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Martians to Invade  作者: シュンキチ
文明
46/54

文明 一

 ヒューリーは船内の談話室の壁に掛けられているカレンダーを見た。


 二一三〇年三月四日(土)


 ヒューリー達を乗せた輸送船がプラトン基地を出航してからおよそ三週間が経過していた。マウロ中尉とモリソン船長の予想では火星へ到着するのはおよそ一週間後とみられていた。

 船は三週間前、地球圏を離脱する際に船の護衛についていた第五艦隊と反乱軍の戦闘に巻き込まれ、反乱軍の新型攻撃艇の攻撃に晒され被弾していた。幸い被弾箇所はコンテナブロックだけだったため人的損耗も無く、船の航行にも支障は出なかった。

 攻撃艇に搭載されていた電磁加速砲の砲弾は超高速でコンテナブロックを貫通し、幾つかの穴を船に作っていった。その穴から積荷の食料品のほとんどが流出してしまったが、植民地偵察隊にはその他にも携行糧食が支給されていたため飢えに悩まされることは無かった。しかし問題はその携行糧食だった。

 凶悪な味を誇る宇宙軍携行糧食の中身は青色の一つのパックの中に透明な真空パックに収められた三種類の食品(非常に硬いクラッカー、味付けされたバサパサの四角形の成型肉、ゼラチン状のスープなどメニューによって中身が違う)、微かに薬の匂いがするオレンジ味あるいはレモン味の液体が入ったパウチ、ビタミン剤二錠、ストロー、そしてプラスチック製の先割れスプーンだ。この量でエネルギーは約一五〇〇キロカロリーになる。最悪の場合一日にこれ一つを食べればある程度空腹を抑えることが可能だった。

 メニューはある程度のバラエティに富んではいるものの今回の様に三週間以上連続で食べることは考慮されていない。要するに彼らは同じメニューを何度も食べる羽目になっていたのだ。

 宇宙軍艦隊勤務では艦内の厨房でしっかり調理された食事が全員に支給されている。そのため携行糧食を食べる機会というのはヒューリーにはあまり訪れたことが無かった。彼がそれを食べたことがあるのは新兵訓練の時と下士官教導隊での教育訓練時、そして戦闘態勢のまま食事の時間が来た時くらいである。

 一方でオルグレン二等軍曹は火星で勤務していた時に嫌と言うほど食べていた。それだけにやたらと塩辛く不味い携行糧食を工夫して美味しく食べる方法を知っていた。

 ヒューリーもその方法を彼女から教わり何とか三週間携行糧食だけの食事に耐えてきたが既に限界を迎え、パンや野菜の味が恋しくなっていた。当然他の乗員もその食事に嫌気がさしていた。

 それを除けば輸送船内での生活はヒューリーにとってそう悪いものでは無かった。ベッドは空母バイコヌールのものより広く、時間に縛られること無くゆっくりと休むことができる。

 シャワーの時間も一人当たり一週間に十五分と艦隊勤務時よりも十分間長く与えられていた。

 乗員はブランソン少佐の定めた一日最低一時間の運動を終わらせれば各人がそれぞれの時間を過ごしていた。船内の汚れが目立つのと植民地偵察の任務に就いている事実が無ければヒューリー達の様な下士官にとってここよりも快適な生活を送れる艦は宇宙軍には存在しなかった。

 談話室でヒューリーはうんざりしながら携行糧食を口に運び、その横でモンテ伍長は前の船員が置いていった古雑誌を読みふけっていた。

 ヒューリーは食事と言えるかも分からない食事をしながら両親の事を考えていた。ヒューリーが両親と連絡をとったのはプラトン基地にいた時が最後だった。

 大抵の者は料金が高くつく基地内の電話での通話は手短に終わらせるが、転属の際に臨時手当を支給されていたヒューリーは贅沢にゆっくりと両親と話す事ができた。

 火星植民地潜入偵察という非公式な作戦に参加する事を両親に言えるはずも無く彼は自分が艦隊勤務よりは危険が少ない司令部勤務になったとだけ伝えていた。その話を聞いた彼の両親はひどく安心していた。実際には彼の任務は下手をすれば艦隊勤務よりも危険なものだ。

 更にヒューリーは自分がもしこの作戦中に死んだらどうなるのかが気になっていた。非公式の作戦で殉職扱いにしてもらえるのか、両親にはどの様にして自分の死を伝えられるのか、自分の貯金はどうすれば良いのかなど考えればきりがなかった。


「大丈夫かヒューリー?あまりの不味さに心の病を患っちまったのか?」


 いつの間にか食事を進める手が止まっていたことをモンテ伍長に指摘されたヒューリーは残っていた糧食を食べ終えると、気分転換のためにモンテ伍長と同じ様に雑誌に手をつけた。



 輸送船のコックピットではモリソン船長、マウロ中尉、ラブロフ少尉の三人が話をしていた。

 コックピットは大気圏内を飛行する旅客機のそれとほぼ同じ程度の広さだ。そんな狭いコックピットがモリソン船長とマウロ中尉にとっては居心地が良いらしく、二人はほとんどの時間をそこで過ごしていた。船は自動操縦で航行しているためパイロットのマウロ中尉への負担は少なかった。

 そこへ暇を持て余したラブロフ少尉がやって来てコックピットは若干騒がしくなっていた。


「あんまり海賊なんかと仲良くしてるとオルグレン軍曹が怒りますよ中尉」


 そうマウロ中尉に話しかけたラブロフ少尉の顔はにやけていた。


「ハハハ、違い無いね。軍曹は海賊よりもおっかなそうだ!もしかしたら船長よりも殺した数は多いかもしれないな」


 二人の話にモリソン船長も乗ってきた。


「俺もあんな奴に殺されるのだけは勘弁だな」


 それを聞いたラブロフ少尉の笑い声がコックピットに響く中、マウロ中尉とモリソン船長は突然後ろを振り返った。それにつられて慌てて彼も振り返る。しかしそこには誰も居なかった。二人が笑い声をあげた。


「シャレにならんシャレは止めてくださいよ中尉。本当にオルグレン軍曹が来たかと思いました」


 ラブロフ少尉は苦笑いしながらそう言った。

 その後三人の会話は情報部に転属する前の仕事に関する話に変わった。


「そう言えば少尉は第五艦隊所属のはずなのに地球では一体何の仕事を?」


 マウロ中尉の質問にラブロフ少尉の顔は先程までとはうって変わって真剣な面持ちになった。


「軍の陸戦指揮訓練に参加していました」


「指揮訓練?何のために?」


「今年新たに編成される宇宙軍歩兵団のためです。自分もいずれそこに転属します。宇宙軍初の本格的な陸上戦力で、陸軍の様な編成を取るので自分が参加したのは陸軍小隊長としての勤務を習得する訓練でした」


「歩兵団か、話には聞いていたがもうそこまで編成準備が進んでいるのか」


 宇宙軍歩兵団の話はパイロットであるマウロ中尉にはあまりの縁のない話だった。歩兵団の戦力は半数が憲兵隊の将兵が召集され残りが他の部隊と新兵から集められる予定だった。


「やっぱり植民地での戦闘が想定されているのか?」


「当初の編成目的は中尉の言う通り憲兵隊では手に負えなかった植民地の治安維持を大規模な陸上戦力で行うためでしたが、最近は月の宇宙軍の基地の防衛が主目的に変わりつつあります」


「基地の防衛ってことは反乱軍が月に上陸するかもしれないってことなのか!?」


 ラブロフ少尉の説明にマウロ中尉は驚きを隠さなかった。


「可能性は充分にあります。反乱軍が国連軍を地球圏内に抑え込んでる現在でも国連は正式に植民地の独立を承認しようとしません。そうなっている以上反乱軍は国連が独立を承認せざるを得なくなる決定的な打撃を我々に与えるはずです」


「その狙いが月だって言うのか?」


「最悪の場合地球ということも・・・」


「・・・」


 黙り込んでしまった二人の士官の代わりにモリソン船長が喋り出した。


「もしもそこまで追い詰められたらあんたら宇宙軍は負けも同然だな、月で戦闘なんて起きれば相当な死人が出るだろうよ。こんな戦争早い内に止めちまった方が良いんじゃないか?」


 モリソン船長の意見にはマウロ中尉も概ね賛成ではあった


「そりゃあ俺だって早く終わってほしいさ。でもそれを決められるのは上の人達だから俺の力じゃどうすることもできないよ」


「軍人てのは辛いなあ。まああんたらが負けようが俺には関係無え、この仕事が終わったらこの船ともオサラバして足を洗って地球でゆっくりと生活させてもらうよ」


「船長、そんなことは軍曹の前では絶対に喋るなよ。火星に着く前に死ぬかもしれないからな」


 マウロ中尉はモリソン船長に対して警告を発する。彼の言うことが冗談にならないのがオルグレン二等軍曹の恐ろしい所だった


 植民地偵察隊を乗せた輸送船は火星へ向けて順調に航行を続けた。










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