第18話 聖女は慈悲深いそうです。
――救貧院。
シスター・ルシアから、救貧院の運営について、いろいろと話を聞くことができた。
宮廷公文書館の記録では、両親を亡くしたり、親戚を頼れなかったりする子供たちを救済する施設、と書かれていた。だが実態は、少し違うらしい。
この国では、子供でも働くのが一般的だ。ギルドに弟子入りして職人を目指すか、家業を手伝う。裕福な家の子なら、学び舎に通う。
働かないことは「怠惰」の罪とされる。一方で、富を独り占めする「強欲」もまた、神への罪だ。だから貴族たちは、自分の罪を薄めるための慈善として、救貧院や貧民街で炊き出しを行っている。
「すべてを否定するつもりはないのですけれどね」
ルシアは、焼き上がった魚を嬉しそうに食べる子供たちを見つめながら、静かに語った。
「救貧院に入るのは、『怠け者の烙印』を押されるのと同じです。そんな場所に入るくらいなら、飢え死にしたほうがましだ、と考えてしまう子もいるのです」
街には、働いている子供たちもいた。だけど仕事にありつけない子供たちは、本当に飢え死にするか、生きるために犯罪組織へ身を投じてしまうのだろう。
「五十年ほど前、勇者様と正教会認定の聖女様がいらした頃は、まだ良かったと聞いています。でも、時代は流れてしまって……」
魔法研究者に、仲間にコスプレをさせる奴に、弱者救済か。いろいろな勇者がいたんだな。
「昔の勇者ですか。それと、正教会認定の聖女というのは?」
「悪しきものを消去する『聖魔法』を行使できる御方のことです」
聖魔法か。もしかしてアンデッドみたいな奴もいるのだろうか。生物学的にはありえないと思うが、異世界の定番だしな。
「聖魔法は、地獄の炎で、邪悪な思想を持つ者を三日三晩悶絶させ、最終的には物理的に消滅させる、とても慈悲深い魔法です」
ルシアは、聖母のような慈愛に満ちた微笑みで、そう言った。
「それのどこに慈悲があるんだよ! 怖いよ!」
ミネットが、俺の背中をつんつんと突く。
「勇者様は『ゲン・ダーイジン族』だから、大丈夫にゃ!」
「全然安心できない。あと、現代人な」
ミネットは猫耳を器用に動かし、首をかしげて悪戯っぽく笑っている。こいつ、わざとだな。
「ルシア。認定聖女は、何人くらいいるんですか?」
「野良聖女と違い、認定聖女は同時に三名までと定められております。今は一名しかおりませんけれど」
「野良聖女ってなんだよ。自称聖女もいるのか」
それにしても、邪悪な思想を持つ者、か。その「邪悪」の定義は、誰が決めるのだろう。もしかして、正教会の意向に従わない者が、「邪悪」に分類されるのではないか。
……まあ、今ここで考えても答えは出ない。まずは、目の前の子供たちに飯を食わせよう。
救貧院の庭を確認していた兵士が戻ってきた。
「勇者、一通り見たけど、かまども壊れてない。食材と調理器具を持ち込めば、炊き出しは問題なさそうだぜ」
「分かった。ミネット、急がせて悪いけど、炊き出しの準備は早めに頼む」
正教会へのポーズも大事だが、お腹を空かせた子供たちを前にして、のんびり待つのは気分が悪い。
「アシュレイ家は、週に何度も貧民街で炊き出しをしてるにゃ。一か所くらい増えても、問題ないにゃ」
「ありがとうございます、勇者様、アシュレイ様。これで食費が浮きますわ」
――ルシアの好感度:81→82
(上がった。まあ、理想だけじゃお腹は膨れないもんな)
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