転属 五
第五艦隊から選出された隊員が全員集合し、ブランソン少佐による作戦のブリーフィングが始まった。
「これより火星植民地での作戦行動について説明する」
ブランソン少佐は作戦室にあるモニターのスイッチを入れた。モニターに大量の作戦情報が映し出された。
「これを見ただけでは貴様達には理解できないだろうから私が教えよう。特に伍長諸君にはな」
ヒューリーはブランソン少佐の言い方が癪に障ったが、彼の言う通りモニターに映し出された情報を全て理解する自信はなかった。ついこの間まで甲板作業員だったヒューリーにはその情報は複雑過ぎた。
「二月一〇日貴様達はプラトン基地を出港する。搭乗するのはこの船だ」
モニターに映し出されたのは四カ月前に第五艦隊によって拿捕されたモリソンの海賊船だった。
「海賊船ですか?それもこんな旧型の」
オルグレン二等軍曹が怪訝な顔をした。
「これだけ古い船ならば反乱軍にも疑われないからな。マウロ中尉、確か君はこの型の輸送船は操縦したことがあったな」
「はい、軍に入る前は輸送会社に勤めていたので二年間程操縦していました」
「ならば問題無いな。地球圏を離脱するまでは念の為、第五艦隊が貴様達の乗る船を護衛する。地球圏を離脱した後は単独で火星へ移動することになる」
モニターには地球から火星への航路が映し出された。
「火星へ到着したならば、軌道基地管制塔へ密輸船であると伝えるんだ。そうすれば基地へ入港できる」
「どうやって管制塔とコンタクトするんです」
「安心しろマウロ中尉、反乱軍の通信周波数は掌握している。軌道基地へ入ったならばエレベーターで地上へ降下し植民地へ潜入、じ後情報収集を開始。植民地の現状を調査せよ」
「情報収集というのは具体的には何をすれば?」
ラブロフ少尉が質問した。
「写真撮影と資料回収だ。写真撮影は鉱床の採掘現場を重点的に行って欲しい。撮影用のカメラは後ほど支給する。資料回収に関しては植民地の現状が分かる物を回収して欲しい。植民地の雑誌、本、プロパガンダのポスター、なんでも良い。それらをここへ無事に持ち帰ってきてくれ。収集活動が終了したならば軌道基地へ戻り火星を離脱し、プラトン基地へ帰還。作戦は終了だ」
ブランソン少佐がモニターのスイッチを切った。
「以上で説明は終了するが他に何か質問はあるか?」
マイヤー伍長が挙手した。
「マイヤー伍長、質問を許可する」
「我々の正体が反乱軍に発覚する恐れがあるのではないでしょうか」
「問題ない。貴様達には海賊船の乗員が使用していた服を着てもらうからな。それに軌道基地や植民地の警備は我が軍の警備に比べて甘い。それだけ反乱軍が火星周辺宙域の監視に自信があるということだろう。だから余程目立つことさえしなければ目はつけられない」
次にオルグレン二等軍曹が質問した。
「火星への移動に要する時間はどれくらいなのですか」
「現在の位置から考えるとおよそ四週間程だ。少々長いが旧型の船ではそのくらいが限界なのだ。他に何かあるか」
「いいえ、ありがとございました」
「他に質問が無いのであればこれでブリーフィングは終了する。出発までに何か気になることがあればいつでも私に聞いてくれ。じ後は本作戦で使用する装備を貴様達に支給する。支給する係が来るのでその場で待機せよ」
そう言うとブランソン少佐は作戦室を出て行った。彼が出て行った後真っ先に口を開いたのはモンテ伍長だった。
「なんてこった人生初の火星がこんな事で達成されようとは」
モンテ伍長だけでなくヒューリーも火星へ行くのは初めてだった。
戦争が起きる前までは火星は開拓民が移民局の監視下で開拓を行っていた。火星の開拓民は宇宙移民局によって半ば強制的に移民させられた者がほとんどで、世界中から適性のある人間を開拓民に選んだと当時移民局は発表していた。しかし現実はそうではなく二十世紀頃から問題となっていた人類の人口増加を解決するため、適性の有無に関わらずランダムに選ばれた人々が火星へ送られた。
火星での開拓は非常に過酷なものだった。現在のような安定した生活を送れるような植民地になるまでに半世紀でおよそ十億人の開拓民が犠牲となった。結果、移民局は人口増加に歯止めをかけることに成功した。
多くの犠牲者が出た事実を移民局は秘匿し、地球に住む人々に伝わる植民地の情報は移民局が捏造したものばかりだった。植民地は移民局の情報操作と国連軍の監視で完全に隔離されていたのだ。そのため開拓民に選ば
れていない人間が火星へ行くのは戦前でも不可能だった。
ヒューリーは火星で撮った写真を何枚かこっそり地球で流せば金になるかもしれないと考えた。しかし発覚すれば軍法会議にかけられ処罰を喰らうのは確実だった。




