接触 二
出発の前日、ヒューリー達は酒保で出発前の最後の宴会を開いた。ヒューリーは入隊してからというものうんざりするほど上官や同期に連れてこられた酒保のビールの味に飽きていた。
「まったく、どうして宇宙軍の酒保で出てくるビールはどこも同じ銘柄なんだよ!」
モンテ伍長も飽きていた。
テーブルの上に並ぶのは、ほぼ全てが保存食で作られた塩分の多い料理ばかりで酒の肴には丁度良かった。
戦時中でなければ月のプラントで生産された新鮮な食材が並んでいたが、それらは全て艦隊の糧食の方に優先的に回されていた。
ラブロフ少尉は呑むと騒がしくなる人間だったようでヒューリー達に仕事の愚痴と説教を繰り返した。
「オレがお前らぐらいの歳の頃はな!お前らとは比べ物にならないくらい苦労したんだぞ!
植民地の偵察がなんだ、ちょっとした旅行だ旅行」
ヒューリー達は彼の話に疲れ切っていた。たまらずマイヤー伍長とモンテ伍長がひっそり文句を喋り出す。
「あんなこと言ってますよマイヤー伍長」
「何がお前らぐらいの歳だよ、あいつは俺と同い年だぞ」
「ええ?じゃああの人二十七歳?」
「そうだよ。お前らよりちょっと歳上で階級が上だからって調子こいてんのさ」
話し声が聞こえたのかラブロフ少尉が二人に向かって怒鳴った。
「お前ら話聞いてんのか!」
「き、聞いてます!」
ラブロフ少尉とヒューリー達が騒いでいる一方で、マウロ中尉とオルグレン二等軍曹は静かに呑んでいた。
「オルグレン軍曹、あんたは飲まないの?」
オルグレン二等軍曹が握っているグラスの中身はアイスティーだった。
「ええ、私は酒が苦手なので」
「へぇー意外な弱点だな。向かうところ敵なしって感じの見た目なんだけどな」
「買い被り過ぎです」
「そうかなあ。試しに少し飲んでみない?」
「明日からの行動に影響が出るので止めときます」
「そ、それもそうだな」
マウロ中尉はオルグレン二等軍曹との会話がうまく続かず苦戦していた。彼女は訓練以外での口数が極端に少ないからこういう場でなら話せるかもしれないというマウロ中尉の考えは浅はかだった。
更に彼が驚いたのは自分が勧めた酒をオルグレン二等軍曹がきっぱり断ったことだった。彼が最初に配属になった部隊では上司の酒は絶対に断ってはならなかった。断ろうものなら上司の鉄拳が待っていたからである。
さすがにマウロ中尉はそこまでしなかったが、軽くショックを受けた。マウロ中尉は三十四歳でオルグレン二等軍曹は二十八歳。六歳しか離れていなかったが世代の違いというものを彼は感じた。
翌日、いよいよヒューリー達は出発の時を迎えた。彼らの部屋にルーマン中尉とブランソン少佐が訪れ、ヒューリー達に装備を支給した。
「拳銃が一丁、予備弾倉が二つ、無線機が一つ、そしてこれがお前達が着ていく服だ」
ルーマン中尉が出したのは海賊船の乗員が来ていた服だった。
「アシストスーツの上に着用してくれ。これを着ればお前らは立派な海賊だな」
全員が服を受け取った。ヒューリーが受け取ったのはオレンジの生地の作業服でかなり年季が入っており、所々破けたり黒い油の跡があった。ヒューリーはそれを見て不快な顔を露わにした。
「そんな顔するなヒューリー、ちゃんとクリーニングには出したから。汚れは完全に落とせなかったけど、綺麗すぎても向こうで疑われるから汚いくらいが丁度いいんだ」
他の者が受け取った服も色は違えど同じような物だった。
アシストスーツを身につけ、海賊の服を着てベルトを締め、拳銃は服の中のホルスターに入れた。準備を終えると、装備の点検を全員で行った。拳銃、小型カメラ、無線機、携行食、スーツ制御装置。ヒューリーはそれらが全てあることを確認した。
「よし、全員装備に異常は無いな。全員十分後にエレベーターの位置に集合、じ後輸送船のあるドッグへ前進を開始する」
ブランソン少佐は命令下達を終えると、部屋を出ていった。
ルーマン中尉は最後までヒューリー達の装備に異常が無いか確認を繰り返していた。
「無事に帰って来てくれよ。これで見納めなんて嫌だからな」
装備を点検しながらルーマン中尉は言った。
ヒューリーもここまでくると、諦めに近い覚悟を決めていた。何が何でも絶対に帰ってくる、彼は自分の心にそう刻んだ。




