第20話 聖教会認定聖女、襲来。
――宮廷公文書館。
過去の勇者であり「栄養士」だった人物が遺した本を、さらに読み込んでいく。
どうやら「レンズ豆」という食材は手に入りやすく、タンパク質、食物繊維、鉄分が豊富らしい。おまけに水戻しが不要で、短時間で調理できる優れものだという。
「レンズ豆か……。どこかで聞いた気がするんだけど、思い出せないな」
独り言をこぼすと、燈がじっとこちらを見つめていた。質問してほしいのだろうか。
「燈。レンズ豆について何か知っているなら、教えてほしい」
「料理長のガストンさんなら、ご存じかと思いますよ」
確かに、兵舎食堂のメニューは豊富だ。ガストンなら知っているかもしれない。
「ありがとう、燈。今から食堂に行ってみるよ」
――燈の好感度:39→40
(上がった。質問されたのが嬉しかったのか? いや、笑顔というより、吹き出しそうなのを必死にこらえているように見えるな)
――兵舎食堂、厨房。
「おう、勇者。悪いが、新作のマヨネーズはまだできてねえぞ」
「いや、マヨネーズの話じゃないんだ。レンズ豆っていう食材を知っていたら教えてほしくて。色は茶色で、煮て食べるらしいんだけど」
ガストンは、困惑した顔を浮かべた。やはり、この世界でも珍しい幻の豆なのだろうか。
「……お前がいつも美味そうに食ってるスープに入ってる豆が、そのレンズ豆だぞ」
「へっ!?」
ガストンが顎で示した麻袋を覗き込むと、見覚えのある豆がたっぷり詰まっていた。
知らなかった。これがレンズ豆だったのか。てっきり、この地方でいう大豆か何かだと思い込んでいた。俺が知らなかっただけで、元の世界でも一般的な豆だったんだろうか。
……先ほど、燈が笑いをこらえていた理由は、これか! 「何を言っているんだ、この人は」と思いつつ、俺のプライドを傷つけないように、言うのを避けてくれたのかもしれない。
『イ・タダキ・マース!』
奥のテーブルから、もはや食堂の恒例となった、兵士たちの呪文のような叫び声が聞こえてくる。
あいつら、いつまで経っても発音が安定しないな。毎回、俺のツッコミを待っているんじゃないかとさえ思う。
俺は、食堂奥のテーブルに駆け寄った。
「お、勇者じゃん。『イ・タダキ・マース!』」
「兵士諸君。何度も言うけど、正確には『いただきます』だからね」
そんないつもの他愛ない会話をしていた、次の瞬間――。
――ドッゴーン!
凄まじい爆音に振り返ると、食堂の頑丈な扉が、派手に吹き飛んでいた。
「見つけましたわ! 勇者の名を騙る邪悪の化身! この正教会認定聖女、クリスティーナ・フォン・フローレンが成敗いたします!」
――クリスティーナの好感度:8
巨大な十字架を肩に担いだ、見事な金髪縦ロールの女性。立派な聖衣をまとった彼女が、ものすごい速さで迫ってくる。
――ゴンッ!
「痛ったあああ!?」
どうやら、あの重そうな十字架で思い切り頭を殴られたらしい。俺はあまりの衝撃と痛みで床に転がった。
「トドメですわ! 食らいなさい、地獄の炎!」
視界が一瞬で真っ赤に染まった。
「熱っ! 熱い熱い熱い!」
読んでくださり、ありがとうございました。




