反乱 九
空調制御室で口論となったコレー大尉とエレット伍長の間にはしばらく沈黙が続いていた。コレー大尉は腕を組んで壁に寄りかかり、エレット伍長は膝を抱え込んで座っていた
「投降しましょうコレー大尉」
沈黙を破ったのはエレット伍長の一声だった。
「投降だって?ここまで来てか!」
コレー大尉はそう言いながら鋭い視線を彼女に浴びせた。その視線に臆しながらも彼女は話を続ける。
「こんなことをしていても、もう決起は止められないですよ。火星に行くのも確かに嫌ですけどこのまま抵抗して殺されるよりはマシです」
「投降すれば向こうは俺たちの命を保証するとあんたは思ってるんだろうが、それは間違いだぜ。俺たちは決起隊のメンバーを一人殺しちまってんだ。投降しても生かしてもらえるとは俺は思えないな」
「人を殺したのは"俺たち"じゃなくてコレー大尉です。私は何もしてないんで多分大丈夫です」
エレット伍長のその言葉はコレー大尉の呆れと嘲笑を誘った。
「ああ、なんとも素晴らしい考えだよ。投降したらあいつらにもそう言ってやれ。『私は罪なき人間です』ってな」
「じゃあどうしろって言うんですか!?」
再び二人の口論が激しくなりだした矢先、制御室の外から人の声が二人の耳に入った。
「倒れている隊員二名を発見!内一名は死亡している模様!付近の捜索を行います!」
「おい!大丈夫かしっかりしろ!」
コレー大尉は外から聞こえる声から新たに来た決起隊は二名であると予測した。一人は無線で連絡を行い、もう一人は負傷者の状態を確認している様子だった。
「まだ近くにいるはずだ!見つけ出すぞ!」
「はい!」
聞こえてくる声が大きくなり、決起隊制御室に近づいてくることに気付いたコレー大尉は制御室の電灯を切り、入り口から死角となる空調制御器の影に銃を構え身を潜めた。エレット伍長もコレー大尉の指示によって彼と少し離れた場所に隠れた。
(頼む!早くどっかに行ってくれ!)
コレー大尉の願いもむなしくエレット伍長と隠れた後、決起隊は暗くなった制御室に入ってきた。室内に入って来て決起隊はすぐに電灯のスイッチを入れ、再び制御室は明るくなった。コレー大尉は制御器の影から入り口の方を覗き込んだ。
コレー大尉の予測通り、外にいた増援の決起隊は二名で中尉と三等軍曹の二人組で例のごとく拳銃で武装していた。二人共二十代後半で歳は離れてはいなかった。
決起隊の二人はコレー大尉に気付いてはいないものの、室内の四方を確認しながらジリジリと彼の方に近づいてきて来た。
この状況でコレー大尉が仕掛けても反撃を受ける言葉は明らかであるため、彼は決起隊が自分のことを発見せずに制御室を出て行くことに賭けるしかなかった。彼の心拍数は上昇し、体からは冷や汗が染み出した。
決起隊と身をひそめるコレー大尉との距離が五メートルを切ろうとした時、エレット伍長が両手を挙げて決起隊の前に姿を見せた。
(あの馬鹿っ・・・!勝手なことを!)
コレー大尉がどれだけ焦っても彼自身はその様子を隠れながら見ることしかできない。
「殺さないでください!投降します!武器は持っていません!」
必死の形相で近づいてくる彼女を見た決起隊二人の顏は緊張感が少し薄れ始めていた。
「へぇぇ、こいつは驚きだな。こんな美人がこの艦にいたとはな」
「この艦どころか軍にもう一人いるかいないかのレベルだと思いますよ中尉!」
「もしかしてこのウェーブ、アダモフ大尉が言ってた行方不明者か?」
「そうだと思うんですが内火艇で脱出した所を撃ち落とされたのでは?」
「乗ってたのはなパイロットだけだったんだろうよ。伍長、悪いが身柄を拘束させてもらうぜ」
男所帯の軍隊で働く人間の性か、決起隊は警戒心を解いていた。エレット伍長が投降し孤立してしまったかに思えたコレー大尉だったが、彼はこの状況が絶好のチャンスであると確信した。
決起隊の視線が完全に彼女に移り、構えていた拳銃が下を向いた瞬間彼は行動に出た。制御器の影から素早く身を乗り出し、決起隊の三等軍曹に向けて拳銃を発砲、銃口からは二発の弾丸か飛び出し一発が頭部に命中、一発が左肩を貫通して三等軍曹は絶命した。エレット伍長が叫び声のような悲鳴を上げる中、中尉が銃を構えるより早くコレー大尉は銃口を彼へ向けた。
「コレー大尉!私まで殺すつもりだったんですか!?」
「クソッ!パイロットの方も生きてたのかよ!」
「銃を捨てろ変態エリート。そしたら両手を頭の後ろにつけるんだ。さもなければ隣の死体の仲間入りだぜ」
中尉は指示に従い、銃を手放して両手を頭の後ろつけた。その後コレー大尉は制御室にあったダクトテープで中尉を縛り上げた。彼は中尉の戦闘服の左胸に縫い付けられたネームタグに目をやった。宇宙軍は戦闘服として青色のジャンプスーツと八角帽を採用しており、階級兵科に関係なく全員がそれを着用している。
「ルべル中尉か、こんな奴にうつつを抜かしたのが失敗だったな。あんたにとっちゃあ不幸かもしれないが俺からしてみれば幸運だ。あんたにはこれから人質になってもらうぜ」




