第22話 妖精の名はアスコ・ルビン。
――兵舎食堂。
クリスティーナが高笑いを響かせる中、兵士たちがぞろぞろと集まってきた。
「勇者、すまない。俺たちがふざけて発音してたせいで……」
いつもは陽気な奴らだが、止める間もなく目の前で俺が燃やされたのを見て、さすがに本気で申し訳なさそうにしている。
「いや、俺も強く訂正しようとしていなかった。それに『いただきます』がきっかけだとしても、一番の原因はこの聖女だからな」
ゴツン。
クリスティーナは、肩に担いでいた巨大な十字架を、食堂のテーブルに無造作に立てかけた。
「勇者のくせにしつこいですわ。誤解とはいえ、わたくしはすでに謝罪いたしましたのに」
謝罪の言葉なんて、ただの一言も聞いていないのだが。
「そうですわね。寛大なわたくしは、特別にわたくしのことを『クリス』と呼ぶことを許して差し上げますわ」
「よろしく、クリスティーナ」
「特別にわたくしのことを『クリス』と呼ぶことを許して差し上げますわ。親しい者たちは皆、そう呼びますの」
「……よろしく、クリス」
――クリスティーナの好感度:36→52
(最初は『8』しかなかったのに、短時間で随分上がったな。距離感がバグっているのか、この金髪縦ロールは……)
「ところで、勇者。あなたが手にしているその本、昔の勇者の手記ではないかしら?」
「ああ、正教会から借りているんだ。手記というか、色々な食材の栄養に関する記録だな」
先ほどまで読んでいた「栄養士」の本を渡すと、クリスは長い爪でページを器用にめくっていく。
「ふむふむ……あら、これは『妖精を召喚した勇者』の記録ね」
「……本当に妖精を召喚したの!?」
まさか、栄養士じゃなくて、本当に召喚士だったのか。
「ええ。直接見た人は少ないそうですけれど、当時の勇者様は、妖精『アスコ・ルビン』を呼び出したのだと言われていますわ」
「『アスコ・ルビン』……。どこかで聞いたことがあるな。なんだっけ……」
「実際、妖精『アスコ・ルビン』の祝福を受けたとされるキャベツやジャガイモ、それにレモンを食べた船乗りたちは、恐ろしい海の病にかからなかったそうですの」
ん? キャベツ、ジャガイモ、レモン……アスコ・ルビン……。
あ。もしかして、アスコルビン酸か。
「ビタミンCの正式名称じゃねーか!」
そりゃ、当時の人たちに壊血病はビタミンCが極度に不足することで起こる栄養障害だと言っても通じないだろうけどさ。
だけど、信仰心が深く、魔法が実在するこの世界だからこそ、「妖精が祝福した食べ物」という名目に置き換えた方が、すんなり受け入れられて広まったのかもしれないな。
「それから勇者、救貧院で炊き出しをするそうですわね。特別に、わたくしが子供たちの様子を見て差し上げますわ」
「……最初に燃え上がらないタイプの、普通の治癒魔法も使えるのか? それなら助かるけど」
「体力のない子供に治癒魔法なんて使ったら、かえって負担になって危ないでしょう。勇者は馬鹿なのかしら?」
(くっ……それは至極もっともなんだろうけど、こいつに言われると妙に腹が立つな!)
「そうではなく、子供たちの健康状態を診て差し上げるのですわ。それに、小さな救貧院ならまともな医療品も置いていないでしょう? 正教会からわたくしが届けて差し上げます。……ふふ、親友の頼みですもの」
――クリスティーナの好感度:52→54
もう、親友になっている。怖い。
読んでくださり、ありがとうございました。




