第12話 勝利の言霊だってさ。
――兵舎食堂、厨房。
『――いっただっきまーす』
この国で、食事の前に「いただきます」と言うのは、俺とセレスティアだけのはずだ。
そして、聞こえてきたのはセレスティアの声ではない。若い男たちの声だ。
俺は、声のするほうへ駆け寄った。食堂の一番奥のテーブルだ。
『イ・タダキ・マース!』
若い兵士たちは、呪文のように叫んでから食事を始めた。
「お、勇者じゃん。今ちょうど、勇者の国の『勝利の言霊』を練習してたんだよ」
「……勝利の言霊? って何だよ」
「勇者の国では、敵の命を奪う時に言うのだろ。勇者付きのメイドから聞いたぜ」
(そりゃ言葉の意味としては「命をいただく」だけどさぁ)
以前、メイドに「いただきます」の意味を聞かれたことはある。だが本来は、食材や生産者、料理人への感謝の言葉だ。伝言ゲームのように、微妙に意味が変わって伝わってしまっている。
それにしても、今だ名前を聞けていないあのメイドは、勇者専属だったのか。どおりで他のメイドを見かけないはずだ。
「あー、兵士諸君。『イ・タダキ・マース』じゃなくて、『いただきます』だからね」
「……『イ・タダキ・マース!』」
お前たち、ハンバーグやマヨネーズは流暢に言うくせに、なんで「いただきます」だけカタコトなんだよ。
「あ、勇者様。兵士の皆様に、しっかり『勝利の言霊』を伝えておきましたわ!」
気配などまったくなかったのに、いつの間にか、後ろにいつものメイドが立っていた。
「あの、メイドさん。兵士たちには、正しく伝わっていないみたいですが……」
「勇者様。兵士の皆様を、悪く言わないでください!」
「いえ、そうではなくて……」
――メイドの好感度:51→53
(なんで上がるんだ。今の会話のどこに好感度が上がる要素があるというのか)
訂正したいが、訂正するとメイドの好感度が下がるかもしれない。動くのは危険だ。
「それと勇者様。ご要望の四角い銅製のフライパンは、鍛冶ギルドで作れるそうです」
「それは良かった。やっぱり、卵焼きが食べたいので」
厨房の魔導コンロは、火力は十分だ。だが卵焼き器がなかった。鍛冶ギルドの職人なら、作れるだろう。たぶん。
「セレスティア様も、勇者様の手料理を楽しみにしておられますよ」
まあ、セレスティアならそうだろう。むしろ、最初に食べさせないと危険な気がする。
「私は、セレスティア様のご趣味を邪魔するつもりはありません」
――メイドの好感度:53→54
(今、趣味って言った!)
読んでくださり、ありがとうございました。




