接触 六
攻撃隊が反乱軍に対する雷撃を終えた頃、第五艦隊は反乱軍の砲撃を受け始めていた。第五艦隊は反乱軍が射程に入るまでこの砲撃に耐え続けなければならない。
「航海長!敵の位置はどうか!」
『距離四八〇Mm高度差マイナス五十八です!』
マクシム大佐が戦闘指揮所の航海長から反乱軍艦隊の位置を確認した。
「艦隊司令からの新しい指示はあったか?」
『針路そのまま、とだけです』
「了解した!」
マクシム大佐は一つ気掛かりなことがあった。攻撃隊の報告では確認できた反乱軍の航空戦力は戦闘艇だけで攻撃艇は一機もいなかったのだ。反乱軍の別働攻撃隊が第五艦隊に向かっている可能性を彼は考えた。当然ながらベルガー艦隊司令もそれを憂慮しており、反乱軍の砲撃の中でも警戒監視を怠ることがないように指示した。駆逐艦は戦艦と巡洋艦そして輸送船の防空にあたる為に、大型艦を囲むように航行していた。反乱軍の砲撃で飛んでくる砲弾はまだ散り散りであり命中率は低かったが半年前の戦いではバイコヌールがさらに遠距離からの砲撃で被弾しているので油断は許されなかった。第五艦隊の直掩戦闘艇も艦隊の周りで旋回を繰り返しながら警戒を行っている。
「距離は!」
『四六〇!』
有効射程まで残りわずかとなったところで、アリアンのレーダーが新たな機影を捉えた。
『艦長!反乱軍です!直上八十!』
「八十だと!?近過ぎる!今まで捕捉できなかったのか?」
別働の反乱軍攻撃隊が攻撃を仕掛けてくるまではマクシム大佐も予想していた。しかし反乱軍の攻撃艇が現れたのは突然すぎた。
「ステルスか・・!奴らの技術はまた進化しているのか」
艦隊の直掩戦闘艇が迎撃行動に移った。駆逐艦も対空射撃を開始する。反乱軍の艦艇に対して砲撃を行う大型艦は最低限の対空射撃を駆逐艦に任せて有効射程に反乱軍艦隊が入れば即時砲撃を開始できるように備えていた。
第五艦隊の航空隊は必死の迎撃を行い攻撃艇を次々撃墜していたが、何機かの攻撃艇がそれを突破して第五艦隊に襲いかかった。
その時にマクシム大佐は驚愕すべき光景を目撃した。反乱軍の攻撃艇は魚雷を積んでいなかった。攻撃艇から発射されていたのは超高速の青白く光る砲弾だった。砲弾はアリアンにも命中した。砲弾のサイズはそれほど大きいものでは無かったが、超高速によって生み出されるエネルギーは強力で艦体の奥深くに食い込んだ。
「電磁加速砲だ・・・」
「信じられない!」
目の前の光景にマクシム大佐も副長も驚きを隠せずにはいられなかった。
「反乱軍は攻撃艇にまで電磁加速砲を搭載したのか!」
第五艦隊の大型艦は電磁加速砲を搭載した反乱軍の新型攻撃艇の集中的な攻撃を受けた。装甲の貧弱な巡洋艦の被害が特に大きく、撃沈とまではいかないが砲塔に多大な損傷を負って射撃の行えなくなった艦も出た。
この時点での第五艦隊の長距離砲撃が行える大型艦は戦艦三隻、巡洋艦六隻の計九隻。対する反乱軍艦隊は戦艦二隻、巡洋艦四隻の計六隻で数の上では第五艦隊が優勢だった。しかし単艦での戦闘能力は反乱軍の艦が上回っている。事実、第五艦隊に限らず国連軍は数々の戦闘の際、数では常に勝っていたが戦闘終了後の被害の規模は殆どが国連軍側が上だった。技術面で反乱軍に劣る国連軍は数と一握りの優秀な将官の指揮で今まで戦ってきていた。
ベルガー艦隊司令もそのようにして戦ってきた一人だった。第五艦隊は反乱軍攻撃艇の攻撃を受けながらも進み続け、両軍の艦隊間の距離が四五〇Mmに達した時点でベルガー艦隊司令の号令により反乱軍艦隊に対する大型艦による砲撃を開始した。ベルガー艦隊司令は反乱軍艦隊との距離を常に三〇〇Mm以上にとどめるように指示した。それ以下の距離になると反乱軍の砲撃の精度が急激に上がる為である。砲撃で発射される砲弾の数は当然ながら艦数の多い第五艦隊が上なのでベルガー艦隊司令は一定の距離を置きながら、精度ではなく手数で勝負に出たのである。
両軍の戦艦、巡洋艦から絶え間なく砲弾が発射される。第五艦隊は反乱軍に接近され過ぎないように艦隊運動に注意しながら砲撃を行っていた。
「副長!輸送船はどうか!」
「大丈夫です!幾らか攻撃艇の攻撃を受けた模様ですが航行は可能と思われます!」
マクシム大佐の戦艦アリアンは護衛対象の輸送船が被弾しないように、輸送船の盾になる位置にいた。反乱軍の攻撃艇も駆逐艦の必死の対空砲火によって徐々に第五艦隊から退けられていた。その際に攻撃艇の攻撃によって駆逐艦二隻が大破していた。
艦隊間の距離が四〇〇Mmを切ったあたりで命中弾が出はじめた。第五艦隊はまずボスホートが艦尾に一発被弾した。幸いにも被弾箇所が装甲区間だった為被害は少なかった。
その後巡洋艦二隻が被弾。一隻は艦尾の機関区画に被弾し、館内で火災が発生し機関の放射線が漏れ出した。その艦はダメージコントロールを続けながらも砲撃を継続した。もう一隻は右舷中央に一発、艦首に一発被弾した。上部甲板の砲塔の弾薬運搬システムに支障が発生した為、艦体下部の砲塔のみで砲撃を再開した。反乱軍の砲撃は駆逐艦に対しても行われていたので、砲撃はやや分散気味だった。しかし命中精度は高くこの距離で駆逐艦に砲弾を命中させ一撃で轟沈させた。
一方第五艦隊の砲撃は大型艦を集中的に狙う砲撃だったので、命中精度は低くても命中弾の数は多かった。
「艦長!敵艦隊の陣形が崩れ始めています!」
「効いているようだな・・!」
マクシム大佐は敵の姿をレーダーでしか見る事が出来なかったがレーダー上の敵艦隊の動きを見て、第五艦隊は大きな被害を出しながらも反乱軍に損害を与えていることをしっかりと確認できた。




