悪な乗り心地を思い出していた。このエレベータもそれに負けず劣らず酷い乗り心地だったのだ。それから彼は昔の思い出にふけりながら眠りについた。

 約百名が搭乗できるこのエレベータは地上と基地の間をおよそ十二時間で移動し、植民地の重要なインフラとなっている。戦争が起きる以前は火星で採掘された鉱物資源などがこのエレベータによって軌道基地へ運ばれそこから貨物船によって地球へ輸送されていた。現在では地球からの密輸物資を基地から地上へ送る役割を果たしている。構造的には地球にあるものと同じであった。

 次にヒューリーが目覚めたのは火星の重力によって自分の身体を重く感じ始めた時だった。エレベータは既に大気圏内に入り、窓からは地表の植民地がぼんやりと見え始めていた。反乱軍艦隊の急速な増強と同じく火星植民地も大きな発展を遂げていた。

 かつては簡易的な居住地施設であるドーム型ばかりだった植民地の建築物群は今や多数の鉄筋コンクリートのものに取って代わられ巨大な市街地と化し、地上エレベータ基地周辺の地表はもはや火星の赤茶色ではなく灰色に染まっている。

 市街地は基地を囲むように半径およそ六キロメートルの円状に広がっており、更に外側の周辺には幾多の階段式の露天掘りの採掘現場の穴と工場と思しき建物が点在していた。

 そしてそれらの上空にはモリソン船長の証言通り大気圏内であるにもかかわらず反乱軍の戦艦をはじめとした多数の戦闘艦が浮かんでいたのだ。

 この植民地の現状を見たヒューリーは自分の所属する国連軍は本当に戦争に勝てるのか不安になり始めていた。それはヒューリーだけでなくラブロフ少尉を始めとして殆どの者が同じ様な気持であった。


 日が落ち始めた頃、エレベーターは地上へ到着した。やはり長期間無重力下にいた偵察隊にとって、火星の重力は堪えるものがあった。

 それでもアシストスーツによって歩くことは辛うじて可能であった。基地の中は多くの軍人が忙しく動き回っている。


「俺は他の仕事があるんでな、ここから先はモリソンがいれば大丈夫だろう」


「ありがとうよエイヴ、今度上の基地に戻るのは何時になる?」


「明日の昼の便だ。それまで火星でのビジネスに勤しむがいいさ!」


「そうさせてもらおう」


 その言葉を聞いた後、エイヴ曹長は後ろ手に手を振りながら人混みの中に消えて行った。それを見送ったモリソン船長はラブロフ少尉の方へ視線を移した。


「さあ仕事にかかろうぜ、少尉殿」


 ラブロフ少尉はモリソン船長と偵察隊を基地の外へ移動させ、最後の命令下達を始めた。


「よし、これより隊は二班に分かれて行動する。編成については訓練時と同じだ。一班の指揮を俺が、二班の式をオルグレン軍曹が執り、船長は一班に同行。再集結については二日後の現在地、現時刻。作戦行動中の班間の連絡無線は長の者が行い、緊急時のみに制限。命令は以上だが何か質問はあるか?」


 マイヤー伍長が挙手した。


「何だマイヤー伍長」


「現地人の訛りが思っていた以上に強く、やはり自分達の喋り方が怪しまれないか不安です」


 マイヤー伍長が言うように半世紀前に地球を離れた植民地の住民の言葉はすでに独特のイントネーションを持つ「火星訛り」と呼ばれるものになっている。地球に住む者との話し方の差はもはや誰が聞いてもはっきりとわかるものなのだ。



「確かに訛りについては俺もそう感じた。しかし問題はない、堂々と今まで通りに喋れば良い。訓練では訛りについても教育したが無理に使おうとするな。逆にそれが懐疑の念を持たれる原因になりかねない。そうだなオルグレン軍曹」


 ラブロフ少尉はオルグレン二等軍曹の方を向いてそう言った。


「はい少尉、火星生まれの住民が増えた今でも植民地には未だ地球出身の者は少なからずいます。さほど大きな問題ではありません」


「そう言うことだ伍長」


 彼の顔が再びマイヤー伍長の方に向く。


「はい、軍曹の言葉を聞いて少し安心できました!ありがとうございます」


「そうか火星での勤務経験がない俺が説明しただけでは不安だったか」


 ラブロフ少尉の顔が不機嫌気味になった。当然それを見たマイヤー伍長が焦る。


「い、いえ!そう言うわけでは!!」


「冗談だよ。俺も軍曹の言葉を聞くまで正直心配だった」


 彼の顔は茶目っ気のあるものに変わっていた

 隊員達の間で小さな笑い声が起き、緊迫した空気がほんの少し緩んだところでラブロフ少尉は作戦開始の言葉を発した。

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