転属 四
ヒューリー達の荷物の整理が落ち着いてきた頃、ブランソン少佐が再び部屋を訪れた。ブランソン少佐に導かれ、ヒューリー達は情報部長室へ向かった。
情報部長室に入るとヒューリー達を待っていたのはチェルノフ中将だった。ヒューリーは相手が将官だとわかった瞬間、思考が停止した。将官クラスの人間とここまで近づいたことはなかったからだ。さらにチェルノフ中将の身長は一九〇センチもあり威圧感は抜群だった。ヒューリーは教導隊長と話した時以上に緊張していた。
「ヴィルム・マイヤー伍長以下一二名本日付で月方面艦隊司令部勤務を命ぜられました!」
「着隊ご苦労、情報部長のチェルノフ中将だ。休め」
チェルノフ中将がヒューリー達からブランソン少佐に視線を移すとブランソン少佐が彼に資料を渡した。
「着隊して早速で申し訳ないが命令を下達する。君達十二名は約一周間後、火星植民地へ前進。植民地での情報収集を実施せよ。」
「はい!・・え」
ヒューリー達は軍隊で身に染みついていた習慣のせいで無意識に返事をしてしまったが、その直後その命令がどんなものか理解した。
「君達はここに来る前司令部付の勤務と言われていたであろうが実際はそうではない。私が独自に編成した植民地偵察隊に入ってもらう。」
「あの・・」
「何故君達が選ばれたか理由を知りたいだろう」
マイヤー伍長の声を遮ってチェルノフ中将が話を続ける。
「理由は二つある。一つ目は君達がついこの間まで地球にいたということだ。火星の重力下でまともに行動するには、少しでも重力に慣れている人間が良いからな。二つ目は君達が第五艦隊所属という点だ。第五艦隊の司令官はベルガー中将、私の兵学校同期だ。だからこそこの様なおかしな人事移動も話を通し易かったのだ。」
外れたかに思えたヒューリーの悪い予感は当たってしまった。 ヒューリー達は艦隊勤務以上に危険な任務を任されることになったのだ。
「任務に関する詳しい話はブランソン少佐がしてくれる。すまないが時間がないんでな。ブランソン少佐すぐにかかってくれ。」
その後ヒューリー達は作戦室に連れて行かれた。作戦室にヒューリー達が入った時には既に三人の兵士がそこにいた。ヒューリーはその三人の階級章を見た。一人は少尉でもう一人は中尉そして二等軍曹が一人で、三人の部隊章はヒューリー達と同じ第五艦隊だった。
「どうやらあの三人も不幸にもここに転属になったみたいだな」
「あの人達も火星行きなんですかね」
マイヤー伍長とモンテ伍長が話しながら席に着く。他の者も近くの席に座った。全員が座ったのを確認するとブランソン少佐は会議室にいた三人の兵士を自分の近くへ呼び寄せた。
「貴様達新任伍長に植民地偵察隊の人員三名を紹介する。まず最初に隊の指揮を執るヴァレリー・ラブロフ少尉だ、彼は第五艦隊所属だが、貴様達と同じく最近まで地球で勤務していた。次にフランコ・マウロ中尉、パイロットを務める。第五艦隊に転属する前は、火星植民地に常駐していた第二艦隊で勤務していた。最後にエルヴィラ・オルグレン二等軍曹、彼女は元憲兵第二艦隊派遣隊で憲兵として勤務していた。火星植民地の現地での経験は一番長い。これはかなり心強いと思う。以上三名だ」
ヒューリーの視線はオルグレン軍曹に向いてた。ベリーショートの茶髪に鋭い眼光、まくられた軍服の袖から出ている太い腕、隣に並ぶ士官二人より高い身長。おおよそ女性に見えないその姿はヒューリーには男にしか見えなかった。
「あれで男だったら、相当モテそうだよな」
モンテ伍長がひっそりヒューリーに話しかけた。するとオルグレン軍曹がそれに気づいたのだろうか、彼女のきつい視線がヒューリーとモンテ伍長に向けられた。
「ひっ!」
二人は小さな悲鳴をあげて体をすくめた。
「ではこれから本作戦についての詳細な説明を行う。全員着席」
オルグレン軍曹はヒューリーの隣に座った。ヒューリーの頭の中には司令部というのは恐ろしい人間ばかりが集まるところだという考えが出来上がっていた。




