↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/26

第24話 そういえば、女神っていましたね。


――救貧院。


炊き出しと言っても、やることはシンプルだ。大鍋でスープを煮込み、その上に蒸し器をセットしてジャガイモを蒸す。基本はそれだけ。


兵士たちは手際よく、火おこしや調理の準備を進めている。


大鍋に水を張り、ソーセージと乾燥レンズ豆を入れて火にかける。沸騰したら、上に蒸し器をセットして、大きめに切ったジャガイモを並べていく。


『栄養士』の本にあったとおり、ビタミンCの流出を抑えるための蒸し調理だ。蒸し上がるまで、三十分から四十分といったところだろう。



裏庭では、ミネットが子供たちと一緒に卵を集めに行っていた。


「尻尾を引っぱったらダメだにゃー!」と、楽しげな声が遠くから聞こえてくる。俺の目の前でなくても、あの猫耳キャラを徹底しているのか。もはやプロの領域だ。


「勇者様。本日は、本当にありがとうございます。最近は、鶏を潰してスープにすることもありましたので、こんなにたくさんの食材での炊き出しは、本当に助かります」


シスター・ルシアが、深々と頭を下げた。その頭の上には、小さな木の葉がのっている。子供たちと準備をしている間に、どこかで転んだのだろう。


「ルシア、礼なら、食材を用意してくれたアシュレイ家や、医療品を持ってきてくれたクリスに言ってくれ。俺は、言い出しっぺになっただけだよ」


――ルシアの好感度:82→89


(ずいぶん上がったな。それだけ、救貧院の経営が限界だったのか。いや、それ以上に、子供たちにお腹いっぱい食べてほしいという、彼女の切実な願いの表れなのかもしれないな)



そんな思考を遮るように、ルシアが声を潜めた。


「勇者様。本日は、あのデブ……いえ、院長が来ておりますが、お声はかけられないほうがよろしいかと存じます」


「ん? どうしてだ?」


ルシアが困ったように視線を向けた先には、仕立ての良い聖衣をまとった、恰幅のいい男がいた。顎の肉をたっぷり蓄え、周囲の子供たちを見下すように、ふんぞり返っている。


「院長は、その、何というか、平民に対して強い偏見をお持ちで、理不尽なことをおっしゃることが多いのです。お言葉を交わせば、勇者様がご不快な思いをされるかと」


なるほど、と俺は納得した。



確かに俺は「勇者」といっても、それはただの称号持ちで、本物の貴族ではない。王族に召喚されたから、一応は王の賓客として扱われているだけで、中身はただの現代人だ。


伝統を重んじるこの世界では、突然現れた若造が勇者面をしているのが、面白くない者もいるだろう。


「そういうことか。分かったよルシア、忠告ありがとう」


こちらも、わざわざ揉めるつもりはない。正教会とは良好な関係を築きたいし、ルシアとの仲は悪くない。あの脳筋聖女のクリスだって、協力的だ。無理をして院長と関わる必要はないだろう。


俺は大人しく子供たちと遊びながら、ジャガイモが蒸し上がったのを確認し、刻んだキャベツとキノコを鍋に入れた。あとは火が通ったら、ミネットたちが採ってきた卵を回し入れて、一煮立ちさせれば完成だ。


ソーセージとレンズ豆と卵のスープに、ソーセージの香りがついた蒸しジャガイモ。この組み合わせは、事前の兵士たちの試食会でも好評だった。美味くて食べ応えがあり、栄養も十分に摂れる。



もっとも、レシピは過去の勇者(栄養士)が残した本を参考にしているので、俺の手柄ではないのだが。


「勇者のお兄ちゃん。ありがとう!」


――ネリーの好感度:86→89


スープの完成を待ちきれない様子で、小さな女の子が、俺の服の裾を引っぱった。


ミネットが子供たちを引き連れて戻ってくる。そんな賑やかな光景の中で、なぜかこの救貧院の子供たちの中で一人だけ、好感度が表示されている少女。ネリー。


この国を救うために必要な『108人』にだけ表示されるという好感度のシステム。


本当に、こんな幼い子が、国の命運に関わっているのだろうか。そもそも、あの女神を自称する女の言葉が真実なのかすら、俺には確かめようがない。



『あら、勇者ちゃん? 私の言葉を疑っているの? 確かめる方法なら、知っているでしょ』


「は?」


脳内に、あの陽気な声が響いた。


『誰かの好感度が「ゼロ」になった瞬間、あなたは即死するわ。ね? 試してみて?』


「試してみて、じゃねーよ! 死んだら確かめようがないだろ!」


読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。