第17話 シスターは魚の数を数える。
――救貧院。
「シスター! 勇者様が来たよ! あと兵士さんもたくさん!」
救貧院の大きな扉を開けて、ネリーが元気な声を響かせた。
扉の奥から現れたのは、聖衣をきっちり着こなし、凛とした瞳でこちらを見つめるシスターだ。いかにも厳格で真面目な聖職者のそれだった。
(年齢は二十歳くらいか。メイドとは違うタイプの美人だな。治癒魔法の使い手らしいし、心証を良くしておけば、何かあったときに頼みごとができるかもしれない)
「勇者様は、シスターのような方がお好みなのですか?」
いつの間にか、メイドが俺の横に立っていた。さっきまで、気配すらなかったのに。
「も、元の世界では、宗教関連の施設や、そこで働く人と関わりがなかったからね。少し気になっただけだよ」
――メイドの好感度:51→52
(少し上がった。相変わらず、上がる理由が分からない)
シスターは、こちらに気づくなり、嬉しそうに小走りで駆け寄ってきた。
事前に連絡はしてあったが、完全武装の護衛兵に囲まれているのだ。緊張させてしまったのかもしれない。
「へぶしっ!?」
次の瞬間、シスターは何もない平らな芝生で、見事に転んだ。
だが、彼女は何事もなかったかのようにすっと立ち上がり、聖衣の土をポンポンと払うと、今度はゆっくり近づいてきた。
「勇者様ですね。私はシスター・ルシアです。ここで、子供たちの手助けをしております」
「どうも。勇者の山田太郎です。突然の訪問で、ご迷惑をおかけします」
――ルシアの好感度:68
(まあまあな数値だ。勇者の肩書か、それとも権力者と見られているのか)
挨拶を返しながら、俺は彼女の頭を凝視していた。ちょこんと、緑の草がのっている。本人が澄ましているので、黙っておいたほうがよさそうだ。
「シスター・ルシア。お近づきのしるしに、魚を持ってきました。子供たちに食べさせてあげてください。それと、院長にもご挨拶をしたいのですが」
「あのデブが、ここに来るわけが……おほんっ! げふん!」
凄まじい空咳でごまかし、ルシアはふっと慈愛の微笑みを浮かべた。
「失礼いたしました。院長は外で、子供たちのために活動されております。非常にお忙しい方で、救貧院には滅多にお見えになりません」
(言い直せてないぞ。なかなか闇が深そうだな)
兵士たちが大量の魚を運び込むと、子供たちが目を輝かせて集まってきた。
「わあ、魚がいっぱいある! みんな、見て見て!」
「シスター、今日はごちそうだね!」
「ありがとう、勇者のおじさん!」
「……俺はまだ二十八歳だ。おじさんではなく、お兄さんと言いなさい」
夕食にはまだ早いが、勇者一行との親睦会という名目で、少し早めの食事をすることになった。
魚はぶつ切りにされ、網焼きにされる。味付けは塩と、救貧院の敷地内で育てているハーブだけ。シンプルだが、いい匂いだ。
聞けば、この救貧院の食事は一日二食が基本らしい。貴族が行う炊き出しは、お腹いっぱい食べられる、数少ない楽しい日なのだという。
(この食事会も、根本的な解決にはならないんだろうけど。それでも、子供たちにはお腹いっぱい食べてほしいな。子供たちは全員で三十人くらいか、魚は五十匹以上ある。食べきれなくても、保冷の魔道具があるということなので明日に回せるだろう)
「うふふふふ……っ」
背後から漏れた不気味な笑い声に、思わず振り返る。
そこには、据わった目で、焼き上がる魚の数をじっと数えているシスター・ルシアがいた。
「これで……今月の食費が浮きます……!」
――ルシアの好感度:68→81
やけに好感度が上がったな。魚は親睦を深めるのに最高のアイテムだったようだ。
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