第10話 素人はキノコに手を出すな。
――宮廷公文書館。
司書補の燈から、百年前に召喚された勇者が残した手記を受け取った。勇者は短期間で召喚される場合と、ある程度の期間を開ける場合があるようだ。
俺は、手記の表紙を開いた。
それは、手記というより、日記、あるいは観察記録のようだった。
『この世界は、地球とよく似ている。重力、大気の組成、生物の進化。いずれも大きな違いは見られない。しかし、夜空の星座が異なる』
……ワンチャン、未来の地球という可能性も考えていたが、やっぱり異世界か。星座が違うから別の世界だと判断するなんて、俺には思いもしなかった。
『魔法についても興味深い発見があった。炎の魔法は、特定のエネルギーによるガスの発光現象らしい。魔導灯は、エネルギーを光へ変換する装置だと考えられる』
なるほど。魔法は物理現象なのか。
『ただし、その膨大なエネルギーがどこから供給されているのか、根本的な原理は解明できていない。非常に興味深いが、解明する前に私の寿命は尽きるだろう。次世代の山田太郎が、答えを見つけてくれることを願う』
俺は手記を閉じた。
(同じ名前を持つ過去の山田太郎には悪いが、俺は魔法研究者じゃないんだ。俺が知りたいのは、好感度システムの仕様だ)
結局、なぜ歴代の勇者が山田太郎なのかは分からなかった。ただ、最初の勇者も山田太郎だったらしい。もしかすると、ただの慣習で、特別な条件や制約はないのかもしれない。
それと、もう一つ。
『勇者ちゃん。好感度システムは、あなただけよ。だから過去の記録を調べても意味はないわ』
(即死ルールを、特別に追加しないでほしい)
召喚の女神を自称する死神のような奴だ。毎回、口調が軽いのも、演技じゃないのかと疑いたくなる。
「燈さんは、先代勇者について、何かエピソードをご存じですか?」
100年前はともかく、宮廷公文書館司書補の立場なら、直近で召喚された勇者のことを何か知っているかもしれない。
「直接の面識はないのですが、『電波の届かないスマホは、ただの板だ』と、よく口にされていたそうです」
それは、俺もそう思う。
そもそも、電波どころか電気がない。もっとも、全裸で召喚された俺は、スマホも財布も持っていないのだが。召喚場所が森の中だったら、その日のうちに死んでいたな。
「先代の勇者は、いつ頃の方なんですか?」
「三年前です。二か月ほどで亡くなったと聞いています」
「結構、最近じゃねーか!」
思わず、素で叫んでしまった。
しかも、召喚されてたった二か月で死んだ。これは、身を守る方法を真剣に考えなくてはならない。特に根回しは急務だ。
「燈さん。先代は、なぜ亡くなったんですか。魔族との戦いですか?」
重要な質問だ。ステータスは高くても、俺のレベルは1のまま。今、戦場に連れ出されたら、確実に死ぬ。
「食あたりです」
「へっ?」
「キノコがお好きだったそうで。森でのキャンプ中に……」
信じられない。世界を救うはずのチート持ち勇者が、魔王の呪いでも暗殺でもなく、キノコの毒で二か月でロストか。
……異世界、危険すぎないか?
俺は、食堂で出される料理の原材料を確認することに決めた。
読んでくださり、ありがとうございました。




