転属 三
キリバス軌道基地を出発して四時間後、ヒューリー達はプラトン基地に到着した。シャトルを降りると司令部の士官が待ち受けていた。
「待っていたぞ。私は情報部のブランソン少佐だ。貴様達の着隊処理を担当する」
「すげえな少佐がお出迎えかよ」
モンテ伍長が呟いた。
「これから勤務する場所へ案内する。荷物を持ってついて来い」
ブランソン少佐に続いてヒューリー達はトラムに乗り込み、エレベーター区画へ移動する。トラムにはヒューリー達以外乗っていなかった。ヒューリー達はブランソン少佐から少し距離を置いて座席に座った。
「若いなあ、歳は三十前半くらいかな。」
「そのくらいの歳で少佐とは、やっぱ兵学校出は雰囲気が違いますね」
マイヤー伍長と他の下士官達が小さな声で話し始めた。
「見たかよ少佐の顔、金髪に青い眼!それにあの若さで少佐だなんて絵に描いたようなエリートだな。自分が情けなくなってくるぜ」
口数が一番多いのはモンテ伍長だった。
「俺があの歳になっても階級は二等軍曹がいいとこだな。見ろよ、パソコン弄ってるぜ。あれも仕事なんだろうな。やっぱエリートは違うなあ、俺もあんな仕事してみてえ」
「うるさいぞモンテ!少し黙ってろ!」
「マイヤー伍長も話してたじゃないですか」
話が騒がしくなってきた頃、ブランソン少佐がヒューリー達に近づいできた。
「到着だぞ。貴様らさっさと降りろ」
ブランソン少佐はそう言ってトラムを降りると、ヒューリー達も慌てて荷物を持って降りた。
「ぶん殴られるかと思った」
「そんなわけないだろ教導隊の班長じゃないんだから」
「マイヤー伍長はよく殴られてましたね」
「それはお前も同じだ」
「エレベーターが来たぞ。貴様らさっさと乗れ」
全員がエレベーターに乗ると、ブランソン少佐はスイッチを押した。ドアが閉まり、エレベーターが基地の地下へ向かって進みだす。エレベーターの階数の表示はみるみる上がっていった。エレベーターの位置は既に地下五十メートルを超えている。ヒューリーは今更になってとんでもない所に連れてこられたかもしれないと思い始めていた。
やがてエレベーターが停止しドアが開いた。ヒューリーはエレベーターを出ると、通路の天井からぶら下がっている案内表示を見た。
月方面艦隊情報部、艦隊が担当する宙域に関するあらゆる情報をここが取り扱っている。国連軍の中でも一部の将兵を除き開示されている情報は極めて少ない。ヒューリーのような一兵卒ではその名前しか知らない者が殆どだった。
ブランソン少佐に続いてヒューリー達は通路を進んでいく。転属してきたとはいえ余計なものはヒューリー達に見せない為だろうか、他の区画に繋がるドア全てにロックがかかっていた。必要最小限の電力で点灯している電灯は薄暗く、足元がよく見えないにも関わらずブランソン少佐はどんどん奥へ進んで行く。長い通路を一〇〇メートルほど歩き続けるとブランソン少佐は立ち止まり、カードキーを取り出して近くのドアのロックを解除した。ドアの先はまた通路になっていてロックが解除された部屋が三つあった。
「ここが貴様達の部屋だ。部屋割りは入口に書いてある。一時間後、着隊報告と情報部長からの命令下達が実施される。その時はまた私が案内するからそれまで部屋で荷物の整理を実施せよ」
「はい!」
全員が返事をすると、ブランソン少佐はその場を離れた。
ヒューリー達は部屋割りに従い、それぞれの部屋へ入った。
「四人部屋でこの広さは持て余しそうだな。お、ヒューリーまた一緒だな!」
ヒューリーとモンテ伍長の部屋は一緒でベッドは隣同士だった。金属とコンクリートで固められた無機質な天井、壁、床。薄暗い電灯の中、聞こえる音は同期が荷物を整理する音と大きな空調の音。ヒューリーは司令部と聞いてもっと綺麗な場所を勝手に想像していたので部屋の中を見て不安になってきていた。もはやプラトン基地に着く前の心の余裕はなくなっていた。




