第14話 伝統は守らないとね。
目の前に立っていたのは、猫耳と細い尻尾をもつ少女だった。
「……語尾まで含めて、ずいぶん分かりやすいキャラが来たな」
猫耳の少女が歩き出すと護衛の兵士たちが、俺を守ろうと取り囲む。
だが、それより早く、メイドが少女を拘束していた。見ると、その手には短剣まで握られている。
「何もしないから、放してにゃー」
練兵場のときもそうだったが、動きがただのメイドとは思えない。勇者専用メイドは、護衛を兼ねているのか。いや、監視かもしれないな。
俺が驚いていると、メイドは満足げに微笑んだ。
――メイドの好感度:54→57
(上がった。俺が驚いたのが、嬉しかったのか?)
「メイドさん。とりあえず、放してあげてください」
メイドが手を離す。少女は肩を回しながら言った。
「もう少しで、耳飾りを落とすところだったにゃ」
……ん? 耳飾り?
「えーと、その耳、本物じゃないのか?」
「頭の上に耳が生えてる人間なんて、いるわけないにゃ。勇者様は、頭が悪いにゃ」
(なんだろう。普通にムカつく)
いや、分かっていたよ。生物学的に無理があるのは。でも、異世界なら獣人はお約束じゃないか。
「そもそも、なんで俺が勇者だと分かったんだ?」
「『勇者視察団』って書いた旗を持った兵士が歩いてれば、誰でも気づくにゃ」
「なんでそんなことに!」
メイドが近づき、耳元で囁いた。
「セレスティア様が、『私の勇者様』を皆に知ってもらうために、用意させました」
(「私の勇者様」か。ものすごく含みのある言い方だ)
「まあいい。確かに、俺は勇者と呼ばれている。それで、君は何の用だ?」
「私の名前は、ミネット・ショコラ・アシュレイ。勇者様に仕える、由緒正しき一族ですにゃ!」
――ミネットの好感度:21
(低い……! 由緒正しき一族のわりに、俺への評価はずいぶん世知辛いな)
「アシュレイ家は、代々勇者様にお仕えしてきた誉れ高き家系ですにゃ。不運にも先代の勇者様にはお目にかかれませんでしたが……。ぜひ、このミネットを配下に加えてほしいにゃ!」
(会えないはずだ。先代は、召喚されて二か月で死んだ。しかも毒キノコで)
「事情は分かったけど、俺の一存では決められないよ。雇用関係のことは、事前に書面で申請してもらわないと」
「勇者様、よろしいのではないでしょうか」
メイドが静かに口を挟む。
「アシュレイ家は伝統貴族です。身元はすぐに保証できます。それに、もし詐称なら死罪は免れません。アシュレイ家が黙っていないでしょう」
貴族の名を騙れば死罪か。科学技術が進んでも、そういう文化は変わらないらしい。
いや、違うな。俺の価値観で、この世界の文化や伝統を否定するのは、正しくない。料理のレシピを伝えるのとは、訳が違う気がする。
「分かった。正式な採用には国王の許可が必要になるが、これからよろしく頼む、ミネット」
「よろしくですにゃ!」
――ミネットの好感度:21→22
(1しか上がらないのかよ)
「ところで、猫耳と語尾は、なんで伝統なんだ?」
「昔お仕えした勇者様が、『ケモ耳娘は猫耳じゃなきゃ嫌だ』とおっしゃったにゃ。それ以来、アシュレイ家は伝統として引き継いでいるにゃ」
過去の勇者の趣味じゃねーか。
読んでくださり、ありがとうございました。




