転属 六
ブランソン少佐が作戦室を出た後、作戦室に入ってきたのは大きなアタッシュケースを二つ持った技術士官だった。
「技術士官のアヒム・ルーマン中尉だ。よろしく!君達に対して装備品支給と技術指導を実施する。前に集まってくれ」
ルーマン中尉はアタッシュケースを机に置き、ロックを外して開けた。
「まずはこれだ。撮影用の小型カメラ」
ルーマン中尉が手に取ったカメラはジッポライター程の大きさで中央にレンズが付いていた。
「この小ささでもしっかり綺麗に撮れる。耐火、耐水、耐衝撃のタフな奴で信頼できるスイス製だ。バッテリーの持続時間は約十二時間で撮影可能な写真の枚数は千枚ってところかな」
ルーマン中尉は全員にカメラを渡した。ヒューリーは試しにシャッターのスイッチを何度か押してみた。
「無音カメラだから気づいていないかもしれないが今ので二、三枚は写真を撮ったな。大事に使ってくれよ」
次にルーマン中尉が取り出したのはダイビングスーツのような薄い素材の服だった。
「こいつは優れものだぞ。アシストスーツだ。このスーツは人工筋繊維で作られていて手首に取り付ける小型のコンピューターで身体の筋肉の動きを感知し、それに合わせてスーツの繊維が収縮して身体の動きを補助してくれる」
「これさえあれば超人になれるってことか!」
「残念ながらそうじゃないんだマイヤー伍長、あくまで補助だ。火星までの四週間の航海で弱るであろう君達の筋力を助けるだけだよ。だから長期間の艦隊勤務で筋力が極端に弱ってる兵士にはほとんど効果が無い。君達が選ばれたのはそのためだっただろ」
「それじゃ火星でもいつも通りってことか」
「がっかりするな、そのうち強力な物に改良されるかもしれないぞ。まあこれは部屋に戻ったら試してみてくれ」
最後にルーマン中尉は拳銃を出した。ヒューリー達はそれを見て驚嘆の声をあげた。国連宇宙軍では拳銃が支給されるのは士官のみだったからである。
「最後にこいつだ。ディマニM二一〇一拳銃、軍の制式採用拳銃だ。反動利用式ダブルアクション、使用弾薬は十ミリケースレス拳銃徹甲弾でフルオート、セミオートの切り替えが可能。もっともフルオートで打てば十二発入弾倉は一瞬で空になるけどね」
ルーマン中尉が持ってきた拳銃は下士官用に用意した十三丁でラブロフ少尉とマウロ中尉は既に拳銃を携行していた。
「君達にはこれから一週間でこれらの使い方を教えるよ。詰め込み教育になるけどしっかり身体で覚えてくれ」
ルーマン中尉が話を終えるとオルグレン二等軍曹は突然拳銃を手に取り、慣れた手つきで拳銃をいじりだした。
「そうかオルグレン軍曹は憲兵だったな!だったら拳銃の取り扱いに関しては君に教えることはないな。下手したら俺よりも扱いには長けているかもしれないな」
「恐縮です」
「新任伍長の射撃訓練の時には手伝ってもらおう」
「喜んで!」
本来拳銃は士官しか携行が許されていないが憲兵隊だけは例外だ。憲兵は規律を保つために拳銃をあらゆる時と場所で使用する。捕虜の脱走阻止、暴動の鎮圧、そして時にはその銃口は友軍兵士にも向けられた。
オルグレン二等軍曹も憲兵として植民地で騒乱が起きた時には何人もの人間の命を奪った。それが彼女に与えられた仕事だったからだ。
「拳銃以外は今日渡すから無くさないようにな、スーツのサイズが合わなかったら交換するからすぐに言ってくれ。後は解散して良いぞ、明日からの訓練に備えてゆっくり休むようにとブランソン少佐からのお達しだ。じゃあまた明日」
ルーマン中尉はアタッシュケースに拳銃をしまい、ケースを持って作戦室を退出した。ヒューリー達も部屋に戻り、休むことにした。
部屋に戻ったヒューリーは早速アシストスーツを着てみた。スーツはかなりきつく袖を通すのに時間がかかった。数分かけてヒューリーはスーツを着たが、袖口からは腕が三分の一以上はみ出し、首はきつく締め付けられた。
ヒューリーはすぐにスーツの交換をルーマン中尉に頼んだ。




