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5.サイバーテロ

 最初はお互いに言葉が全く通じなかったが、僅か一ヶ月あまりでハンナはデブチンの言葉が理解できるようになった。二ヶ月経つとハンナは日常の会話の範囲であれば不自由がないほどに喋れるようになった。

「君は自分がどこから来たか内緒だって言ってるけど、もうバレバレだよ。君は日本人だ。顔だってそうだし、だいいち二人だけの会話で二ヶ月で喋れるようになる訳がないよ」

「そう。じゃあ、そういうことにしておく」

「歳、聞いちゃ悪いと思って聞かなかったけど、君は何歳?」

「十進法でいうと、三百三十歳よ」

 デブチンはおやっ、という表情をしてから思い切り笑い出した。

「ははははは。ごめんやっぱり聞いて悪かった」

「あなたは?」

「俺はねえ。えーと。千三十五歳さ」

「うっそう! なわけない。三百三十五歳でしょ? そのくらいに見える」


――そのくらいに見えるって、いったいどんな見え方だ。


 読み書きの方もその後の一ヶ月の航海中にハンナは電子辞書や電子百科事典を完全にマスターし、日・英・中・韓・独・仏の六ヶ国語をマスターした。そしていつの日か一人で小説まで書くようになった。しかし、彼女の小説はどれもこれも訳のわからないものばかりで、特に日常生活の場面になると全部が全部『非日常』になってしまっていた。

 デブチンは書かれた小説を見てハンナがもしかしてエイリアンではないかと思うこともしばしばあった。


◆◇◆

 長い航海を終えて船はようやく日本の港に帰港した。

 その頃世間では大きな事件が起こっていた。数人の男性グループがコンピュータウイルスをアメリカの金融システムに注入し、取引はもとよりストックデータやマスターテーブルまでを滅茶苦茶に破壊してしまったのだ。いわゆるサイバーテロである。そのうち容疑者として逮捕された一人は訳のわからない言語を発し叫び狂っているという。

 ハンナはテレビの映像に映し出された容疑者の顔写真を見て「あっ」と一瞬我が目を疑った。

 容疑者は副船長のボーダに違いない。顔が少し変わっていて別人にも見えないことはないが、その言語と手に持たれたバナリン、もとい、バナナは彼自身であることの証だった。逃げている数人も南極で生き残った仲間の船員かもしれない。


――何故、彼がそんなことを……。


 彼らは本当に惑星の侵略者になってしまったのか。

 ハンナはその日近くにあったデジタル家電の量販店からパソコンの電子部品を数種盗み出し、その夜中、デブチンの自宅にあったパソコンを改造した。そしてこれを利用して国内の銀行のネットワークシステムに侵入し、他人の口座からデブチンの預金口座へ五百万円を振り込んだ。

 翌朝彼女は銀行に行きデブチンのカードを使って五百万円のうち百万円を現金で引き出し通帳とともにそれを仕事から帰ってきたデブチンに見せた。

 デブチンは自分の通帳を見て、目を丸くして言った。

「おまえ、いったい何者? 俺に何をしようとしているんだ」

「デブチンお願い。このお金で私、アメリカに行くから私に付いてきて」

「『デブチン』はもうやめてくれ。俺には牧田という名前がある」

「デブチンマキタ。私の仲間が捕まえられているの。お願い、私と一緒に行って」

「仲間? おまえはテロリストか。そうであればこれ以上世界を変にするのはやめろ。おまえの目的はいったい何なんだ」

「彼は私に何かのメッセージを送ろうとしてるわ。彼に会って話がしたいの」

「無理だ。ボケッ」

「私、一人では心細いの。お願い。私と一緒にアメリカに行って」


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