第16話 善意だけでは足りないよね。
鍛冶ギルドでフライパンを受け取り、次の視察先である救貧院まで歩くことにした。馬車は大通りしか通れないし、何より街の様子を直接見たかった。
思ったより、いろいろな店がある。ただ、雑貨屋のような店は見当たらない。専門店ばかりだ。
気になったのは、根菜と葉野菜が別の店で売られていることだった。野菜ギルドが二種類あるのだろうか。
「勇者様。魚が売ってるにゃ」
ミネットは尻尾をピンと伸ばし、俺の袖を引っぱっている。
(コスプレなのに器用に動かすな。相当練習したんだろう)
「ミネットは、魚が好物なのか?」
「キャラ付けにゃ。伝統として引き継いでるにゃ」
「……キャラ付け。ごめん。昔の勇者がしたことだけど、すみませんでした」
あの魚は、王都でも養殖されている淡水魚だったはずだ。安くはないが、庶民でも買える値段らしい。
ちょうどいい、救貧院への手土産にしよう。幸いにして経費として金貨はたっぷりと貰っている。
これは賄賂ではない。社会人として、挨拶の品を用意するのは当然のことだ。
救貧院のシスターが治癒魔法の使い手であることとは、無関係である。
――救貧院。
ため池で、子供たちが草の茎のようなものを洗っていた。
「ここの孤児たちは、働かない奴らなんだ」
子供たちを眺めていた俺に、兵士の一人が話しかけてきた。
「働かない?」
「街で見ただろう。子供だって、掃除の仕事くらいある。俺だって両親が死んだ後は、城壁の石を運んで、弓の練習をして兵士になった」
兵士は自分の胸を、トントンと叩いた。
「国から配給はないのか?」
「あるさ。救貧院のため池で、麻布の材料を洗う仕事をすれば、毎日パンとスープが配給される。救貧院は、働かない子供たちの場所だ」
「……そうか」
思うところはあるが、俺にできることはない。仮に俺の裁量で仕事を紹介しても、孤児は他にもいる。
子供に職業選択の自由を与える、なんて、考えたこともなかった。
「偽善だと分かってるけど、何とかしたいな」
「勇者様は、お人好しだにゃ。伝承のとおりだにゃ」
ミネットが猫耳をピクピクさせながら、俺の顔を覗き込んできた。
「まあ、俺は現代人だからな」
「ふーん。ミネットは、『ゲン・ダーイジン族』が好きだにゃ」
「種族みたいな言い方するな」
――ミネットの好感度:48→53
(お、上がった。ミネットには友達のように接する。いや勇者の仲間として接するのが良いのかもしれない)
とはいえ、国家の経済構造に組み込まれた救貧院の運営方針を、俺が変えるのは不可能だ。四角いフライパンギルドの新規立ち上げ……。さすがに無理があるな。
ならば、食料の差し入れくらいが限界だろう。
宮廷公文書館で読んだが、貴族には「持つ者は施さねばならない」という宗教的な義務感があるはずだ。
「ミネットの家は貴族だったな。次の炊き出しのとき、ジャガイモと蒸し器を用意してくれ」
「蒸し器ですかにゃ?」
「ジャガイモの皮には栄養があるんだ。皮ごと食べるなら、蒸したほうが食べやすい」
芋類は加熱しても、デンプンがビタミンCを守ってくれる。茹でるとビタミンCが水に溶け出してしまう。そんな説明をしても、通じないだろう。
そもそも俺自身、テレビの『3分クッキング』で聞きかじっただけだ。理屈までは説明できない。
「皮には毒があるにゃ。勇者様は、顔だけじゃなく頭もイマイチにゃ」
「おい! ……まあいい。しっかり洗って、芽と変色した部分を全部切り取れば、問題ないよ。もちろん変色した部分が広い場合や、苦味が強い場合は、食べないほうが安全だけどね」
そのとき、ため池から、七、八歳くらいの女の子が駆け寄ってきた。
「お兄さんは、勇者様なの? 私はネリーです! シスター、呼んでくるね!」
――ネリーの好感度:86
(高いな。初対面でこの数字か。……いや、子供相手に何を警戒してるんだ、俺は)
読んでくださり、ありがとうございました。




