転属 二
下士官教導隊長に招集され隊長室に集まった訓練生はヒューリーを含めて十二名全員が第五艦隊所属だった。教導隊長の階級は大佐であり、伍長の訓練生達から見れば教導隊長は雲の上の様な存在である。そのせいで教導隊長は小柄で穏やかな顔の持ち主ではあったが、訓練生達は極度に緊張した面持ちだった。
「第二教育小隊ヴィルム・マイヤー伍長以下十二名、招集を受け集合しました!」
訓練生の最年長の者が代表して教導隊長に報告する。
「姿勢を楽にして休んで良し、君達を呼んだのはこれからの勤務に関する重要な話があるからだ。」
教導隊長はデスクに座ると何枚かの書類を手に取り、老眼鏡をかけて書類を読みながら話を始めた。
「昨日私の元に突然月方面艦隊司令部から人事発令が届いてね、君達は本来ならば他の訓練生と同じく原隊に復帰する予定だったのだがどうやら月方面艦隊司令部へと所属が変わるようだ。」
緊張でこわばっていた訓練生達の顔に動揺が現れた。ヒューリーにも嫌な予感がよぎった。
「驚くのも無理はないな。私もこんな事例はあまり聞いたことがない。明日君達はプラトン基地行きのシャトルに乗り、司令部に行ってくれ。じ後の着任処理は向こうの人間がしてくれるだろう」
「自分達のような一兵卒が司令部に行って一体何の役に立つのでしょうか?」
マイヤー伍長が質問した。
「発令書には司令部付下士官としか記されてないな。まあ私の経験からすると仕事は士官の仕事の手伝い、悪く言えば雑用だな」
「そんな!」
「こればかりはしょうがないな。雑用の下士官というのはどこの部隊の本部にもいるもんだ。しかしこんな人数が一度に行くのは聞いたことがないがね」
訓練生達が戸惑いの表情を見せる中ヒューリーの顔はにやけていた。ヒューリーの悪い予感は外れたようだった。戦場に行きたくないヒューリーにとっては司令部で雑用に使われた方が遥かにマシに思えた。不幸中の幸いとでも言うのだろうか、ヒューリーは戦場へ行かなくて済むのなら上官の足をいくらでも舐める意気込みだった。
「以上で話は終わりだ。退出時の報告は省略して退出して良し。三ヶ月間の訓練ご苦労様。司令部での勤務頑張ってくれ。」
訓練生達が隊長室を退出すると、モンテ伍長は真っ先にヒューリーの元へ駆け寄った。
「なあ聞いたかよ!ひでえ話だぜ雑用だなんて、せっかく伍長になったのにやることは便所掃除かなんかか!?これじゃ新兵と同じ・・ってお前何ニヤニヤしてんだ気持ち悪いな!」
ヒューリーは自分がにやけている理由をモンテ伍長に話した。
「全く呆れたぜお前には、やる気の無いやつってのは前々からわかってたけどよ。『ヒューリー伍長すまないが私の尻を拭くことを命ずる』って上官に命令されるのがお前にとっちゃ名誉ある仕事かもな」
モンテ伍長が上官の真似をして話すので二人は通路を歩きながら笑い出した。
その日の夜、訓練生達は飲酒を許可され教導隊での最後の夜を楽しんだ。三ヶ月生活を共にした同期の中にはこれから戦場で命を落とし二度と会えないかもしれない者もいる。内務班の部屋の中で訓練生達が騒ぐ中ヒューリーは最悪の三ヶ月だったがせめて同期の顔だけは忘れまいと、号泣するモンテ伍長の隣で静かに呑んでいた。
翌日、キリバス軌道基地から下士官候補生過程を修了した訓練生達はそれぞれ自分の原隊がある基地へ向かうシャトルへ乗り込み、帰隊の途についた。ヒューリーを含む第5艦隊の所属だった訓練生は新たな勤務先である司令部へ向かうため、プラトン基地行きのシャトルに乗り込んだ。それぞれの不安を胸に抱えた彼らを乗せてシャトルは月へ向かって出港した。




