反乱 一
「コレー大尉!輸送船は無事に地球圏外に離脱したそうです」
「そうか、とりあえず今日の仕事は終わりかな」
作戦終了の報せは母艦へ帰投中の攻撃隊にも伝わっていた。任務を完遂することはできた攻撃隊だったが今回の戦闘で第五艦隊は航空戦力の三十パーセントを喪失していた。それでも久しぶりの戦勝らしい戦勝にパイロット達は少なからず喜びを感じていた。
「第二艦隊の攻撃隊はどうだ?」
「現在も反乱軍を追跡中です」
「ご苦労様だね。まあ手負いの艦ばかりだろうから俺たちよりは楽な仕事だと思うけどね」
第五艦隊との戦闘によって傷付いた反乱軍艦隊の追撃自体はコレー大尉の言うようにそれほど難しいものでは無かったが、追跡する第二艦隊の攻撃隊はすでに地球圏から完全に離れていた。地球圏外は反乱軍の勢力圏であるため、新たな敵戦力との遭遇する危険性も孕んでいた。攻撃隊は必死に艦隊を追いかけてはいたが、反乱軍が追跡限界距離に達した場合攻撃隊は追跡を断念しなければならなかった。
そんな第二艦隊の攻撃隊を尻目に第五艦隊の攻撃隊は艦隊の機動部隊の空母へと帰投した。戦いを終えた戦闘艇や攻撃艇が空母へ次々と着艦していく。損傷の大きい機体を優先して着艦させた為、被害の少ないピジョン小隊の着艦は最後の方になった。
「モハーヴェイ、こちらピジョン3、着艦の許可を要請する」
『ピジョン3、こちらモハーヴェイ、ピジョン3の着艦を許可する。第二甲板へ着艦誘導する』
コレー大尉の攻撃艇が航空管制官から着艦の許可を得て着艦コースに入った。誘導に従って彼はゆっくりと機体を甲板へ近づけていく。向かう先はモハーヴェイの着艦用甲板だ。モハーヴェイには飛行甲板が四つある。艦前部に発艦用甲板が上下対称に二つ同じ様に着艦用甲板が艦後部に二つあり、発艦と着艦を同時にしかもスムーズに行うことが可能だった。
『ピジョン3、現在本艦との相対速度およそ一〇〇ノットだ。速度下げ』
「了解」
『一〇〇・・・九十・・・八十』
速度を下げながら攻撃艇は甲板へ接近する。着艦の直前には艦と攻撃艇の相対速度を限りなくゼロにしなければならない。甲板上には機体を固定する四本のアームと甲板作業員が待機していた。
『十・・・現在五ノットだ。機首下げ』
甲板の約十メートル上まで接近したコレー大尉の攻撃艇が機首を下げてゆっくりと甲板へ近づく。甲板からの高度が一メートルを切ったところで四本のアームが攻撃艇を掴み機体を固定した。着艦の際に軽い衝撃がコレー大尉とギーソン少尉に伝わった。
「こちらピジョン3、着艦完了した。機体に異状は無し」
『こちらモハーヴェイ了解。おかえりピジョン3』
コレー大尉が通信を終えると甲板作業員が異常の有無を再度確認し、アームを作動させた。アームは甲板上のレールに沿って移動し、攻撃艇を艦内へ収容した。
「ふぅ、今日も生き延びたなギーソン」
「駆逐艦一隻協同撃破と戦闘艇撃墜1ですよ!大戦果とまではいきませんがさすがコレー大尉ですね」
「俺は運の良い人間だからな」
「そんなこと無いと思います。コレー大尉の実力ですよ」
「バディにも恵まれてるしな」
「そんな、恐縮です!」
「そんなバディに頼みがある。今日の飛行記録の記入やっといてくれ」
「う、分かりました」
面倒な飛行記録の記入を代わりにやることにギーソン少尉はあまり気が進まなかったが、コレー大尉に褒められた手前断りずらかった。機体からの降りたコレー大尉は与圧された格納区画へ入ってもパイロットスーツを脱がずにある場所へ向かっていた。
空母モハーヴェイは第五艦隊再編の際に、艦長が代わっていた。新任の艦長は女性であったがコレー大尉にとっては最悪の艦長だった。なぜならば彼女は大の嫌煙家だったからだ。新任艦長は着任後すぐにモハーヴェイ全区画の禁煙を命じた。元々モハーヴェイにいる喫煙者の数はそれほど多くは無かったので、大きな反対意見も出ずに禁煙令は即実行された。コレー大尉も相手が艦長では声を上げることもできず、これに従うしかなかった。エレット伍長にも『タバコをやめる良い機会だと思います』と言われた彼は艦内での喫煙をやめたかにみえたが実はそうでは無かった。彼は人目の少ない場所を艦内で見つけ、その場所でタバコを吸っていたのだ。
今彼は、隠し持ったタバコと伴に彼の新たな喫煙所とも呼べる艦内の隠れ場所へ向かっていた。その場所とはモハーヴェイの内火艇収容区画だった。内火艇が使われる機会はモハーヴェイではあまり無く、収容区画に人が入ってくることは殆ど無かった。それに加えてコレー大尉は内火艇の中に入ってタバコを吸っていたので見つかる可能性は皆無に等しかった。勿論発見されれば厳重処罰が待っている。
コレー大尉は人気が無いことを確認した後、内火艇の座席に座りタバコを取り出した。ライターで着火し最初の煙を思い切り肺に流し込む。吐き出した煙は開け放しの搭乗口に向かって流れていった。コレー大尉の至福の時間である。そんな彼の時間を邪魔する大きな音が艦内に響いた。響いた音は銃声で一回きりではなくその音は何度も聞こえた。
「・・・っ!」
銃声を聞いたコレー大尉はタバコを咥えたまま拳銃を取り出した。




