第5話 単純な話じゃないみたいです。
運ばれてきたのは、ハンバーガーとフライドポテト、トマトとキノコのオイル漬けだった。
セレスティアと二人で食卓を囲む。
「一緒に食べると美味しいですね、勇者様」
彼女は終始笑っている。だが頭上の数字は、19のままだ。
「セレスティア。また、食事に誘ってもいいですか」
「仕方がない人ですね。特別ですよ」
――セレスティアの好感度:19
(変わらない。一緒に食事をするくらいでは上がらないのか。いや、下がらないだけでも上出来か)
ここで、あえて踏み込んでみることにした。
「セレスティアにとって、勇者ってどんな存在ですか?」
微笑みが、すっと消えた。
「もちろん、私の“モノ”ですわ。それと、この国を救ってくださるお方」
「そ、そうですか。この俺に任せてください」
――セレスティアの好感度:19→64
(上がった!? しかも、一気に45も)
嬉しいより先に、嫌な予感がした。
反応したのは「任せてください」だ。問題は、彼女の言う“モノ”と“国を救う”のどちらに応えたことになるのか。
後で宰相の面談がある。勇者の目的を確認するついでに、それとなくセレスティアのことも聞いてみよう。
食事が終わると、セレスティアは公務があると言って先に席を立った。
入れ替わりに、朝のメイドが現れる。
「宰相閣下がお待ちです。ご案内いたします」
――メイドの好感度:45
やはり、まだ見える。
石造りの廊下を、彼女の半歩後ろについて歩く。気のせいかもしれないが誰かに監視されている気がする。
(名前を聞きたい。でも、聞いていいのか?)
セレスティアの顔が浮かぶ。メイドに話しかけただけで、90が20まで落ちたのだ。
「……宰相って、どんな人ですか」
「厳格ですが、公平な方です。勇者様のことも、ずっと気にかけておられました」
「ありがとうございます。助かります」
「いえ。それが、私の務めですので」
――メイドの好感度:45→48
(上がった。たぶん、質問が無難だったのか)
角を曲がる直前、背後で衣擦れの音がした。
振り返る。誰もいない。
ただ、視界の端で、セレスティアのドレスと同じ色の布が見えた気がした。
メイドが足を止めた。
「こちらです。ご用の際は、いつでもお呼びください」
名前を聞くべきか。喉まで出かかって、飲み込んだ。
「どうも。……また、お願いします」
扉が開く。会議室の奥で、男が待っていた。
重厚な円卓に、大きな魔導ランプ。壁には、この国のものらしき地図が貼ってある。
「貴殿が勇者山田太郎殿か。私は宰相のリシュリューだ。さっそくだが、この国の状況と、貴殿の役割を説明しよう」
「役割、ですか」
――リシュリューの好感度:55
宰相にも数字が出たか。
立場上、出るだろうとは思っていた。ただ、メイドにも出ていた。役職や影響力は、基準ではないのかもしれない。
『勇者ちゃん。見えるのは「あなたに必要な人物」だって、教えてあげたじゃない。ゼロになったら死ぬのも、ここは譲れないから』
頭の中に、女神の声が割り込んでくる。相変わらず軽い。
(死のルールくらい譲れよ)
宰相の説明は、こうだった。
敵対勢力「魔族」の目的は、王都の奪還。そして勇者の役割は、敵の後方司令部を強襲し、指揮系統を破壊すること。
「奪還、とは? どういう意味ですか」
「王都は、魔族にとっての聖地だ。彼らは自分たちの土地だと主張している」
思わず顔をしかめそうになった。
奪還ということは、もともと向こうの持ち物だったのか。聖地なら、宗教的にも歴史的にも、絶対に引けないガチな奴じゃないか。
「世界征服を企む邪悪な魔王軍」を倒す話だと思っていたのに、土地の所有権をめぐる泥沼の歴史問題に巻き込まれた気分だ。
しかも、そんな話を、宰相はお茶でも飲むような軽さで口にした。
読んでくださり、ありがとうございました。




