反乱 十
アダモフ大尉に従って決起に加わっていたルベル中尉を捕らえたコレー大尉は彼に対して尋問を行うことにした。その間エレット伍長はコレー大尉がエレベータで気絶させた下士官をルベル中尉と同じ様にダクトテープで拘束し、射殺した死体の処理を行うように彼は指示した。
コレー大尉は火をつけたタバコを咥え、両腕を縛られ脚を床にテープで固定されたルベル中尉に拳銃を突きつけながら彼と話し始めた。
「中尉、歳はいくつだ?俺のバディと同じくらいに見えるが」
「二十六です」
「その歳で中尉ってことは兵学校出か」
そう言った後コレー大尉は彼の胸ポケットから身分証を取り出し、それに目をやった。
「フェルナンド・ルベル、国連宇宙軍中尉、兵学校三十九期、第五艦隊勤務士官、年齢二十六歳、血液型A。なんとも育ちが良さそうな名前だな。アダモフ大尉も兵学校出だったよな?」
「そ、そうです決起に参加している士官は全員が兵学校の卒業生です」
コレー大尉はルベル中尉の身分証を彼に投げつけた。
「勿体無いねえあんたらみたいなエリートが、約束されたキャリアとしての道を投げ出して反乱軍に寝返ろうなんてな。そんなに国連軍で働くのが嫌になったのか?」
「自分達はただ、この戦争を終わらせたいだけです。今の国連軍や移民事務局に戦争を終わらせるという意思があるとは自分は思えません。移民事務局と軍上層部は植民地の独立を頑なに認めず、軍に無用な戦いを続けさせている。国連は今すぐにでも植民地を独立国家として承認するべきで」
「ああもういいよ、大した信念をお持ちのようだ。さっきまでそこで死んでる野郎と一緒に鼻の下伸ばしていたくせにな。悪いが俺はその信念には反対だ!」
コレー大尉は彼の話を中断させ、別の質問をした。
「アダモフの野郎は何処にいる」
その質問に対してルベル中尉が鼻で笑いながら答える。
「知ってどうするつもりなんですか?この決起を止めるつもりなら無駄ですよ」
作業を終えたエレット伍長も二人の会話に耳を傾け始めた。彼女はコレー大尉が許可を出していないにも関わらず宇宙服を脱いでいた。実際、艦内の空気を抜くというコレー大尉の当初の無茶な計画は無くなったので着用する必要は無くなっていた。
「だったらあんたらのボスと直接話したい。アダモフ大尉と連絡は取れるだろう?」
コレー大尉がそう話している最中、ルベル中尉が所持していた携帯無線機から声が聞こえてきた。声の主はアダモフ大尉だった。
『ルベル中尉、アダモフ大尉だ、報告はどうした?速やかに返答せよ!』
コレー大尉は咥えていたタバコをルベル中尉の口に強引に咥えさせ、携帯無線機を手に取った。
「ようアダモフ大尉、丁度お前と話したかったんだ」
『貴様はだれだ。今すぐに氏階級を名乗れ!』
「コレー大尉だ糞餓鬼、お前は俺は死んだと思っていただろうが。そうはいかなかったようだぜ」
『まさか乗員点呼で行方不明だったパイロットか。・・・内火艇は無人で発進していたということか』
「その通りだ。さすが兵学校出の士官は頭の回転も速いねえ。もう少し速ければ良かったんだけどな」
コレー大尉は無線機から聞こえてくるアダモフ大尉の声から彼は冷静さを装ってはいるが動揺を隠し切れてはいないとにらんだ。
『しかしおかしいな。私が受けた報告では行方不明のパイロットは少尉だった筈だ』
「ふん、俺の階級はお前と同じ大尉だよ。どうやらお前の部下は人の階級ひとつまともに報告もできない奴みたいだな」
「コレー大尉!もう少し穏やかに話をしてください!」
エレット伍長が無線機が拾わない程度の声の大きさでコレー大尉にそう言った。彼のアダモフ大尉に対する挑発的な態度にエレット伍長は少しハラハラし始めていた。その態度が拘束されている艦長や乗員の身に危険を及ぼすと考えていたからだ。しかしコレー大尉は彼女の話を無視して話を続けた。
『ルベル中尉はどうした』
「大事な捕虜として俺の隣にいるよ。こいつと一緒にいた奴は殺してしまったけどな。ルベル中尉はタダでは返さないぜ」
『要求は何だ』
「今すぐにお前の部下全員に武装解除と投降を命じて乗員を解放し艦を艦隊に復帰させろ。応じないのなら今ここにいるお前の部下を殺す。三人目の犠牲者って訳だ」
『それは無理だコレー大尉、私は国連軍に戻るつもりは毛頭無い。殺したければ殺せ。ルベル中尉は我々の信念の為に喜んで犠牲となるだろう!』
コレー大尉がルベル中尉に視線を向けるとルベル中尉は目を逸らした。アダモフ大尉と彼の決起に対する信念は完全には一致してはいないようだった。
「そういう返事が来ると思ってたよ。だけとな、俺はお前みたいな糞餓鬼のワガママに付き合うつもりは無いぜ」
コレー大尉の態度にアダモフ大尉は痺れを切らした。
『なぜそこまで抵抗する!何をしたって無駄だぞコレー大尉!この艦は予定通り植民地解放軍と合流するんだ!今すぐに我々に投降しろ!そうすれば君の命は保証する!』
それに対するコレー大尉の返事はただ一つだった。
「お断りだ!」
しばらくの沈黙の後、落ち着きを取り戻したアダモフ大尉から最後の返事が帰ってきた。
『そうか、残念だコレー大尉。我々は実力で以って君を排除する。我々の決起の邪魔はさせない』
そしてアダモフ大尉との交信は終わった。コレー大尉は携帯無線機を投げ捨てるとこれ以降は足枷となるパイロットスーツを脱ぎ、拳銃を捨てていたエレット伍長に再度拳銃を持つように指示した。やはりエレット伍長は拳銃を持つことを拒否した。
「嫌だろうが銃を持て。準備しろ、奴らが来るぞ!」
「諦めましょう大尉。相手が何人いるかわから無いんですよ?どんなに抵抗しても殺されるだけです。私、もう疲れました・・・」
「なら勝手にしろ。俺はあんたを助けるつもりは無い。自分を守るので精一杯だからな。だがあんたは嫌でも撃つことになるぞ!」
コレー大尉は彼女を指差しながらそう言った。コレー大尉の決起隊に抵抗しようとする意思は少しも衰えてはいなかった。




