第8話 うわっ…俺のステータス、低すぎ…?
木人が壁にめり込んだまま、練兵場は静まり返っていた。
兵士たちの視線が痛い。数字は見えないが、きっと今ごろ、あちこちで下がっているのだろう。
「勇者殿。見事な一撃です」
教官の声が、わずかに硬い。
「ただ、あれは動かない相手だからこそ。次は、動く相手との組手を行います」
「動く相手、ですか。いきなり兵士の方に当てたら、大変なことになりそうですが」
「ご安心を。何も問題はございません」
次は教官と組み手だろうか。確かに歴戦の騎士らしい風格がある。
「よろしくお願いいたします、勇者様」
メイドが、スカートの端をつまんで一礼した。
……はい?
「ちょっと待ってください。相手って、メイドさんですか?」
「はい」
メイドは木剣を手に取った。
「では勇者様、掛かってきてください」
「いや、でも、あなたメイドですよね?」
「はい。メイドですが」
会話が成立しているようで、何ひとつ解決していない。
とはいえ、相手は女性だ。訓練でも、全力で打ち込むわけにはいかない。俺は木剣を構えた。
「では、行きます!」
「どうぞ」
軽く振り下ろすと、メイドはすっと横に動いた。空振り。
もう一度。避けられた。
三度目。角度を変えて振る。これも避けられた。
「……あれ?」
メイドは涼しい顔で立っている。息ひとつ乱れていない。
「勇者様。振る前に、肩に力が入りすぎています」
「そ、そうですか」
「動きも大きいので、次の動作が分かりやすいです」
言われてみれば、俺は振る前に、思い切り腕を引いていた。
今度は小さく振ってみる。避けられた。何度挑んでも結果は同じで、俺の攻撃は一度も当たらず、メイドは軽く足を動かすだけで全部かわしてしまう。
「俺、素早さ128なんですけど! おかしくないですか?」
メイドは、きょとんとした。
「おかしくはありませんよ、勇者様。さあ、もう一度どうぞ」
結局、先に音を上げたのは俺だった。
「……降参です」
「お疲れさまでした」
メイドは木剣を元の場所に戻した。汗ひとつかいていない。
「……本当に、ただのメイドなんですか?」
「はい。ただのメイドですが」
(ただのメイドは、攻撃を全部かわしたりしないだろ!)
聞きたいことは山ほどあったが、彼女に説明するつもりはないらしい。
「勇者様。よろしければ、こちらを」
タオルを差し出された。
――メイドの好感度:49→51
(上がった。でも、理由が分からない)
そのとき、見学していたセレスティアが拍手を始めた。
「素晴らしい訓練でしたわ、勇者様!」
「……今の、何が素晴らしかったんですか?」
「もちろん、勇者様が一生懸命に取り組まれたことです」
――セレスティアの好感度:63→64
(そこなの!?)
強さでも、剣の腕でもない。頑張ったことが評価されたのか。
8
汗を拭きながら、心の中で叫ぶ。
(好感度システムも謎だらけだけど、俺のステータスが低いのか、メイドが強いのか、誰か教えてくれ)
読んでくださり、ありがとうございました。




